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イコモス外苑見直し案批判

 神宮外苑再開発について事業者ーー三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事ーーが今月初めに見直し案を公表したのを受け2024年9月24日(火)、一般社団法人日本イコモス国内委員会の岡田保良委員長と石川幹子理事が東京都庁記者クラブで会見を開いた。
 石川理事は関係するステークホルダーが参加するパブリックな協議がなく、その重要性を事業者が理解していないと批判した。
 また、今回の見直し案についても開発によって水、風、熱、日照にどのような影響をが生じるか、それによって樹木がどうなるのかに全く触れていないと石川理事は指摘した。

ヒートアイランド現象
 特に「ヒートアイランド現象はイチョウに非常に大きな影響を与えており、何もしなければ明日にでも枯れてしまう」と危機感を露わにした。
 そのうえ、今度の再開発によって超高層ビルや新たな野球場などの「熱の塊」が多数出来てしまい、状況を悪化させるという。
 そして、石川理事は「第一次の伐採だけで3000本。2022年に新宿区が2回にわけて風致地区だが伐採を許可しました。そして2次、3次合わせたら5000本とか大変な伐採数になります」と話す。
 「事業者は伐採本数は減っている、努力していると言っていますが、間違いです。大量の伐採が一年間延期されているだけで実際は目の前に迫っています。実態は何も変わっていません」と強調した。

神宮外苑の象徴である4列のイチョウ並木(2024年9月16日:筆者撮影) 
よく見ると衰退が著しい(2024年9月19日:石川幹子氏撮影)

 今年9月9日に公表された見直し案で事業者は、高さ3メートル以上の樹木の伐採数を計画から124本減らし、4列いちょう並木の保全のために神宮球場を約10メートル後退(セットバック)させるなどとした。
 これを受けて、小池百合子都知事は「都民の理解と共感を得られるよう事業者にしっかり取り組んでもらいたい」と話した。
 都は昨年9月、事業者に樹木の保全方法を見直すよう求めていた。それに対する事業者の答えがおよそ1年経って出てきたというわけだ。

日本イコモス国内委員会の岡田保良委員長と石川幹子理事


 世界遺産登録を審査する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」は昨年9月、緊急声明「ヘリテージ・アラート」を出して、多くの樹木伐採を含む再開発計画の撤回を求めた。
 イコモスは、再開発で計画されている「 3 棟の高層ビルの建設と、既存の野球場とラグビー場の新球場への建て替え・移転は、過去100年にわたって形成され、育まれてきた都市の森を完全 に破壊する」と指摘。
 また昨年末、イコモスは神宮外苑再開発の環境評価影響評価書におけるイチョウ並木の現況調査に関して虚偽の報告などがあったとして、都の環境影響評価審議会における科学的かつ公明正大な審議と再審を要求した。

再開発で建物が樹木の高さの2倍になることを模型で示す石川幹子理事

 「事業者は都の環境影響評価審議会に「イチョウは全て健全」だとの評価を伝えた。あれだけ弱っているイチョウを健全だとしたのです。でもその事業者が今年9月9日に出した資料では「イチョウは弱っている」としたのです。つまり虚偽の申請だったということです」。
 石川理事は同審議会での再審議を求めて「どうして認めたのか、良心に照らして考えてもらいたい」と述べた。

事業者見直し案への5点の指摘
 事業者からの9月9日の報告書について日本イコモスは5点指摘した。
 ①樹木の本数のみの報告で「緑の質」に関する検討が欠落している。
 
 ②イチョウ並木の衰退は水循環のみならず地球温暖化に伴う熱環境の変化が大きな原因だと指摘してきたが、今回の報告では検討されておらず、環境影響評価は科学的分析に基づくべきであり、再提出が必要だ。
 
 ③今回、事業者から提示された絵画館前の芝生広場における計画は風致地区Aであるにもかかわらず、科学的調査が一切行われていない。群落調査を実施して、環境影響評価書の再提出と審査が必須だ。

 ④神宮外苑、とりわけイチョウ並木の名勝的価値については、文化庁が2012年6月調査報告書で高く評価している。東京都は、港区長からのイチョウ並木保全の要請(2023年9月)、港区民からの同要請(2024年9月)を受けとめ、ただちに名勝指定に必要な手続きを進め、文化庁の名勝指定要望を行うことを要請する。また、イチョウ並木146本のうち、新宿区に属するイチョウが3本あるが、十分な協議を行ってもらいたい。

 ⑤群衆津波に関して「人名の安全保障の検証」を行ってほしい。具体的には、南北通路3号といわれる歩道橋で施行認可地の幅員は10メートルと狭いが、今回の事業者案ではさらに狭くなっている。人の流れが集中する計画でありながら、幅員10メートルは狭小である。ソウルの群衆津波の事例に深く学び、人命の尊重を優先すべきだ。

 日本イコモス自身、代替案を用意している。それによると樹木の伐採は2本で済むという。野球場についても建て替えではなくリニューアルで十分可能だとしている。

日本イコモスが提案する再開発代替案の模型

 石川理事はいう「日本のセントラルパークといわれるような大事な場所に超高層ビルを建ててはいけないと思っています。伐採樹木は2本で済み、草野球の場所も提供出来ます」。
 絵画館前の芝生広場についても「ここは外苑の命です。やわらかな森に囲まれた芝生広場。心晴れ晴れと散策が出来る。GHQが接収して運動施設にしたが、解除されたら本来の姿に戻すべきだったのに、さらに今回会員制のテニスコートを造るなどと言っているのです」。
 「芝生広場がこのままではなくなってしまう。近代庭園としての美を壊すことになります」と警鐘を鳴らした。
 石川理事は事業者、都に対して「とにかく書面上ではなくって現場に行ってそこで実際のところを自分の目で見ましょう。そして書面上ではなく現地で協議しましょう」と呼びかけた。

秩父宮ラグビー場へのアプローチにある計18本のイチョウ(2024年9月16日:筆者撮影)



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