1966カルテットX藤本国彦
【スピリチュアル・ビートルズ】クラシカルな女ビートルズ。そう呼んでも差し支えないだろう。クラシックの技術をベースにビートルズやクイーンなど洋楽アーティストのカバーをする女性4人組「1966カルテット」のことだ。
2023年12月7日(木)、「1966カルテット&藤本国彦 ビートルズ・ラボ Vol.1 Please Please Me」というライブイベントが自由学園明日館講堂(東京都豊島区西池袋2-31-3)で開かれた。
2010年11月、ビートルズのカバー楽曲を収めたCDでデビューした1966カルテット。第一作『ノルウェーの森』の後、『HELP』(2013)、『アビー・ロード・ソナタ』(2014)などを発表。
現在のメンバーは、松浦梨沙(バイオリン、リーダー)、花井悠希(バイオリン)、伊藤利英子(チェロ)、増田みのり(ピアノ)の4人。最新CDは2021年にリリースされた『DIAMONDS』。
定刻になると1966カルテットの4人が登場した。
続けて司会および解説のビートルズ研究家の藤本国彦さんが白衣姿でステージに現れた。「ビートルズ・ラボってことで(この姿です)。今日はリリース第1弾からで、非常に画期的な、世界中でも無謀な、いやこんな挑戦的なカルテットはないと思います」と藤本さん。
そう、この日はビートルズのデビュー・アルバム『Please Please Me』の楽曲をカルテットで演奏していこうというのだ。
ます、カルテット1966は2曲披露した。「Love me do」と「P.S. I love you」というデビュー・シングルのA面とB面だ。
4人はグレーの衿なしスーツで決めて、一曲ごとにお辞儀をする初期のビートルズ・スタイルを踏襲した。
藤本さんは言う。「このシリーズはアルバムごとにいじっていきます。ビートルズは1962年10月5日にデビューしました。それから61年経ちました。そして1963年1月にセカンド・シングルを出して、アルバムが続きました。このシリーズでは丹念に最初から追いかけて行きます」。
さて、ここで1966カルテットは第二弾シングルのカップリング、「Please Please Me」と「Ask me why」を演奏した。後者はジョンの優しさが出ているオリジナル以上にまったり感が出ていた。
2人のバイオリン奏者がアイ・コンタクトをとりながら演奏しているさまはジョン・レノンとポール・マッカートニーが「Hey Jude」などで、目を合わせながらハモるさまを思い起こさせた。
ここで藤本さんからトリビア。「「Please Please Me」のレコーディングが終わるとプロデューサーのジョージ・マーティンは「この曲はナンバー・ワンになる」って言ってその通りになりました。ここからビートルズの快進撃が始まって、イギリスを制覇したのです」。
「ファースト・アルバムは1963年2月11日に一日だけでレコーディングされました。ビートルズの曲作りはジョンとポール、レノン=マッカートニーですが、最初の頃は時間の制約もあってカバー曲も多い」。
1966カルテットはここで3曲続けた。まずは「I saw her standing there」。チェロの利英子さんが「ワン、トゥ・スリー、フォー」とかわいいカウントをして始まった。ロックンロールらしく、リーダーはアクションも交えながらダイナミックに演奏していた。ピアノの間奏もよかった。
次は「Misery」と「Anna」。黒いフィーリングの2曲だったが、「1966カルテットの音」になっていた。「Misery」はジョンが書いてヘレン・シャピロに提供しようとしたら断られて、代わりにケニー・リンチが歌って大ヒットした。「Anna」はアーサー・アレキサンダーのカバー。
重要文化財でもある自由学園明日館の講堂について、「音がすごくいい会場で、声もよく響きます」と藤本さんは高く評価した。
さらに、「1966カルテットのプロデューサーはビートルズ担当の初代ディレクター高嶋弘之さんです。ビートルズの日本でのデビューは1964年。「抱きしめたい」などの邦題をつけたのも高嶋さんです」と述べた。
次に演奏されたのはジョージ・ハリスンがボーカルをとっていた「Chains」。これは次第にフェイドアウトしていってピアノで締めた。それとリンゴ・スターが歌った「Boys」。どちらもカバー曲だ。
「ビートルズはジョンとポールがメイン・シンガーですが、もともとはエヴァリー・ブラザースのようになりたかった。またジェリー・ゴフィン=キャロル・キングのように人に曲を提供したいと思っていた」(藤本さん)。
「当時のイギリスでは、クリフ・リチャードのように、リード・ボーカルひとりにその他ボーカルみたいなのが多かったけれど、ビートルズは4人とも歌えて、4人とも見栄えがよくて、4人ともキャラが立っていた」。
途中、会場からの質問を受け付けるQ&Aコーナーがあった。
後半は「Baby it's you」と「Do you want to know a secret?」からスタート。前者はピアノの演奏が優しい感じを出しながら全体をけん引していた。後者はオリジナルよりも軽快でポップな出来だったと思った。
藤本さんは「(1966カルテットの演奏を聴くと)ビートルズはこんなメロディーやビートも書いているのかと気づかされます。クラシカルなアレンジだと際立つので楽しんでいます」と賛辞を述べた。
そしてアルバムの残る3曲。「Taste of Honey」ー重厚な仕上がりというイメージだった。「There's a Place」ーややバイオリンの音が強く響きすぎているような気が個人的にはした。「Twist and Shout」ーピアノでスタートし、リーダーは踊りながら演奏し、ラストはより一層楽しそうだった。
しかし、ここで終わりにならなかった。そう、シングル曲を披露するのだ。第三弾シングルの「From me to you」と「Thank you girl」。前者は最初から最後まで明るく軽快でアンサンブルが決まっていた。
やっぱりビートルズって、レノン=マッカートニーって優れたメロディー・メーカーなんだなあって再認識させられた。
ここでアンコール「Free as a Bird」。
最後の最後は「今日のこのタイミングではこの曲しかないでしょう。最後の新曲」(藤本さん)ー「Now and Then」。
ピアノの調べに乗せて、リーダーのバイオリン・ソロが始まり、チェロそしてもう一台のバイオリンが加わり、次第に高まっていった。。
「マイナー」とか「暗い」っていわれる新曲だが、ロックよりもクラシックのほうに素養があるオノ・ヨーコさんがピックアップした曲だけに、カルテットによるアレンジがマッチしていたように感じた。