デ・キリコ展を見た!
今年有数の美術展だろう。そう、シュルレアリスム芸術に大きな影響を与えたジョルジョ・デ・キリコのおよそ70年にわたる画業を概観出来る、日本では10年ぶりの大規模な回顧展に行ってきた。
「デ・キリコ展」が2024年8月29日(木)まで東京都美術館(東京・上野公園)にて開かれている。
簡潔明瞭な構成で広場や室内を描きながらも、歪んだ遠近法、モチーフの脈絡のない配置、幻想的な雰囲気によって、日常の奥に潜む非日常を表した映画を描いたデ・キリコ(1888-1978)。
それら1910年代の作品は後に「形而上的絵画」と名づけられ、サルバドール・ダリやルネ・マグリットといった後のシュルレアリスムの画家をはじめとした数多くの芸術家たちに衝撃を与えた。
1919年以降は、伝統的な絵画技法に興味を抱くようになり、古典絵画の様式に回帰していく。同時に、以前の形而上絵画の題材を取り上げた作品も頻繁に制作するなど、90歳で亡くなるまで創作を続けた。
〇SECTION1「自画像・肖像」ー 最初のセクションでは、肖像画とりわけ自画像に注目する。デ・キリコは生涯において何百枚もの自画像を描いている。その変遷をみると、彼の70年におよぶ制作活動の各時期における研究成果が反映されているのがわかる。デ・キリコは自画像において、様々な衣装をまとい自己を演出している。
〇SECTION2「形而上絵画」-1906年に入学したミュンヘンの美術学校を中退したデ・キリコは1909年の夏にイタリアのミラノへと居を移す。ミラノとそれに続くフィレンツェでの短い期間にフリードリヒ・ニーチェらの哲学から着想を得た絵画を制作。そして1910年代、全く新しい絵画を生み出してゆく。非日常、神秘あるいは謎を表した作品群はのちに自ら「形而上絵画」と名づけ、シュルレアリストなどの芸術家たちに影響を与えた。
〇SECTION2-1「イタリア広場」ーデ・キリコは、ある日、見慣れたはずの街の広場が、初めて見る景色であるかのような感覚に襲われた。これが形而上絵画誕生の「啓示」となった。「イタリア広場」のシリーズは、その原体験と密接に関係しており、柱廊のある建物、長くのびた影、不自然な遠近法により、不安や空虚さ、憂愁、謎めいた感覚を生じさせる。
〇SECTION2-2「形而上的室内」ーデ・キリコは第一次大戦勃発により軍から召集される。1915年にフェッラーラの病院に配属となった。その地で絵画に変化が生まれ始める。彼は、この町の家の室内、店先のショーウインドウなどに魅せられて、室内画を制作していくのだ。つまり広場から室内へと変化した。このシリーズは、線や四角、箱、地図、ビスケットなどのモティーフを組み合わせて構成された。
〇TOPIC1「挿絵」(神秘的な水浴)ージャン・コクトーの著作「神秘」の挿絵として制作された。
〇SECTION2-3「マヌカン」ーデ・キリコに特徴的なモティーフのひとつ。これにより、古典絵画において重要なモティーフであった人物像を他のモティーフと同じモノとして扱うことが可能となった。マヌカン(マネキン)はミューズや預言者の役割を担っている。
〇TOPIC2「彫刻」
〇SECTION3「1920年代の展開」-1920年代、デ・キリコは従来のマヌカンに加え、「剣闘士」などの新たな主題にも取り組む。その新しい主題のひとつが「室内風景と谷間の家具」。これらの作品では、海や神殿、山々など、本来は外にあるはずのものが天井の低い部屋の中にあり、逆に室内にあるべき家具が外に置かれており、ちぐはぐで不穏なイメージを作り出している。
〇SECTION4「伝統的な絵画への回帰」ー1920年ごろから、ティツィアーノやラファエロ、デューラーといったルネサンス期の作品に、次いで1940年代にルーベンスやヴァトーなどバロック期の作品に傾倒し、西洋絵画の伝統へと回帰していく。過去の偉大な巨匠たちの傑作から、その表現や主題、技法を研究し、その成果に基づいた作品を描くようになる。
〇SECTION5「新形而上絵画」-デ・キリコ最晩年1960年代後半以降の形而上絵画の形式を指す。それらは「新形而上絵画」と呼ばれ、若い頃に描いた広場やマヌカン、そして挿絵の仕事で描いた太陽と月といった要素を画面上で総合し、過去の作品を再解釈する新しい境地に到達していく。
開室時間は午前9時半から午後5時半、金曜日は午後8時まで。入室は閉室の30分前まで。休室日は月曜日と7月9日(火)~16日(火)。ただし、7月8日(月)、8月12日(月・休)は開室。
観覧料は一般2200円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1500円、高校生以下無料。
土日祝および8月20日(火)以降は日時指定予約制。
問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)まで。公式サイトは https://dechirico.exhibit.jp/
この展覧会は2024年9月14日(土)から12月8日(日)まで神戸市立博物館に巡回する予定となっている。