映画「奈緒ちゃん」シリーズ
生まれつきてんかんを抱える奈緒ちゃん。その奈緒ちゃんと家族、そして地域の仲間たちの日々を追ったのがドキュメンタリー映画「奈緒ちゃん」シリーズである。監督は奈緒ちゃんの母親の弟、伊勢真一さんである。
第一作目が「奈緒ちゃん」(1995年)。
いわゆる福祉映画かと思うと全く異なっている。ことさらに病を抱える不自由さを描くわけではない。どことなく懐かしい光景や人々の中に写しだされる奈緒ちゃん一家の日常を観ていると、自分もその中の一人であるような錯覚をしてしまう。そんな自然体の映画だ。
朝ごはんの目玉焼きを焼いているお母さん。仕事に行く支度をするお父さん。いつだってどこにでもある日常の風景。
奈緒ちゃんを育み育まれて
伊勢監督が奈緒ちゃんと出会ったのは1983年1月3日。奈緒ちゃん9歳のお正月のこと。横浜市郊外に住む一家ー西村奈緒、西村信子(お母さん)、西村大乗(お父さん)、西村記一(お兄ちゃん)。
撮影が進むにつれ、奈緒ちゃんはどんどん元気になっていったと伊勢監督は言う。「一番力になったのは、本人の「生きる力」であったことは間違いない。スゴイと思う。さらにスゴイと思うのは、奈緒ちゃんの「生きる力」は自分だけでなく、家族や地域の人々をも育んだことだ」。
「ずっと撮り続けて、奈緒ちゃんは生きることが大好きなんだ、という当たり前で大切なことに気がついた。奈緒ちゃんの「いのちの力」は生きることが大好きだから湧き上がってくるような気がしてきた」。
「奈緒ちゃんが「いのち」を大好きだから「いのち」も奈緒ちゃんを大好きになったんだ。「いのち」は生きる方向に向かうのだから・・・」。
第一作目は奈緒ちゃんの誕生から20歳になるまでを描いている。
そして第二作目は、奈緒ちゃんの母親が所長を務めるちいさな地域の作業所の名前を冠した作品「ぴぐれっと」(2002)だ。
最初は通っていた奈緒ちゃんだが、やがて「ぴぐれっと」が作ったグループホームで暮らし始めて自立する。その過程を「ぴぐれっと」と第三作目の「ありがとう」(2006)で伊勢監督は描いた。
「育み、育まれる家族のしあわせ」という言葉は第一作目「奈緒ちゃん」のキャッチフレーズだったが、その家族の中心にいたのは常に奈緒ちゃんだった。伊勢監督を含めた「映画のおじさんたち」にも「しあわせ」のオーラのようなものをたっぷりと振りまいてくれたという。
そして第四作目が「やさしくなあに」(2017)。「けんかしちゃいけないよ。やさしくなあに」。奈緒ちゃんの口癖だ。これは家族の映画でもある。ひたむきに生き続ける奈緒ちゃん一家の暮らしの日々。映画を観た人はきっと、自分自身の家族との日々を思い返すだろう。
撮影開始時に9歳だった奈緒ちゃんは50歳に。お母さんは80歳になった。伊勢監督は現在、第五作目を撮影中だ。来年の公開を目指しているという。製作・上映費のカンパを募っている。
伊勢監督は1949年、東京生まれ。長編ドキュメンタリー映画のデビュー作が「奈緒ちゃん」。1995年、毎日映画コンクール記録映画賞グランプリほか多数受賞。以来、長年にわたり自主製作・自主上映で撮り続け、「ヒューマンドキュメンタリー」分野で数多くの作品を手がけてきた。
2012年、日本映画ペンクラブ功労賞。翌年、シネマ夢俱楽部賞受賞。
「奈緒ちゃん」シリーズ映画のDVDーBOXの通販も行っている。
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