落語日記 小さな地域落語会でも爆笑の渦を巻き起こす白酒師匠
第53回ととや落語会 桃月庵白酒の会
3月5日 下板橋駅前集会所
落語好きな寿司屋の親方が主催している落語会。楽しみに通っているが、前回は昨年の6月開催の古今亭文菊師匠の会で、しばらくご無沙汰してしまった。
毎回、親方好みの人気者が出演されている。そして、今回の出演者は、なんと白酒師匠なのだ。落語ファンからすると、この落語会がついに白酒師匠が出演を引受けてくれるまでになったのか、そんな感慨で胸いっぱい。菊之丞師匠がレギュラーになったときも驚いたが、今回もびっくり。
一之輔師匠や文菊師匠が二ツ目時代からレギュラーで出演されていたことからみても、親方の席亭としての慧眼は素晴らしいと思っていた。その後も、彦いち師匠、百栄師匠、扇辰師匠、馬石師匠などの人気者や、やまと師匠、駒治師匠など新進気鋭の若手を招聘して、地域落語としては、凄い会に発展してきている。
この会の名物は、前座代わりの親方の余興。店の調理場に立つ普段の親方の姿とのギャップが、常連さんたちには大受けの人気の出し物だ。そこには、来場者を少しでも楽しませたいという思いにあふれている。
そして、もう一つの名物だったのが、受付や司会を担当しているお姐さんの素人三味線による出囃子演奏。そのたどたどしさは楽しさ抜群。客席も手拍子や合唱で応援していた。レギュラーの文菊師匠や扇辰師匠も、この出囃子をいじっていた。ここ何回かは、生演奏がなくなっていて、文菊師匠も高座で淋しがっていた。この日も生演奏はなし。出囃子ファンとしては、いつか復活して欲しいと願うばかり。
この日の座席は、最前列中央という特等席。こんな至近距離で白酒師匠を拝見できる僥倖に、感謝。
親方の余興「変なアメリカ人のジョージ」
奇妙なアメリカ人の扮装で、アメリカンジョークと称するオヤジギャグを振りまく、この会ではお馴染みのキャラ。アメリカ人という触れ込みなので、大谷翔平がWBCのために乗ってきたチャーター便に無断で便乗して来日しました、と話題を盛り込んだ挨拶。
司会のお姐さんによると、衣装とカツラを新調し、シャツの色と金髪だった髪の色がリニューアル。出し物は、不思議な質問を客席へ投げかけるアンケートと、ギターを演奏しながらお馴染みの「なごり寿司」を熱唱。
桃月庵白酒「笠碁」
初登場の演者は親方の前座芸に触れていいのかどうか迷うようだが、白酒師匠は遠慮なく親方イジリ。この芸を止める人がいないのか、なんと優しい観客の皆さん、と観客イジリも。親方はイジってもらい、前座のお役目を無事に果たされた。
マクラは、この日開催された東京マラソンの話から交通規制、皇居マラソンのランナーに対する毒舌。電車に乗って帰るのだったら走って帰ればいいのに、そんな嫌味も客席大受け。さすが白酒師匠、マクラから爆笑の連続でツカミはオッケーだ。
カルチャーセンターの話題から、落語教室で主婦を相手に講師をした経験談。主婦にとって落語教室は集まるための口実で、落語を覚えることは目的ではなかったという主婦ディスリ。そんな趣味の話から碁将棋の話へ。
昔の落語家は博奕好きで、楽屋では始終博奕を打っていた。博奕に夢中になりすぎて、出番になっても高座に上がらないこともあったとか。そこで、時の会長志ん生師が博奕を禁止して、その代わり楽屋に将棋盤を置いた。その志ん生師本人が将棋にハマってしまったというオチ。本編に繋がる上手い流れ。
初登場で客層を掴むためか、ゆったりと長めのマクラだった。心なしかいつもより毒は薄目な印象。
本編はお馴染みの演目。大人の友情が根底に流れる噺ではあるが、白酒師匠の一席は、どちらかというと人情噺ではなく滑稽噺に寄せている。まさに白酒流の笠碁だ。
特徴的で独自の演出だなと思ったところ。二人が碁を打ちあうときの会話は本当に楽しそうで、その後の喧嘩もじゃれ合っているよう。待ったをしなかったという昔話をお互いに披露しあう中で、2500年前の囲碁の発祥の話まで遡ったのには思わず爆笑。まさに、仲良く喧嘩している。
別れてからは、近江屋が店頭で待つ描写が中心となって噺が進む。近江屋の店頭をうろつく相模屋の描写は、近江屋の反応で表現する。再び碁を打ちだしてからの二人の様子では、碁を打てる喜びが白酒師匠の丸い体全体からあふれていた。
仲入り
桃月庵白酒「ずっこけ」
二席目は珍しい噺。本編は、いきなり大酔っ払いの熊五郎が、居酒屋で店番の小僧相手に管を巻くところから。急に酔っ払えるところは、さすが。
泥酔男が小僧をからかい、そして何か歌えと無理強いする。仕方なく歌う小僧の歌が馬鹿々々しくて可笑しい。嫌々ながらも、一生懸命に応対している小僧が可愛い。見せ方次第で児童虐待の悲惨な場面になるところがそうはならず、落語として可笑しく楽しいのは、白酒師匠のなせる技だ。
本当にいそうな泥酔男。小僧の、もう看板なんですけど、に対して最後の一本だからと頼むところは、酒好きアルアル。
この演目は、元々は居酒屋という一つの話の後半部分だ。居酒屋へ迎えにきた兄貴分に家まで送ってもらうまでの道中も、可笑しい場面が続く。泥酔男を小便させる場面は、下ネタで下品の境界線上の笑い。
終盤の場面、中身の泥酔男を途中で落っことし、着物だけ届けるという状況は、まさに落語的で、普通に考えると実際はありえない。酔っていない兄貴分の行動としては、間抜けが過ぎる。そんな笑いどころの表現が難しい噺だ。
この噺が、あまり掛けられないのは、これらのことが理由かもしれない。そんな意味でも、難しいと思われるこの噺で爆笑をとるのは、まさに白酒師匠の技量の凄さを象徴している。
小規模な空間において真近で白酒師匠を聴けるという贅沢さを味わえた、そんな落語会。主催者の親方には、本当に感謝。
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