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食料フォーラム2024

 食料フォーラム2024「みんなで考えよう!安全安心な牛乳を飲み続けられるように」が2024年9月4日(水)、東京のイイノホール(千代田区内幸町2-1-1飯野ビルディング4F)で開かれた。
 テーマは酪農だ。
 専門家2人ー鈴木宣弘・東京大学大学院特任教授と木村純子・法政大学経営学部教授、そして酪農家2人ー浅野牧場の浅野達彦氏と荒井牧場代表取締役の荒井新吾さんに、一日牛乳を2リットル飲むという歌手・俳優・タレントの浅香唯さんが加わった。
 コーディネーターは元NHKアナウンサーの桜井洋子さん。
 パネリスト紹介が終わるとまずは牛乳・乳製品についてのビデオ上映となった。物価高のうえ、飼料を頼っている輸入も円安などが直撃、牛乳消費も減少しており、「酪農危機」が起こっているというのだ。
 この一年で離農した酪農家は約700だという。
 その中で生き残りをかけて地域で酪農を守っていこうという取り組みが始まっているのだという。
 まず桜井さんから「私たち消費者は何が出来るのか、どう考えたらいいのか」と問題提起がなされた。

桜井洋子さん


 次に、浅香さんが自らの牛乳好きについて発言。「若い時から一日2リットル飲んでいます。冷蔵庫にいつも4本ストックしてあるんです。子どもの頃から牛乳が大好きなので量が多いと思ったことありません」
 「酪農危機だとかいわれると私ショックなんですが、スーパーとかでも種類とか豊富にあって、危機だといわれてもそんなにピンときていないというのが正直なところですね」と浅香さんは話した。
 神奈川県の伊勢原市で約65頭の牛を飼育して「都市近郊の酪農」を追及している荒井さんは今回の危機はまったく「別次元」だという。「自然災害も含め地球規模の動きが直撃しているのです」。
 釧路市で60ヘクタールの牧場で110頭を飼育している浅野さんは「北海道でも厳しい」と打ち明ける。「餌代は上がっているし、コロナから始まったのだが牛乳を搾りたくても搾れない、そのダブルパンチになっているというのが今までとは違うところです」。

浅野達彦さん


 専門家からは木村教授が「生産と消費の分断が大きくなっている」と指摘し、「今の問題は、生産者、消費者ともに自分ではどうしようもないという無力感が漂うようになっている、それが今の酪農危機だと思っています」。
 鈴木特任教授は酪農は「大変な状況」にあるという。今までは酪農家が減っても、残ったところが規模を拡大させるなどして埋め合わせてきたが、今回は違っていると話す。
 「200頭以上の規模の酪農家は年間2100万円の赤字となっています。それでやっていけるのか。これからも自分の子どもに牛乳を飲ませられるのか。酪農問題というのは消費者問題でもあります」。

鈴木宣弘・東京大学大学院特任教授


 ここで再びビデオ上映となった。まずは米を餌にする取り組みをしている千葉県いすみ市の高橋憲二さんを紹介。高橋さんは150頭の乳牛を育てており、一日に食べる50キロの飼料のうち1割を細かく砕いた玄米にしているという。課題だった「牛乳の量も改善されてきました」。
 次に紹介されたのは動物福祉(アニマルウェルフェア)という考え方を酪農に取り入れている群馬県前橋の須藤牧場。牧場の名前は「牛のホテル」。牛の状態によって牛舎の部屋を分けてやったり、自由に動けるようにしてやったり、戻し堆肥を牛の寝床に使ったり・・・
 これに対して浅香さんは「アニマルウェルフェアって初めて聞きました・・・すごく丁寧に飼育されている。私にしてみれば、私の親を大事にされているようで感動しますね」と話した。

浅香唯さん

 鈴木特任教授が動物福祉についてさらに解説した「家畜を酷使して劣悪な環境で暮らさせることなく、快適な環境で豊かにいさせるということです。目先の効率を追って、搾れるだけ搾って、死なせてしまう。牛を大事にしてやれば牛も頑張ってくれますよ」。
 木村教授は「動物というのは自然に任せれば幸せだというわけではありません。長いこと人間は牛を育てて来た。野生動物ではない」という。
 鈴木特任教授は、動物福祉の考え方が広がっている「ヨーロッパでは牛一頭当たりのスペースが広い。それに比べて日本では難しい。北海道以外の都府県ではどうしていくのか」と問いかけた。
 それを受けて浅野さんは北海道は規模の利点もあるが、同時に米どころでないので酪農が発展してきたという歴史があると述べた。
 荒井さんは神奈川県の伊勢原市で酪農をする自らについて説明した。「大多数の人たちは輸入飼料に頼っていますが、私たちは出来るだけ自給飼料を使って、コストを下げる努力をしています」。

