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映画「アイヌプリ」公開へ

 アイヌについて心に留めおいていることが二つある。
 一つは彼らも私たちと同じ人間だということ。当たり前だが。
 アイヌ新法が出来て先住民族だと認定されたというが、民族としての認定って何?と思うことがある。同じ人間だということでスタートすれば当然、権利はあるし、差別や偏見がいけないのは当然だ。
 国連が「先住民族の権利宣言」を行ったのは2007年のこと。裏返せば、それまでは権利は宣言されていなかったということだ。
 そういう動きはあっても、何か絶滅危惧種を顕微鏡で見るかのようにしている人たちへの不信は決して拭われないだろう。
 都合のいい観光資源とみる人たちもいるようだ。
 だから2019年にアイヌを「先住民族」と初めて認めたアイヌ新法が出来たことに対しても反対するアイヌの人たちがいるのではないか。

自然への謙虚さと感謝
 二つ目は彼らの自然観に基づいた生き様が今の和人(日本人)のみならず世界の人々が生きるうえで参考になることだ。「人と自然」という言い方は間違いだろう。正しくは「人と人がその一部である自然」だろう。
 それをきちんと感じて把握して理解しているのがアイヌの人々ではないか。だからこそ無駄な殺生はしないし、他の命を食べなければ生きていけないことへの謙虚さがあるし、命を提供してくれるものたちへの感謝がある。
 映画の中でも語られているー「生きることすべてが神様で成り立っている。そしてあらゆるところに神様がいるってことは、私たちはそれだけ神様のお世話になっているということだ」。
 そんな考え方を耳にすると、こう思わざるを得ないーー私たちは自然に対して傲慢になってはいないかと。科学技術の進歩が自然の問題を克服してゆくなんてよく聞くけれど本当なんですかと。
 そんなことを考えつつ、福永壮志監督の新作ドキュメンタリー映画「アイヌプリ」(2024年/81分/配給:NAKAHIKA PITURES)を2024年12月6日(金)、オンライン試写で観た。
 これは北海道出身の福永監督による劇映画「アイヌモシリ」(2020年/日本・アメリカ・中国/84分)に続く作品で、北海道の白糠町で伝統的なサケ漁を営むアイヌの家族を追いかけたドキュメンタリ―だ。
 12月14日(土)から渋谷ユーロスペースほか順次公開される。


 前作が劇映画で今作がドキュメンタリーということもあってか、ジャーナリスティックな目線を感じる作品になっている。
 穏やかながらもその実、骨がある作品が出来上がったと思う。
 公開時期もタイムリーだと思える。
 今年4月、4年前に十勝浦幌町のアイヌ団体が川でサケをとることは先住民の権利であり先住民に認められるとして法律で規制されないことの確認を求めて起こした裁判で、札幌地裁は訴えを退けている。
 日本の法律では漁業権を持たずに川でサケ漁を行うことを禁じている。
 しかし、原告であるアイヌの団体「ラポロアイヌネイション」はサケをとる権利はアイヌの伝統や慣習によって確立された先住権で、国際的にも固有の権利とされている」などと主張している。

サケは「神の魚」
 実際、アイヌの生活にとってサケは食料であるばかりか衣服や靴の材料でもあり「神の魚」と称されてきた。
 これに対して札幌地裁の中野琢郎裁判長は「歴史的背景を踏まえたとしても河川は公共のものであることに加えてサケは河川に遡上して産卵するという特性をもった天然の水産資源であることを鑑みると特定の集団が排他的に漁業を営む権利を有すると認めるのは困難だ」とした。
 もともとアイヌが行っていたサケ漁を取り上げておいて、あとからその「権利」を認めるとか認めないとか言うのは理屈に合わないと思うのだが、これが「発展した社会」というものなのだろう。

シゲキと息子モトキ ©2024 Takeshi Fukunaga/AINU PURI Production Committee


 そして映画の中の「仕事とアイヌは両立しない」という言葉も印象に残った。これはサケを網でたくさん捕らえた時に出た言葉で、つまりこんなにとってしまったという意識はあるものの生活するおカネを稼ぐために仕方ないというアイヌの人たちの本音なのだ。

アイヌ新法施行後5年を迎えて
 2019年のアイヌ新法には施工後5年経ったら見直しを行うとの付帯決議がある。そのため、アイヌ支援策を議論する政府の「アイヌ政策推進会議」は5年目となる今年の7月、会合を札幌市内で開き、同法の見直しに向け、秋以降に北海道や東京で当事者と意見交換することを決めた。
 そして意見交換を踏まえた検討内容を、来年の会議に報告するという。
 共同通信の報道によると、座長の自見英子アイヌ施策担当相(当時)は記者会見で、差別禁止規定に反した場合の罰則創設を求める声があることについて「現時点で何ら決まっていない」と述べるにとどまっていた。

©2024 Takeshi Fukunaga/AINU PURI Production Committee 
2024年12月5日に行われた前作の上映会のティーチインにて福永監督(右)とで相手役を務めた文筆家・折田侑駿さん 

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