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キース・へリング展を観た!

 ポップでカラフルでユニークでメッセージ性もある、そんな現代アーティストの数少ない一人がキース・へリングだろう。
 わずか31歳にしてエイズでこの世を去ってしまったへリングの実質的創作活動期間は約10年。
 その間に制作された約150点の作品が集結する「キース・へリング展」が2024年2月25日(日)まで「森アーツセンターギャラリー」(東京都港区六本木6-10-1六本木ヒルズ森タワー52階)で開催中だ。
 初期のサブウェイ・ドローイング、トレードマークとなったモチーフによる作品《イコンズ》や彫刻、ポスター、晩年の大型作品まで、へリングのアートを東京で一度に体験できる機会となっている。
 HIV・エイズに対する偏見や支援不足に対して最後までアートで闘い続けたへリング。彼が命を紡ぐようにして生み出したアートは時空を超えて現代社会に生きる我々の心を揺さぶってくる。
 
〇第1章「公共のアート」ーへリング曰く「アートはみんなのために」。自分の絵を見てもらいたいその一心から、なるべく多くの人の眼に触れる場所である地下鉄駅構内に自分の「アート」を描くことから「キャリア」をスタートさせたヘリングの作品を紹介している。


〇第2章「生と迷路」ーHIVの蔓延は社会に暗い影を落とし始めていた。ペンシルバニア州ピッツバーグという田舎から出てきたヘリングにとって、ニューヨークはゲイカルチャーも華やいでいる刺激的な場所だった。この街でへリングは、生の喜びと死への恐怖を背負って、約10年間という限られた時間に自らのエネルギーを注ぎ込んだ。

《ピラミッド》シルクスクリーン、アルミ板(アルマイト) 1989年
《無題》シルクスクリーン、紙 1983年
《無題》シルクスクリーン、紙 1983年


〇第3章「ポップアートとカルチャー」ー1980年代のニューヨークは、現在以上に犯罪が多発する都市として知られており、ドラッグや暴力、貧困が蔓延していた。にもかかわらず、クラブ・シーンは盛り上がり、ストリートアートが隆盛を極めるなど街もカルチャーも人々もパワーにあふれていた。へリングが交友のあったアンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキア、マドンナもそのような状況下に誕生している。

《アンディ・マウス》シルクスクリーン、紙 1986年
 《モントルー1983》シルクスクリーン、紙 1983年


〇第4章「アートアクティビズム」ーアートを通じたアクティビスト(活動家)だったへリングに焦点を当てている。大衆にダイレクトにメッセージを伝えるためにへリングはポスターという媒体を使った。テーマは核放棄、反アパルトヘイト、エイズ予防や、性的マイノリティのカミングアウトを祝福する「ナショナル・カミングアウト・デイ」などの社会的なもの。またスウォッチなどとのコラボレーション広告といった商業的なものまで、あわせて100点以上に及んだ。

《沈黙は死》シルクスクリーン、紙 1989年


〇第5章「ア―トはみんなのために」ーへリングは自らデザインした商品を販売するポップショップといったアート活動を通して大衆とのコミュニケーションを可能にしてきた。本章のメインとなる《赤と青の物語》は絵画の連なりから一つのストーリーを創造する、子どものみならず大人にも訴えかける視覚言語が用いられた代表的作品だ。

《無題》スチールにペイント 1987年


〇第6章「現在から未来へ」ーブループリント・ドローイングと称した、文明と人類の現在とこれからをへリングなりに描き出した全17作品から成る問題作が紹介されている。「ニューヨークでのはじまりを啓示するタイムカプセル」だとへリングはテキストに残している。一点一点に解説はつけられていないが、資本主義に翻弄され不平等や争いがはびこる社会や、テクノロジーが人間を支配してしまうような未来がモノクロームでコミックのように淡々と描写されている。資本主義の行き詰まり、AIの登場などに照らして、現在スポットライトが当たっている極めて今日的なテーマとなっているものを30年以上前にへリングはすでに取り上げていたことが分かる。

《ブルーㇷ゚リント・ドローイング》シルクスクリーン、紙 1990年
《イコンズ》シルクスクリーンにエンボス加工、紙 1990年


〇トピック:「キース・へリングと日本」ーへリングは日本に対して特別な想いを抱いていたという。数度にわたる来日が縁で生まれた作品や資料を、当時の写真とともに展示している。例えば、(株)ぴあの月刊「Calender」の表紙絵や同社を訪れた時に描いた作品。また、1988年に原宿で路面に絵を描くへリングの動画が会場で流されている。

 発光する作品、闇に浮かび上がる展示、80年代ニューヨークさながらの喧騒・・・へリングが駆け抜けた10年のストーリーとともに、展示空間は劇的に展開する。一部作品をのぞき、展示室は写真撮影OKとなる。

『スウィート・サタデー・ナイト』のための舞台セット アクリル、モスリン布 1985年

 
 へリングはアメリカ北東部ペンシルベニア州に生まれた。1980年代初頭にニューヨークの地下鉄駅構内で、使用されていない広告板を使ったサブウェイ・ドローイングと呼ばれるプロジェクトで脚光を浴びる。
 日本を含む世界中での壁画制作やワークショップの開催、HIV・エイズ予防啓発運動や児童福祉活動を積極的に展開したことでも知られる。
 90年にエイズによる合併症により31歳で亡くなった。

 開館時間は午前10時から午後7時。ただし、金曜日・土曜日は午後8時まで。入場は閉館の30分前まで。会期中無休。
 観覧料は一般、大学生、専門学校生2200円、中高生1700円、小学生700円。未就学児無料。事前予約制(日時指定券)。
 問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)。展覧会公式サイトは https://kh2023-25.exhibit.jp
 本展は、2024年4月27日(土)から6月23日(日)まで兵庫県立美術館ギャラリー棟3階ギャラリー、7月13日(土)から9月8日(日)まで福岡市美術館で開催され、その後、名古屋会場(2024年9-11月)、静岡会場(2024年11月-2025年1月)、水戸会場(2025年2-4月)に巡回する予定となっている。

 

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