荒井新吾さん

 ここで鈴木特任教授が個性的な牛乳が生まれにくい背景として連合会のような特定団体の存在があると話した。
 「価格形成には役立ってきたが、個々の牛の個性なんか見えにくくなるし、牛乳もどこの牛乳かわかりづらくなる」という。
 これに対して浅野さんは「うちは北連に出荷しているが量を安定的に出荷してもらうために(特定団体は)欠かせない存在だ」という。
 そして「酪農家は牛乳を出荷して終わりでなく消費者の方々とお会いして話を聞くことが大事だと思うから、積極的に出て行きたいと思います」。
 この後で再びビデオ上映となった。
 ここではパネリストでもある放牧酪農家の浅野さんが登場。「牛舎での飼育に比べて放牧は餌代が三分の一に抑えられます」と話す。

地元の人たちのボランティア
 次に広島西部佐伯区の山間地域の3ヘクタールで10頭の牛を飼育している久保宏輔さん。客からの手紙がきっかけとなり、地域に何が出来るのかを考えて出てきたのが放牧だったという。
 「牛と触れ合うために多くの人が訪れるようになりました」
 「持続可能な酪農が可能になる」。
 そしてそれを可能にしてくれているのが地元の人々によるボランティアで、月二回牧草地の雑草を取ってくれているのだという。
 再びパネルディスカッションに戻り、浅野さんはゲノム解析などのハイテクが今や大切になってきているという。「ローテクな業界だと思いきや、様々な技術があって、日々取り組んでいます」。
 鈴木特任教授は放牧の課題についても指摘した。放牧だと搾れる牛乳が大量にはならないので「放牧ばかりになっても、子どもたちに提供する牛乳が足りなくなっています。バランスの問題は重要です」。

伊勢原の地ミルク
 さらにビデオでパネリストの荒井さんの活動が紹介された。神奈川県伊勢原市で「地ミルク」を生産している。「伊勢崎の地ミルクは地元のスーパーや直売所で売られています。地元の牛乳を飲んでみたいという人達が集まった市民応援団が大きな力になっているのです」。
 浅香さんはそれを聞いて「素敵です。地酒とか地ビールはあるのに何で地ミルクってなかったのかって」と話した。
 ここでみんなで伊勢原の地ミルクを飲んだ。

地ミルクを飲むパネルストたち

 木村教授は「地域のコミュニティの力を感じました。まずは地元の人たちとやっていく。学校給食の牛乳もそうです。事業としては厳しいとしても地元の人たちに還元していくことは大事です」と話す。
 ここで木村教授は「どうまい牛乳」を紹介した。とても美味しい牛乳という意味だ。「酪農家の奥様方が地元の人たちに飲んでもらいたいと作りました。地域の人たちに愛されている」。
 イタリアのヴェネチアで教壇に立ったことがある木村教授はこの取り組みを「イタリア的」だという。「テリトリオというのは地元愛があるからで、地ミルクというのはすごい力を持っています」。

木村純子・法政大学経営学部教授

 「よくいうのが、地域で生産しているものは出来るだけ地域で消費するということですが、他の作物では想像出来るけど牛乳では想像がつかなかった。でも出来ている。地元ミルクのような取り組みをみんなやっていけばいい。給食で出せればいい。大きな力になる」と鈴木特任教授。
 「酪農についてもローカル自給圏をどんどん作っていけばいい」。
 木村教授は酪農の制度などに関する「教育」の重要さを指摘した。これまで「つくるまでのプロセスとつくったあとのプロセスがつながってファンが絶えないような制度」としてオフィシャルファームを挙げた。
 最後に浅香さんはとっておきの牛乳の飲み方を紹介した。それは味噌汁に牛乳を入れることだという。「入れてみたらこんなに合うんだと。色は少し白くなるけど美味しい。煮物や茶わん蒸しでも出来るんで・・・」。
 「合わない者はないと思います。保湿力を高めるビタミンAが豊富で女性の方にもいいと思います」と浅香さんはいう。
 「身体の健康以上に心の健康を養ってもらっている。これからも頑張って作っていただきたいと思います」。
 木村教授はこれまで日本は安いものがあれば輸入すればいいじゃないかという姿勢出来たがもうそういう時代ではないという。
 牛乳、子供ーーそこさえ出来れば「未来は開けると思いました」と鈴木特任教授が締めくくった。

 
 


 
 
 
 


 
 
 

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