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落語日記 話題の二葉さんを初めて拝見できた落語会

木馬亭ツキイチ上方落語会 4月公演
4月27日 木馬亭
木馬亭の自主企画公演で、今年の1月から定期的に開催されている寄席形式の上方落語の会。3月公演は日程が合わず、2ヶ月ぶりの訪問。
この日の出演者も、前座さん以外は、全員初めて拝見する方ばかり。そして主任は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの人気者、桂二葉さんだ。なので、この日は満員の超人気。
二葉さんが2021年のNHK新人落語大賞を女性として初受賞されたのは記憶に新しい。その受賞時に「ジジイども、見たか!」と発言し話題となった。ネットを見ると、女には落語は無理と言われ続けた悔しさからの発言だったようだ。そんな痛快さもあって、今や全国的な人気者になっている。私はこの日が、二葉初体験。浅草で二葉さんを拝見できるとは、木馬亭に感謝だ。
 
江戸落語界と違って上方落語界には前座二ツ目真打という階級制度がない。しかし、年季という身分制度はあるとのこと。江戸落語では真打という階級と師匠という敬称は繋がっているので、お名前を呼ぶ際に判断に迷うことはない。しかし、上方落語では年季明けたあとの敬称は、いつから師匠と呼ぶべきなのか、東京にいると判然としない。
この日の主任を務める二葉さんは、NHK新人落語大賞を受賞された後に、受賞記念で大阪の寄席である繁昌亭で主任を務めている。なので、寄席で主任を務めているので、本来は師匠という敬称で呼ぶべきかもしれない。しかし、なんだか堅苦しい気もするので、ここでは親しみを込めて二葉さんと呼ぶことにする。
 
三遊亭楽太「鳥根問」
この会の1月に前座として拝見して以来、この日で二回目。この日も前回同様にご自身が兵庫県姫路市出身なので、楽屋では一人アウェイというネタ。前回のときも出演者にいじられていたが、この日も皆さんがいじってくれた。
円楽師の弟子として習った噺を、と始まった本編。噺は「つる」の変形のような一編。ネットで調べると、「つる」の原型の噺のようだ。雀、鳩、インコなど鳥の名前の由来を、知ったかぶりの隠居が馬鹿々々しく語るという根問もの。鶴は偉い鳥なのかどうかという話から、ここらら「つる」と同じ。下げは独自のものか。
 
桂九ノ一(くのいち)「野崎詣り」見台あり
桂九雀師匠の弟子、枝雀師の孫弟子にあたる。まずは、元気な若手の登場。明るく賑やかな枝雀師の芸風を感じさせる高座だ。仕草も大きく表情も豊かで、一席目から上方落語らしい華やかさで盛り上げる。
本編は、何んで古典落語として残っているのか、という噺を演ります、という前置きでこの噺を始める。江戸落語にはない、上方落語でしか聴けない演目。上方落語の特徴でもある旅ネタの一種。
大阪で掛けるのと違い、東京では土地勘が無く風習も分からないので、野崎詣りの地理や風習を丁寧に解説してくれた。「野崎」という由緒ある出囃子の曲とも縁のある場所。現在もある野崎の商店街で始終この曲が流れていて、地元の人たちの評判は良くないというエピソードが可笑しい。
上方落語でお馴染みの登場人物、ボケ役の喜六とツッコミ役の清八との遣り取りが楽しい。この野崎詣りの道中、参拝者同士の口喧嘩で勝つと良いことがあるという運試しのような風習がある。道中を船で行く喜六と清八が、土手を歩いて行く人たちに向かって口喧嘩を仕掛けて、言葉遊びのような掛け合いを見せる。ここは音曲も入る見せ場、大熱演の九ノ一さんだった。
 
笑福亭仁福(じんぷく)「手水廻し」見台あり
仁鶴師の弟子。久し振りの東京、久し振りの仕事ということからのボヤキのようなマクラから。客席に会話しているように語りかけ、短い噺しか演りません、とのやる気なさ気な不思議な雰囲気が可笑しい。九ノ一さんとの落差が大きく、上方落語の振り幅の大きさを感じる。
何をメモしてますの?と客イジリ。古い汚いと会場イジリ。そして、裏切り者と楽太さんイジリ。こうして目の前の観客を掴む技量は、さすがベテラン。
本編のマクラは、方言の話。佐賀の「ない」、長野の「手打ち」「半殺し」「皆殺し」などの方言の違いによる可笑しさ。大阪をちょっと離れると通じない言葉が「手水」と、この噺の主役の言葉を説明してから本編へ入る。東京では、神社に参拝する前に手や口を清めることでお馴染みの言葉。
落語ではよく登場する、分からないことを素直に訊けない知ったかぶりを描く噺。この知ったかぶりの宿屋の主従が、大阪の宿を訪ねて巻き起こす騒動。仁福師匠が醸し出すのんびりと長閑な雰囲気が、噺にピッタリ。田舎者を揶揄う噺ではあるが、言葉や風習が地域ごとに違う面白さ、素直になれない大人の可笑しさを上手く伝える噺として楽しめる。
私的には、この日一番の上方らしさを感じた一席だった。
 
