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アイヌ・シンポジウム開催!

 「先住民族アイヌに学ぶ集い」と題するシンポジウムが2025年2月2日(日)に東京都小金井市の「マロンホール」で開かれ50名を超える聴衆が参集した。主催は「千曲川・信濃川復権の会」。
 この集いは同会が発行する「奔流」の創刊15周年記念として開かれた。
 主催団体の事務局長で「奔流」編集長の矢間秀次郎より開会挨拶があった。「「奔流」というのはほとばしる流れを意味します。水は澱んだら腐ります。今の日本の状況は腐り果てているのではないかとの批判的な気持ちを込めて「奔流」に関わっている団体です」。
 「明治時代に作られた旧土人保護法が廃止され、7年前に超党派でアイヌ民族新法が出来ました。それには付帯決議があって、5年経ったら必要な見直しをするとあります・・・国民が広く関心を持たない限り、少数派は少数派で差別の構造に組み込まれてゆく」。

矢間秀次郎さん


 「”和人は本当のことが分かっていない。この法律で私たちが観光資源として扱われているのではないか”。そう疑問を私にぶつけてきたアイヌの女性の方がいました。私は沈黙してしまいました」と矢間事務局長は述べた。
 続いて主催団体の共同代表である関島保雄弁護士も挨拶に立ち、同団体がもともとは三鷹などを流れる野川を清流に戻そうということで立ち上がったことを説明し、現在、ダムの問題をはじめ全国で公共事業が災害をまき散らしているのではないかとの問題意識で活動していると述べた。
 そして関島弁護士はアイヌの聖地である二風谷で建設されたダムに関して裁判でそうした先住民族の聖地を取り上げる権利はないという判決を出したが、すでにダム建設はされており原状回復なされなかったことを話した。

関島保雄弁護士


 東京大学大学院でアイヌなどの研究をしている田中駿介さんから基調講演があった。田中さんはまずこの日の講演のタイトル「先住民族アイヌの今日的課題と展望」に関して鋭い指摘をすることで話を始めた。
 「今日的課題を抱えているのは誰なのか?」と疑問を呈して、「これはアイヌ問題ではなく、日本人であり日本政府の問題です。だからタイトルは「日本政府(日本人)の今日的課題と先住民族アイヌをめぐる展望」というのが正しいと考えます」と田中さん。
 田中さんはまず、日本人がアイヌの意向など歯牙にもかけずに核廃棄物処理施設などをアイヌの地に建設しようとしてきたことを取り上げた。
 「原発から出る高レベル放射性廃棄物は「本当に安全だ」と政府は言っていますが、ならばなぜ東京にもっていかないのかという問題だと思うのです。最初、幌延に最終処分場を作ると言っていましたが、それに対してノーと言われたので代わりに研究センターの建設計画となったのです」。
 「仮に知事が合意したとしても、先住民族の地にそのようなものを作ることはまったく差別的なことではないかと問題提起したい。アイヌの人たちへの説明や十分な合意形成がほとんどなされていません」。

田中駿介さん


 田中さんは「環境レイシズム」という言葉を紹介した。
 アメリカでは有害廃棄物処理施設が黒人や先住民の移住区に建てられるなど、貧困やマイノリティなどが環境汚染の被害になることを「環境レイシズム」と言わざるを得ないと田中さんはいう。
 原発というのはまずウランの採掘の段階から先住民の被爆の問題があり、発電所においては黒人など周辺化された労働を必要とし、核のごみの処分においては当局によってアイヌの地が奪われているように「マイノリティを危険にさらしている構図があるのです」。
 最近では経産省幹部の「核のごみを北方領土で処分したらどうか」との発言が問題になった。田中さんは「許されない発言をしました・・・北方領土は日ロの問題として取り上げられますが、どちらも入植者たちです。どちらもイスラエルなんです。国際政治も先住民族からの視点で見ると全く違ってくるのです。まさにその視点が問われているのです」と話した。

