落語日記 演目の時代背景や歴史的背景などを丁寧に解説してくれた馬生師匠
金原亭馬生独演会(第5回)
9月26日 日本橋社会教育会館 ホール
馬治師匠がプロデュースしている馬生師匠の独演会。江戸東京博物館の小ホールからこの会場に引っ越しして2回目の開催。回を重ねて5回目の今回、馬治師匠の出番は無く、受付など裏方役に専念。受付にいる馬治師匠に気付いて、びっくりされる来場者の方も多かった。私も受付などで、少しお手伝い。
今回は、馬生師匠が「茶金」をネタ出し。馬治師匠が真打昇進する直前の馬治育英会のゲストで馬生師匠に出演していただき、その際に掛けていただいた思い出の演目。弟子の真打昇進に対するはなむけのような一席だったと、記憶に残っている。7年ぶりに聴ける貴重な機会となった。
この日も会場は馬生師匠のご贔屓さんで、盛況となった。
金原亭駒介「高砂や」
開口一番は前座の駒介さん。駒介さんでは初めて聴く噺。駒介さんの「高砂や この浦舟に帆を上げて」という祝い唄が、凄く良い声で上手なことにびっくり。邦楽好きとは聞いていたが、こんなに上手いとは、初めて知った。途中で唄われる都々逸も、なかなか上手い。凄い才能だと感心させられた一席。
金原亭馬太郎「三人無筆」
この日は六番弟子の馬太郎さんが登板。珍しい演目だが、馬太郎さんではよく聴く噺。無筆の二人が弔いの受付を担当する騒動を描く。下げ間近でやって来た客も無筆。これで、三人とも無筆。端正な語り口は、馬生一門らしさで、滑稽噺もスマートに聴かせる。
金原亭馬玉「夏泥」
この独演会の出演は、第3回に出演されたので2回目となる。いつもニコヤカな明るい表情で登場するのは、馬玉師匠のトレードマーク。噺も明るく暗さを感じさせない泥棒もの。
寄席サイズに近い簡潔な構成の一席。短い言葉の応酬で、次々と金を恵んでやる泥棒。この住民と泥棒との会話がリズミカルなので、聴いていて心地良い。質屋への受け出し金、利息、着物代、飯代、挙句の果てには店賃2ヶ月分とどんどんエスカレートしていく。しかし、リズミカルにトントン拍子といった感じで聴かせてくれるので、観客も泥棒のように思わず恵みたくなり、泥棒の厚意に何となく納得してしまうのだ。おそらく得意の演目。凝縮された可笑しさを味わえた。
仲入り
馬生一門のお約束、客席を周りながらのチケットの手売りで、馬太郎さんと駒介さんが大活躍。馬生一門の会ではお馴染みの光景。
金原亭馬生「茶金」
独演会と命名されている会だが、馬生師匠は主任の一席のみ。しかし、これがマクラも本編もたっぷりの長講で、観客を満足されてくれた馬生師匠。
マクラは、落語家と老いの話。馬生師匠も70代半ば。ご自身の経験や先輩方を見てきて、落語家にとっては80歳が一つの山だ、とおっしゃる。特に記憶力の減退が著しくなる年齢。先輩方の経験談で、噺がループして、同じところに戻ってしまい、下げにたどり着けない高座を見てきた。自分も、下げを間違えることもある。そんな告白で、会場を和ませる。
この会をプロデュースしている馬治師匠に対する感謝の言葉を述べられた馬生師匠。弟子がお膳立てしてくれるのは、やはり嬉しいようだ。
本編は、ネタ出ししている得意の演目。馬生師匠の得意技で、噺の時代背景や登場人物など、演目の内容に関する豆知識や蘊蓄を披露してくれることがある。この日も、茶金と呼ばれる茶道具商の解説や舞台背景を丁寧に説明。なので、茶金が「はてな」と言っただけで、茶碗に価値が付くことの意味合いがより深く伝わり、噺が効果的に味わえる。この丁寧さが、当代馬生落語の魅力のひとつ。
ひと山当てたい野心家である江戸っ子の油屋と、おっとりとした京の商人である茶金の対比が面白い。特に、茶金の風情が馬生師匠にピッタリ。騙されているようでいて、実は強かな計算高い商人の茶金を、見事に演じてみせてくれた馬生師匠だった。