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落語日記 真打昇進を見据えた勉強会を続けている馬久さん

真打目前 金原亭馬久独演会
11月20日 鈴座 Lisa cafe
来年の9月下席から真打に昇進する金原亭馬久さんが、主任興行で掛けられる主任ネタを持ちネタとして増やしていくために研鑽を積む趣旨で、昇進までの一年間に毎月開催して開催している独演会。
金原亭馬生一門のファンとして、前座の駒松時代から馬久さんを応援しているので、来年の真打昇進に向けた意気込みや精進の様子をも届けたいとの思いもあり、今回が初参加。
先日訪問した「あんこ椿は一の花」も同じこの会場であり、出演者が奥様から旦那へのリレーという奇遇となった。

「道具屋」
いつもと変わらず、落ち着いた様子で高座に登場。まずは、この会の趣旨説明からスタート。一年後の披露興行で掛けられる演目を準備するため、昇進まで毎月開催していくとのこと。
今年の秋の真打昇進の披露興行では、総番頭の大役を務め、今までにも番頭として披露興行の裏方の経験は十分積んでいる馬久さん。昇進の際には種々雑多な用事をこなす必要があるが、今までに番頭を務めた経験は、ご自身の昇進の際にはきっと活かされるはず。
しかし、披露興行で何より大事なことは、初めて務める主任の高座で贔屓を前にして、真打に相応しい一席を披露することにある。そのために、真打昇進が決まったあとの皆さんは、披露興行の高座を見据えたネタを選び、その口演の研鑽を重ねるのだ。多くの落語家は、そんな披露興行に向けた準備の会を行っている。馬久さんも真打昇進の準備のための会であることを会のタイトル「真打目前」で示している。
馬久さんは、昇進と同時に六代目金原亭馬好を襲名し、名前も変わる。名跡を引き継ぐというプレッシャーもあるだろうに、普段と変わらない高座での落ち着いた表情は馬久さんらしさだ。
芸風として、派手さはないが、一門らしい古典の本格派として堂々とした高座ぶり。また、一門の中でも、他の演者が掛けないような珍しい演目に取り組んでいる。また、与太郎物の上手さは一門の中でもトップクラス。そんな馬久さんが、ご自身の名前を下げに使っている得意の与太郎物を披露。名前が変わって下げも変わるかもしれないが、この噺は真打になっても掛け続けて欲しい。

「雪とん」
珍しい噺が好きと宣言して、二席目はそんな部類の演目。私もこの噺にはなかなか出会えず、馬久さんの他は入船亭扇辰師匠でしか聴いたことがない。
前振りとして、イケメンが登場する噺です。皆さんが持っている、イケメンの姿を想像してください。自分はイケメンではないとおっしゃる。そんなことないという雰囲気の客席の反応、私もそう思う。
噺の中に登場するイケメンの遊び人を演じている馬久さんも、違和感のないイケメンぶりだった。

仲入り

「寝床」
三席目はじっくり長講。おそらく、この噺が主任のネタ候補だと思われる。
マクラでは、馬生一門は鹿芝居や茶番に高座舞と、芸事に取り組んでいる一門との話から素人の芸事に関する話の流れから本編へ。
お馴染みの噺なので、細かい工夫などに気を付けながら楽しむことができた。金原亭は先の番頭が蔵に逃げ込むエピソードで終わる「素人義太夫」の型が多いようだが、この日の馬久さんの一席は、本来の小僧の寝床だったという下げまで行った。
ほとんど正統派な流れだが、拗ねた大旦那を説得する場面では、割と早めに大旦那は機嫌を直す。やっぱりやりたかったのですね、そう観客も納得するのにちょうど良い気分が変わる時間の長さだった。
この後の大旦那のセリフが印象に残るもの。おそらくこの噺では初めて聞くセリフ。怒りのあまりに義太夫の正装である「肩衣」をビリビリに破いてしまった。なので、着る舞台衣装がないため、恥ずかしいから簾(すだれ)を掛けた内側で語るという理由を大旦那自身が語るのだ。
ネットで調べると「御簾内(みすうち)」という言葉は、修業中の太夫や三味線弾きが演奏するときに表の床(ゆか)に出ずに簾の内側で演奏したので、ここから転じて未熟な義太夫語りのことを指す意味もあるらしい。
なので、素人義太夫語りの大旦那は、遠慮や謙譲の気持ちがあって簾の内側で語ったのだろう。元々の噺の設定である御簾内で大旦那が義太夫を語る場面は、「未熟な義太夫語り」であることを暗示している。しかし、馬久さんは大旦那が「御簾内」で語る理由を吐露させることで、大旦那の怒りの激しさや遠慮や謙譲の感情も強調してみせた。なかなか、技巧派な馬久さんなのだ。

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