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落語日記 小さな会場で濃密な空気で聴く落語会

酒と噺を楽しむ会 春風亭三朝師匠出演の会
11月18日 おばんざい小料理屋「石原劇場」
昨年の2月にオープンした、女将さんが一人で切り盛りしている小料理屋さんが主催の落語会。今回が三回目だそうで、春風亭三朝師匠が初出演。
店舗の一階はカウンターだけなので、落語会のセッティングはどうするのかと思っていたら、二階の座敷が会場となっていた。この和室が満杯となる人気。
飲み屋さん主催の会ならではの、終演後の打上げ付き。目の前で落語が聴けて、終演後には演目の裏話などを直接演者さんから聞けるという、楽しく贅沢な空間。熱心な落語ファンが集まっているようだった。

春風亭三朝「太閤の白猿」
満員で詰まった客席を縫うようにして三朝師匠が登場。マクラは、近況報告のようなお仕事の話。昨日に行ってきたばかりの府中刑務所での落語、学校寄席、豪華客船の船旅での公演の話などなど、面白可笑しくエピソードを紹介。
本編は、まず曽呂利新左衛門の話から。豊臣秀吉に御伽衆として仕えた落語家の始祖とも言われる人物。頓智が利いていて、周囲を笑わせる数々の逸話を残している。そんな新左エ門と秀吉との頓智が利いた逸話から始まる。猿と呼ばれた秀吉が、自分によく似た猿を手元に置いて愛玩している。その猿が秀吉の周囲の武将たちと騒動を起こすという噺。
この噺は、木馬亭ツキイチ上方落語会の8月開催時に笑福亭べ瓶師匠の高座で聴いていた。そのときに初めてこの噺を聴いた。三朝師匠によると、この噺をべ瓶師匠に稽古を付けてもらったそうだ。なんと、噺によって繋がるご縁。
この噺は、先代の森乃福郎師が創作し、当代福郎師匠に引き継がれているもの。この噺を三朝師匠に教えるにあたって、べ瓶師匠は当代福郎師匠のお許しをもらったそうだ。そんな演目を伝承するうえでの仕来りが、落語が伝統芸能であることを強く感じさせる。
おそらく、この噺を掛ける江戸落語家は、三朝師匠以外はほとんどいないだろう。そんな貴重な高座は、落語マニアを喜ばせてくれた。
一席目が終わると、高座の後で生着替えを披露するサービス。

春風亭三朝「粗忽の釘」
二席目は、お馴染みの滑稽噺。三朝師匠の粗忽者のボケ具合が、落語らしさを感じさせるのに丁度いい塩梅。思い込みの激しい主人公は、一本気で直情型なだけで、間抜けではない。そんな亭主の真面目なのに的外れな行動が、笑いを呼ぶ一席。
この三朝師匠の一席は、冒頭に父親が二階で寝ているという振りがあり、下げのところで父親を忘れてきたことを思い出し、見事に伏線を回収。そんな父親が登場するバージョン。上方落語の「宿替え」では父親の話が登場する型は多いが、江戸落語で父親が登場する型は珍しい。元々は登場する型だったのが、父親を省く方がシンプルになり、一般的になったのかもしれない。
二席とも珍しい噺を聴かせてくれた三朝師匠。マニアな観客には満足の高座だったと思う。

終演後は、この座敷を打上げ会場へ模様替え。参加者の皆さんで、座卓や座布団を移動し、お弁当を配置するお手伝い。少人数の会ならではの風景。
打上げでは、皆さんからの質問や話題に、落語家として丁寧に答えていた三朝師匠。直接お話しできるのも、こんな小規模な会の魅力。この日は、三朝師匠の出身の中央大学落語研究会のOBの方々も来られていて、後輩の高座を楽しんでおられた。

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