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映画「パルバティ・バウル」
学生時代、つのだひろさんの心霊マンガ「うしろの百太郎」や「恐怖新聞」を熱心に読み、亡くなった人の霊魂を呼び寄せて代わりに話す「口寄せ」を行う青森のイタコに会いに行き、ビートルズがマハリシのもとで瞑想修行をしたインド北部のリシケシュの僧院跡を訪ねたり・・・
現実の世界と同じく、あるいはそれ以上に目に見えない世界に興味を惹かれてきた自分は当然のようにこの映画を見たいと思った。
2024年11月26日(火)、ドキュメンタリー映画「パルバティ・バウル~黄金の河を渡って」(2024年/日本/109分/監督・制作・配給:阿部櫻子)をアップリンク吉祥寺で観た。
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パルバティはインドで30年近く、歌う修行の道を歩んできた。「バウル」とは8世紀からインド・ベンガルに受け継がれる「修行」の伝統を持つ吟遊行者のことだ。彼女を追った作品である。
パルバティは2023年11月に来日し、3週間にわたって「岩手・一遍上人の光林寺」「花巻の大償神楽」「那智大社・飛龍神社」「大阪・岸和田の杉江能楽堂」など日本の修行文化が息づく場所で奉納演奏を行った。
パルバティは「黄金の河を渡った人」だ。「河」とは修行者と修行者でない者を隔てる黄金の河のことを指す。この映画はその河の両岸を結ぶために制作が進められたのだという。
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上映後に行われた阿部監督とパルバティの弟子・パロミタ友美さんのトークで、阿部監督はまずパルバティとの縁について話をした。阿部さんは宗教画が有名なビハール州に行った。同州は最貧州であり、居心地が悪く外出もさせてもらえず、友だちが留学していた別の場所へと「逃げた」。
その途中、いろいろな人の家で世話になり、それがすべて終わって、自分の家にいると、パルバティが自分の学校で失敗をして住まわせてほしいと言ってきた。阿部さんは見ず知らずの女の子ではあったが、自分もいろいろな人の世話になってきたことを思い出して、一緒に暮らすことになった。
そして「彼女がバウルになってから私はバウルのことを知っていきました。私は日本ではテレビの仕事をしていたんです。日本には郡上や那智大社など何らかの修行の伝統があることから「修行って何だろう」ということをテーマとしてこの作品を作りました」という。
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修行ということについてパロミタ友美さんは「壺をきれいにするために磨きますよね。ポイントはきれいにするから磨く、汚れているから磨くってことだけど、念仏を唱えてすぐに功徳が分かる人はあまりいません。最初は分からなくても信じてやり続ける」と話す。
阿部監督は「目的があるとかないとかっていかにも現世的。目に見える何かの成果を求めない。目標を持たない。彼らの求めているものは現世で評価できないようなものだったりする。行者はもっと遠く、深いところを見ている。私たちとは違う。そうでないと本当の文化って生まれない」という。
芸能の歌や踊りと行者の行う歌や踊りの違いはどこにあるのか?
パロミタ友美さんは「ベンガル語で「シルピー」って言葉があって「アーチスト」という意味です。いい意味でもいえるけど、おじいちゃんたちが使う時はよくない意味で「あいつは行者じゃない」という文脈で使われることが多いんです。日本はもっとファジーです」と話した。
「私が芸術家、芸能している人を見る時の一つの基準は、エゴがある人か、エゴを表現するのかということです。エゴを表現するのはエンターテイメントで、エゴを削っていって本質に行こうとしている人は行者的だと思います。削ろうとしている人は自分のエゴに自覚的です」。
映画を通して聴くことが出来るパルバティの歌声は見事だ。
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そして私が特に興味深かったのは彼女と、東京の慧然寺の曹洞宗の僧侶との対談である。「禅とは真の己を探すこと」という言葉から発展していく二人の対話などぜひ映画館に足を運んでもらいたい。
今後、12月7日(土)から大阪・セブンシアター、12月14日(土)からは名古屋シネマスコーレで上映される。
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