田中さんが作成した資料


 アイヌを取り上げた「アバター」そして「ゴールデンカムイ」について田中さんは話を進めた。田中さんによると、「アバター」は現実社会における「資源開発vs.先住民族による抵抗」の寓話で、「ゴールデンカムイ」はアイヌのヒーローを演じているのが日本人の芸能関係者であることは一種の「ホワイトウォッシング」ならぬ「ジャパンウォッシング」だという。
 次に田中さんは旭川の北門中学校の郷土資料室と「アイヌ神謡集」の編訳をしたが早逝してしまった知里幸恵さんの話をした。
 田中さんは「差別・文化収奪の歴史を教育現場で学ぶ意義」を指摘し、本当はアイヌの人々から土地を奪っておきながら「アイヌの人々に土地を与えた」という歴史修正主義について指摘、それと闘う必要を強調した。
 「差別と土地収奪の歴史を知ること。「寝た子を起こすな」ではなく「差別は無知から生まれる」のです。歴史修正主義と闘い、差別を限りなくゼロにしていかないといけない。差別に対する正当な怒りを呼び覚ますことが非常に大切です」と田中さんは述べた。

会場の様子

相談なく和人が作った法律には縛られない
 田中さんの講演の後、映画「カムイチェプ~サケ漁と先住権」(2020年/93分/藤野知明監督)を上映した。
 紋別アイヌ協会長の畠山敏さんは丸木船に乗り網を使ってサケ漁を行うと役人たちがやって来て止めさせようとする。
 しかし、畠山さんは漁を続行した。
 畠山さんの友人である木村二三夫さんの言葉が印象的だ。
 「獲りたいからやっているんだ。これが儀式の始まりなんだ。許可を得てやることじゃないって主張してるんだよ。日本政府の法律からしたら違法かもしれないけど、誰が作った法律なの?アイヌに相談した?それを押し付けるの?アイヌ全体の気持ちが分かってもらえなくて残念だ」。
 畠山さんは北海道の条例違反だとして漁に使った網2枚と魚を入れた籠3つを押収され、3日間供述調書を取られた。
 「和人からみたら反抗的かもしれないけど、自分からしたら当たり前のことをしただけだ」と畠山さんは胸を張った。
 そして専門家の話として、国際法的には先住民族の権利は守られる流れとなっており、実際に米国アラスカ州や豪州ではそうなっているという。
 そして日本でも、先住民族の権利に関する国連宣言、国際人権規約といった国際法は拘束力を持っており、日本政府は国連から再三勧告を受けているにもかかわらずまったく無視を決め込んでいる。
 その解説の後、畠山さんが再び画面に登場して言った「サケを60匹獲った」とし、許可なくサケを獲ったというけれど、それは紋別のムベツ川でのカムイチェプの儀式のためなのだと話した。

アイヌ伝統楽器ムックリとトンコリを演奏
 最後にアイヌ文化伝承者の宇佐照代さんのムックリ、トンコリの演奏があった。まず、「笛」のような楽器「ムックリ」のひもを右手で引いて、本体を咥えて音を出す演奏から始まった。
 次に即興歌「ヤエサマ」。
 宇佐さんは歌詞を説明したーー「山を越えて 海を越えて 父よ母よ 私の思いを父と母のもとへ届けておくれ 鳥のカムイよ」。
 そして子守唄「イフンケ」を歌った。

ムックリを演奏する宇佐照代さん


 歌い終わると次に宇佐さんはトンコリの説明などをした。
 「カラフトアイヌの人たちが使っていたと言われています。私のおばあちゃんもエトロフ出身です・・・いつかエトロフに行ってみたいです。ロシアのものでもない、日本のものでもない、みんなのものだから、一緒に仲良く暮らせばいいっておばあちゃんは言っていました」。
 宇佐さんは「魔除けの歌」をトンコリを演奏しながら歌った。
 トンコリは両手の指ではじいて演奏する5本の弦のアイヌの伝統楽器だ。
 「魔除けの歌」の後、「ハロローロー、ハロローサー、ハロローエー」との歌詞を観客とともに掛け合いながら歌い上げて大団円となった。

トンコリを演奏する宇佐照代さん


 宇佐さんは東京は新宿区のJR新大久保駅近くでアイヌ料理店「ハルコロ」をやっている。そのハルコロが舞台で宇佐さんも出演する映画「そして、アイヌ」が3月半ばからポレポレ東中野で上映される予定だ。

 


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