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特別展「聖書の世界」

 世界一のベストセラーといわれる聖書。
 様々な時代の聖書やイスラエルなど中東の遺跡からの出土品で、旧約聖書と新約聖書が成立した時代背景や伝えられてきた歴史を考える特別展「聖書の時代ー伝承と考古学ー」が古代オリエント博物館(東京池袋)で開かれているのを2024年9月7日(土)、観て来た。
 まずは様々な聖書を見ていった。
 ユダヤ人の歴史を書いた旧約聖書には2000年前の人々が口承で伝えて来た歌や詩も含まれている。新約聖書はイエス・キリストの教えが伝わるように編まれた宗教書だ。
 ユダヤ教で聖書といえば、キリスト教の旧約聖書のことを指す。だからといってユダヤ人がイエスを認めていないわけではない。
 ユダヤ教・イスラム教からの流れで生まれたイスラム教ではイエスは預言者の一人として認知されており、その最後にモハメッドがいる。
 しばらく前に欧州で「キリスト教徒がイスラム教の聖典コーランを焼く事件があったが、イスラム教徒が聖書を焼くことはありえない」と古代オリエント博物館の津本英利学芸員はいう。

津本英利学芸員


 一般には広がりがないが、研究者の間ではもともと書かれていた言語から旧約聖書を「ヘブライ語聖書」、新約聖書を「ギリシア語聖書」と呼ぶようになっていると津本学芸員は説明した。
 まず観たのはエチオピアの聖書。19世紀頃のものとされる。アフリカのエチオピアは世界最古のキリスト教国の一つ。この聖書は羊の皮をはいでそれをなめしたものに書かれている。

エチオピアの聖書

 牛の皮というのは中東ではまずお目にかかれないという。というのは牛は大量の水を飲むので飼うのに適しておらず、一番多く買われているのが羊なのだそうだ。その前には粘土に書かれていた。
 世界で一番古い紙は紀元前2世紀ごろに中国で生まれた。
 エジプトにパピルス紙があったが、これは極めて限られた地域で取れる植物のがもとで、加工が非常に難しいのだという。
 その中国から欧州に紙が伝わってくるのは1000年経ってからだった。13世紀、欧州で活版印刷が発明されまではずっと手書きだった。
 そして有名な死海文書だ。
 これは偶然に発見された。1947年、羊飼いがパレスチナの洞窟に入ると壷があって石を投げると割れて中から死海文書が出てきたのだ。本物はイスラエル博物館にあり、国宝中の国宝で門外不出である。

死海写本(複製) 原品は紀元前2~後1世紀

 死海文書はイエス・キリストが生まれた頃に書かれたが、現在の旧約聖書と内容はほとんど同じだと津本学芸員いう。
 次に完全なかたちで残っている最古の旧約聖書として、津本学芸員はレニングラード写本を挙げた。1008年にカイロで書かれた。
 今はロシアのサンクトぺテルスブルクにある。津本学芸員によると、もともとはエジプトの修道院にあったが、19世紀にドイツの研究者が持ち帰り、パトロンだったロシア皇帝に献上した。

レニングラード写本(ファクシミリ版) 1998年(原本1008年)


 また現存する最古の新約聖書の写本はチェスター・ビーティーで、2-4世紀のもので、パピルスに書かれている。

チェスター・ビーティー(ファクシミリ版)原品:2-4世紀

 また、聖書の時代に使われていた遺物も展示されている。

 

 目玉の一つが「ネプカドネツァル2世円筒碑文」である。これは紀元前6世紀初頭のもの。ユダ王国を滅ぼして、バビロン捕囚を行ったバビロニア王の碑文である。ユダヤ人たちがバビロンから帰還して新たな信仰体系を作る中から旧約聖書が生まれた。

ネプカドネツァル2世円筒碑文 紀元前6世紀初頭

 ここで津本学芸員から興味深い話があった。
 「聖書の基本的な舞台はイスラエルとパレスチナです」。
 「展示されているものは基本、イスラエルで出土しており、そこで2000年前に使われていたものなのです」。
 「古代オリエントの歴史というのはギリシアを除くと、すっかり忘れ去られていたのですが、唯一の入り口が聖書でした」。
 「古代オリエント学の出発点は聖書で、発掘したものが聖書の記述通りかを確認することから始まった学問でした」
 「エジプトやメソポタミアのようなきらびやかさや派手さはなく、イスラエルで出てくるものは地味だったこともあり、初めから地道な科学的な分析へと移っていきました」と津本学芸員は話す。
 さて、発掘されるものの中にはコインがある。中でも興味を惹かれるのはイエス・キリストを処刑したローマ皇帝ピラトのコイン(銅貨)だ。

ポンティオ・ピラト 銅貨 ローマ属州ユダヤ 後29年

 あとはティベリウス帝の銀貨だ。聖書に有名なイエスの言葉がある「カエサルのものはカエサルに 神のものは神に」。これは税金を納めるべきかと問われての答えだった。これはイエスが見せたコインだといわれている。

ティベリウス帝 銀貨 ローマ帝国 後36-37年

 さらにいろいろな聖書も紹介されている。

バチカン写本(ファクシミリ版) 1968年(原本4世紀)

 変わり種はポケットバイブルか。13世紀半ばに小型聖書が流行した。これは薄い羊皮紙に米一粒に4~5文字入るくらいのサイズだった。

ポケットバイブル

 日本にキリスト教を伝えたのはフランシスコ・ザビエル。ザビエルが日本にやって来たのは16世紀半ばだった。
 そして和訳聖書で現存する最古のものは1837年出版だ。それ以前のものはあったのだろうが、豊臣秀吉らによるキリスト教弾圧の中で失われてしまったと考えられている。

 「魔太(マタイ)福音書」横浜 1871年
   「救主イイススハリストスノ新約」 東京 1901年 
 


 


 

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