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風と手のひら
ミスチルオタクなので、もう何回もこの話をしている気がする。でも気にせず続けてみる。
ギタリストの田原さんは、ミスチルの音楽づくりをしているときの自身の役割をペンキ塗りに例えていた。曰く「音楽をつくる=みんなで家をつくっているとするならば、自分は端っこに塗り残しがないように刷毛を持って丁寧に塗っていく感覚」だと。
なぜかこのペンキ塗りのエピソードを思い出した。
ONE PIECEの映画最新作「RED」の劇中歌である「風のゆくえ」(Ado)の昨日公開されたMVを見たときのことだ。
もう、とにかくこの後に続く僕の感想なんて見なくてもいいので、このアニメーションを見てほしいというのが本音だ。
🐈
とりあえず、僕の感じたことを1つだけここに置いてみる。
このMVにおける「ペンキ塗り」のひとつは「手のうごき」だと思った。
女の子2人の手のうごきが、とにかくすばらしい。作品における「心が動かされる細部」とは、まさにこういうことなのかもしれない。
髪をなでる手、水中でほどける手、鍵盤の上でいままさに弾き始めようとする手。
そこに、その人が本当にいるような手なのだ。
こういう「ほんとう」が宿るものを見ると、無性にうれしくなってしまう。
人生のなかにある「ほんとう」の瞬間が表現されている。そしてここに「ほんとう」に心をこめてペンキを塗っている人がいることを感じられる。
こういうのを見ると、自分たちの関わる地道にも思える日々の仕事にもきっと、「ほんとう」って宿るんだよな、って思えてうれしくなる。
僕の場合、最近はインタビュー記事を書かせていただく機会が多い。
なので1つのアウトプットとしてライティングのことが思い浮かびやすいが、インタビュー記事にしても、そういう「ほんとう」が宿るインタビュー記事をつくってみたい、と恐れ多いのは承知の上で、そんなことを思えたMVだった。
どうしようもなく、その人の語りであるかのような。会ったこともないけど、その人に触れた感覚になるような。それはほんの数文字の違いかもしれないし、語尾の一文字なのかもしれない。あるいは、文章のリズムかもしれない。
このMVの終盤、鍵盤の上に乗せた手の、微細な呼吸のような動き。
こんなふうに命が細部に宿る仕事を、いつか自分の手でもつくってみたいと勇気をもらった、本当にすばらしいアニメーションと歌の力だった。
22/08/25