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映画「人情紙風船」を観て
映画「人情紙風船」(昭和12年)を観た。先輩からこの映画は素晴らしいのでぜひ観たほうがいいと勧められていたからだ。
29歳の若さで戦死した山中貞雄が監督した傑作。河竹黙阿弥原作「髪結新三」の映画化で、ほとんどの出演者は前進座のメンバーだ。
昔の映画だ。何といっても100年近く前の作品である。
毛利(橘小三郎)という侍が高い位の武士の嫁にと、目にかけらえて出世でもしようという思惑で、白子屋の娘お駒(霧立のぼる)を嫁に世話しようとしている。しかし、お駒は納得していない。想い人がいるからだ。
毛利に邪険にされた浪人の又十郎(河原崎長十郎)はお駒を救おうと同じ長屋の住人たちと協力してお駒を救い出すというストーリー。
博打打ちの長屋の住人・新三(中村翫右衛門)が活躍し、いい芝居を見せる。ヤクザもんの親分にもひれ伏さず、最後は決闘までするのだ。
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勧善懲悪の話だが、「水戸黄門」などのように力を持つものが悪党を懲らしめるのでなく、長屋の住人たち、つまり庶民が権力を持つ者と対峙して、可哀そうな娘を救うという話になっているところがいい。
長屋の人たちの暮らしぶりがよく分かる。何かといえば酒を飲みたがる男たち。噂話に興じる女衆。大家と彼らとのざっくばらんな関係。
気風(きっぷ)のいい会話が全編にわたって展開する。
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とはいえハッピーエンドともいえない。又十郎は、最後に戻って来た妻に殺されて妻も自ら命を絶つ。心中だ。
又十郎がお駒を囲まった後に残されていた紙風船。
温故知新。いい映画というのはいいものだ。
昔の映画だろうが最新作だろうがだ。
2009年にキネマ旬報が発表した「映画人が選ぶオールタイムベスト100・日本映画編(キネ旬創刊90周年記念)」23位となった。
戦後、何度かテレビドラマ化された。
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