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落語日記 噺を熟成させたことが分かる蔵出しの一席を聴かせてくれた馬治師匠

第23回 馬治丹精会
6月3日 日本橋社会教育会館 ホール
 
金原亭駒介「道灌」
 
金原亭馬治「棒鱈」
 
桂小すみ 音曲
 
仲入り
 
金原亭馬治「付き馬」
 
馬治師匠主催の独演会で、毎回、裏方としてお手伝いさせていただいている。前回の会場の江戸東京博物館が改修工事に入ったので、今回から会場を日本橋社会教育会館のホールへ移しての開催。この会場では、落語会がよく開催されているので、私も馴染みのある会場。客席に段差があって観やすい。ただ、椅子が硬いのが難点。感染状況も落ち着いてきていて、この日も常連さんが大勢来場されていた。
今回のゲストは、落語芸術協会の音曲師、桂小すみ師匠。いつもは落語協会の色モノさんをゲストにお呼びしているのだが、今回は異なる協会からのゲスト。丹精会としては、4年前の第14回のゲストに漫才師の宮田陽・昇先生に出演して頂いて以来。前回もそうだが、協会が違うので寄席では絶対に拝見出来ない組み合わせは、なんだか新鮮に感じる。
今回も裏方仕事の合間に、ロビーに流れるモニターの音声でときどき拝聴。客席では聴けなかったので、この回の日記も、音声のみで部分的に聴いた感想。
 
馬治師匠の一席目の「棒鱈」は、十八番中の十八番。ロビーに流れる音声だと、地の会話のところは聴き取りにくく、声を張っているときは明瞭に聴こえる。なので、馬治師匠ががなり立てて唄う田舎侍の奇妙な唄は、ロビーに響き渡っていた。
「百舌の嘴」では、気合一閃、雄叫びを上げる。「十二ヶ月」では、各月ごとに充分に間合いをとって、この無音の間が笑いを引き出していた。この日は、七月まで繰り出される。通常は四月までしか唄われないので、五月以降は馬治スペシャルだ。
 
小すみ師匠も地の語りのところは聴き取りにくかったが、演奏される三味線の音色と小すみ師匠のハイトーンで澄んだ唄声は、ロビーでも充分味わえる。同じく響き渡っていた馬治師匠の田舎侍の戯れ唄とは、同じ邦楽でも大違いだ。都々逸の粋な唄声から、曲弾きのような見事なバチ捌きだろうと思われる早弾きの演奏まで、ロビーでも充分味わえた。
後で観客の方に聞くと、途中で三味線の糸が切れるアクシデントがあったようだ。しかし、そんな不運な出来事があったなんて感じられない、流れるような高座だった。
いつもお手伝いいただいている前座の駒介さん。明大落研出身で、落研時代は落語以外に三味線漫談も演じるほどの三味線好き。個人的にも端唄根岸流に入門、腕を磨いて師範名取まで取得されたほどの邦楽好き。なので、協会が違い寄席では聴けない小すみ師匠のこの日の高座を、駒介さんは観客以上に楽しみにしていたはず。いずれにしても、小すみ師匠の見事な高座は、駒介さんにとっても勉強になったものだと思う。
仲入りで、休憩にロビーへ出てきた観客の皆さんの小すみ師匠の高座に感激された様子が、「凄かったねえ」という言葉とともに裏方まで伝わってきた。落語協会所属の馬治師匠のご贔屓さんの中には、芸協の小すみ師匠を初めて観る方も多かったかも知れない。そんな馬治ファンに、小すみ師匠の凄さを感じてもらえたのなら、お手伝いしてる者としては嬉しい限り。
 
仲入り後は、馬治師匠のトリの一席。ネタ出しされていた「付き馬」だ。
この演目は、コロナ禍で中止となってしまった幻の第20回で「鰍沢」とともに掛ける予定だった噺。2年越しの再チャレンジとなった。私が馬治師匠の「付き馬」を聴くのは、2017年8月の廓噺研究会以来なので、約5年ぶりだ。馬治師匠にとっても、おそらく蔵出しの一席となったものと思われる。
 
5年前の日記を読み返してみると、前回聴いたときの印象は、習った雲助師匠の直伝の型を忠実に継承されていた、とある。この型の特徴的なところは、吉原から浅草まで若い衆を連れ出す道中が、浅草の名所案内をしているような詐欺男の饒舌さが見事なところにある。若い衆に口を挟ませないで、結果、田原町まで連れて来てしまう。朝風呂に入って、飯屋で冷奴の朝食たべたうえに吉原から田原町まで歩いてくるとは、地元の住民としては、かなりの長時間に渡って連れまわしたことが分かる。この舌先三寸で、店の付き馬となった若い衆を長時間に渡って連れまわすことができることから、男が相当な腕前の詐欺師であることが、地理が分かる地元民には強く実感できるのだ。
そんな詐欺男の舌先三寸の場面だが、この日の馬治師匠は、浅草観光案内的な部分をかなり削っていた。今回は馬治色強めの演出だったと思う。そして、これは私の好きな志ん朝師の型に近いものだ。
これは、早桶屋の主人との遣り取りからも感じられる。詐欺男の極端に大声と小声を使い分けている様子は、志ん朝師の得意とするところだし、思わず笑ってしまう楽しい場面。馬治師匠が志ん朝師を意識されていたかどうかは不明だが、志ん朝ファンの私としては嬉しい演出だった。
細かいクスグリなどはロビーでは聴き取れず、客席で聴いてみたかった一席だった。いずれ聴く機会があると思うので、それまで楽しみに待ちたい。

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