仲入り
 
桂しん吉「無人化条例」見台あり
米朝一門、亡き吉朝師の弟子。米朝師宅で住み込みの内弟子を3年間経験。そんな修行時代の思い出話から。
以前、鈴本演芸場では毎年12月に米朝独演会を開催していた。前座は一門が務める。しん吉師匠は最後の独演会のときに出演された。今までで東京の寄席に出演したのは、この鈴本演芸場のみという貴重な経験。このとき、客席ではまったく反応がなかったが、アンケートには良く書かれていた。東京の観客は皆さん優しいと。生の上方落語を東京でも聴ける機会が増えている今、貴重な経験談が当時の状況を伝えてくれる。
ネタ帳を見て新作もあったので、私も新作を演りますと、そこからご自身の趣味の鉄道好きの話。阪急沿線で育ち、子供の頃から阪急電鉄の車両が好きになる。そこから鉄道全般に興味が広がっていったようだ。上方にも鉄道好きの落語家がいるという、当り前のことだけど目の前で拝見して、ちょっと感動。
そして本編は、ご自身作の鉄道にまつわる新作。行政からの要請で機械化合理化を求められることになって、財政難によって実現できない地方鉄道が苦肉の策で見せる混乱を描く。柳家わさび師匠の「券売機女房」のような、また「動物園」のような設定といえば落語ファンには伝わるだろうか。下げもまさに、動物園。上方落語にも鉄道落語ここにあり、を見せつけた一席。
 
桂二葉「青菜」見台なし
最後の出番になって見台が取り払われた。二葉さんが登場するなり、一人だけ見台無しで落語を披露することについて「江戸の風を吹かせます」との一言。そう言って始まるのが、コテコテの上方弁の一席だと分かっている可笑しさで、会場爆笑。談志師匠の言葉としても有名な「江戸の風」が登場、落語ファンはこの一言でグッと掴まれたことだろう。また、二葉さん目当ての多くの観客は、登場と同時に一気に前のめりになったようだ。
本編を聴くと、江戸や明治の時代を感じさせる長閑でのんびりとした風景を見せてくれて、今の世の中には無い昔の空気があふれていた。ニ葉さんはギャグで「江戸の風」と言ったかもしれないが、江戸落語という意味の風ではなく、時代の雰囲気を感じさせるという意味の風なら、確実に吹かせていたと感じた。
 
この日の顔付けは、主任の二葉さんが行ったとのこと。大好きな先輩の仁福師匠としん吉師匠にお願いした。しん吉師匠と一緒に鉄道に乗ると、鉄道の解説が詳しすぎるという逸話が楽しい。しん吉師匠からは「金明竹」、仁福師匠からは「粗忽の釘」の稽古を付けてもらった。この「粗忽の釘」の稽古風景が抜群に可笑しい。仁福師匠の人柄が伝わり、この日の高座ぶりと併せて、より親しみがわく。
実話をざっくばらんに話すマクラが楽しい。このマクラで空気を換えて、二葉ワールドの本編へ突入。
 
本編は、季節を先取りした演目。私は今年初の青菜。江戸落語とほぼ同じ設定や筋書き。
御屋敷の庭仕事の後、庭を眺めながら縁側で柳陰を飲み交わす二人の様子からは、打ち水をした庭から吹く風が心地良さそうだ。ここでは、上方の風が確実に吹いていた。
この植木屋さんは、根っからの善人。上方弁でいうと「べんちゃら」の上手いお人好しで、少し抜けているけど正直な職人なのだ。そんな植木屋と割れ鍋に綴じ蓋といった風に相性のいい女房。亭主につっけんどんでもなく悪態をつく訳でもない。ほのぼの夫婦だ。
そんな植木屋夫婦の小芝居に付き合うのが、大工の友人。茶番劇だと分かったうえで、ノリで一緒に付き合う。登場人物は、みんな優しいのだ。
上方の下町で、仲良く肩を寄せ合って生きる庶民たちを、ほのぼの且つ活き活きと描く青菜。まさに、二葉さんの大好きなじゃりン子チエの世界が浮かぶようだ。女流と呼ばれるのが嫌いなニ葉さん。まさに、ニ葉さんでしか出来ない落語。これが二葉ワールドなのかと、納得の一席。

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