落語日記 坂道を懸命に上っている遊かりさんと一花さん
遊かり・一花「坂の途中」VOL.14
7月24日 高田馬場・ばばん場
会場を移動し内容をリニューアルしてから、今回が二回目。二人会で行う勉強会というコンセプト。お二人の奮闘ぶりを楽しみに毎回通っている。会の回数は「すききらい」のときからの通算表示となったので、この日記もその表示に従う。
オープニングトーク
登場するなり、帯を締めてくるのを忘れた遊かりさんが、慌てて楽屋に戻る。このいきなりのマジボケ出オチのハプニングが爆笑を呼ぶ。
二人が会うのは久し振りとのことで、お互いの近況報告。姐さん、色っぽくなったといきなり褒める一花さん。遊かりさんに、なにか心境の変化があったのか。
遊かりさんが明日、公推協杯という競技会に挑戦される。その報告とともに、人と競いたくないから落語家になったのに、とちょっと弱気な発言。今回の公推協杯は推薦を受けた者だけが出場できるので、ノミネートされたこと自体ありがたいことだと感謝の気持ちを語る遊かりさん。
コロナ禍が治まってきて、最近は地方公演の仕事が増えている。移動時間が長い鉄道での移動が多い落語家の仕事。一花さんは、鉄道の乗り間違いが多い。よく乗り間違える駅がある。しっかり者の印象がある一花さんだが、以外と方向音痴なのかも。
そんな二人のトークで盛り上がる。
春風亭一花「四段目」
この日の主任は一花さんの番。なので、一番手で登場。
マクラは、この日の昼間に女将さんや兄弟弟子の四人で歌舞伎観劇に行ってきた話。歌舞伎の舞台という非日常世界を堪能してきた、そう興奮気味に語る。そこでの経験談は、観劇中隣に座っていた観客のおばちゃん達の会話のエピソード。これが、思わず漏れるおばちゃんたちの心の声が笑える話。一花さんの人間観察力が生んだマクラだ。
賞レースの話を受けて、若手時代の夏は、毎年NHK新人落語大賞に向けた準備に追われるというお話。このNHKの競技会は口演時間の制限が厳しく、持ち時間は11分とのこと。そこで、今年はこの演目で挑戦しようと思っていますので、これからその噺を掛けます、11分を厳守します。そう宣言して噺に入る。
この演目は一花さんでは初見。なるほど、芝居好き、歌舞伎好きが登場する演目に繋がるマクラ。本編は、NHKの本選の高座に向けた、時間を制限した試行版。テンポよく凝縮された一席。芝居が嫌いだという嘘がバレる前半、蔵の中での一人芝居の後半、いずれも可愛さあふれる定吉。一花さんらしい一席だった。
決勝戦進出するだけでも大変なNHK新人落語大賞。お二人の検討を祈りたい。
三遊亭遊かり「夢の酒」
座布団の上、まだ合曳を使っている。どうやら、膝の怪我はまだ完治されていないようだ。袴を着けていないので、少しは回復されたのか。
まずは、一花さんの歌舞伎見物の話を受けて、歌舞伎ファンの遊かりさんとしては黙ってはいられない様子で、ご自身の歌舞伎愛を熱く語る。歌舞伎の世界は、大人のディズニーランド、そう例える遊かりさん。
猿之助ファンの遊かりさん、事件後に猿之助丈が出演するはずだった明治座の公演を観にいった。急遽代役を務めた中村隼人丈のみならず、セリフのない役者も含めて、全員が一丸となって公演を盛り上げようとしている気迫を感じたとのこと。これが歌舞伎の底力であり、魅力でもある。大勢のキャストやスタッフが関わる総合芸術である歌舞伎の、まさに底力が発揮された公演だと感じたようだ。
また、子供の頃から歌舞伎役者として育てられている役者たちに交じって、市川中車丈はよくやっていると称賛。年齢を重ねた後に落語家に転身した遊かりさん、同じように歌舞伎役者へ転身した中車丈の境遇に、思いを馳せていたのかもしれない。歌舞伎の話は、やっぱり長くなった。
本編は、最近よく掛けている演目。私がこの演目を聴いたのは、前回の独演会での一席。あれから、そんなに時間は経っていないが、前回との違いは明らかだった。独演会のときより、滑らかな語り口となって聴きやすくなり、メリハリもあった。相当、高座に掛けて続けて磨き込んだことを感じさせるし、この変化は遊かりさんの精進の証し。こんな変化を感じられるのも、勉強会ならではの楽しさだ。
若旦那が語る夢の中の物語、登場人物が現実世界と違いを感じさせないリアルさがある演出。特に新造が色っぽく描かれている。この辺りは、遊かりさんの面目躍如。将来の十八番となる予感がする。
仲入り
三遊亭遊かり「別にちょうだい」
この会は勉強会なので、完成前の噺を掛けることについて、お許しください。坂の途中なので、ご勘弁を。そんな挨拶から始まる。
本編は「のめる」を登場人物や口癖を現代の若い女性に置き換えた改作。現代の女性二人の口癖が「別に」と「ちょうだい」。この口癖を言ったら、お互いに罰金を支払うと約束。そこで本家のように、相手に口癖を如何に言わせるかを競う。口の減らない女性同士の闘い。この二人の攻防戦が、本家版と違った可笑しさ。
女性の会話アルアルでもあり、良く出来た筋書。女性演者だからこそ口演出来る噺だろう。
十分に完成された一席だったと思う。遊かりさんは新作の作者としても才能がある。
春風亭一花「野ざらし」
この日の主任は一花さん。時間が押しているようで、マクラは、この演目特有の馬鹿の番付の話から入る。馬鹿の番付は、西の大関が醤油を二升飲んだ奴、東の大関が釣人、そんなお約束のマクラ。
本編は、これまたテンポ良くリズミカルな一席。この噺くらい、会話や独り言にリズムを求められている演目もないだろう。途中に登場する唄、サイサイ節も良い咽を聴かせてくれた。主人公八五郎の陽気さ、馬鹿々々しさ、欲望の赴くままの行動、どれも落語の登場人物らしさや能天気さを象徴するもの。一花さんはこの肝の表現が出来ている。
主人公が女性に対する欲望丸出しの噺。なので、女性演者には難しそうな噺だが、女性演者であることを意識させない一席だった。