
落語日記 まん防適用されて初の週末の寄席に行ってきた
鈴本演芸場 1月下席昼の部 柳亭左龍主任興行
1月22日
新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株によって、全国的に感染者が急増してきたこの週。東京都において、まん延防止等重点措置が1月21日金曜日から適用になり、適用後初の土曜日を迎えた。
2019年初頭から始まったコロナ禍における演芸界の様子を追いかけてきた落語ファンとしては、行けるときは出来るだけ様子を見ておきたいという思いで出掛けてきた。
この下席の主任は、私の好きな左龍師匠。しばらくご無沙汰していた左龍師匠の高座を拝見する良い機会でもある。自分の体調も悪くないので、出掛けることに決めた。
コロナ禍において何度も繰り返された緊急事態宣言で厳しい経営環境にあった寄席だが、昨年12月の感染状況の落ち着きによって、じょじょにではあるが観客が回復していた。そこに来て、今回のオミクロン株による感染拡大とまん延防止等重点措置の適用で、また一気に厳しい状況になってきたようだ。
また、鈴本演芸場の夜の部として開催されていた落語協会主催公演「百日寄席 上野街笑賑~クラウドファンディング 感謝公演~」が、まん延防止等重点措置発出を受けて当面の間公演を一時中止することが、落語協会より1月21日に発表された。したがって、鈴本演芸場では当面、昼の部のみの開催となる。
さて、当日は開演直後くらいに入場。客席の制限は、中央ブロックの最前列のみ着席禁止。市松模様の制限は無し。入場時点で、観客はおそらく20名ほど。終演時点でも、30名から40名くらいと思われる。最前列を除き満員で270名の鈴本演芸場で、この人数はかなり少なく感じられる。やはり、このまん防発出直後なので、遠慮されているようだ。また、この状況下で安心して客席で笑っていられない、楽しめないという気持ちも分からないではない。
客席には、さすがに年配の方は少ない。この人数でバラけて座っているので、ソーシャルディスタンスはバッチリ。
そんな寂しい客席だが、落語好き、寄席好きなコアな少数精鋭の観客が集合している雰囲気を強く感じる。決して怖いもの見たさの決死隊ではない。いつもと変わらず、寄席を純粋に楽しみたいという空気があふれているように感じるのだ。それは、演芸が進むにつれて広がる客席の暖かい反応と、演者の熱演から産まれるものだ。寄席ファンはとしては、そう考える。
客席の高座を観る目が優しい。演者のクスグリを丁寧に拾って反応する客席。この雰囲気が演者をのせて、さらなる熱演を引き出す。熱演と熱狂の正のスパイラルだ。客席の熱狂が生まれるのは、けっして観客の多さだけではないことを痛感。
扇さんの終盤から入場。次に登場したマギー先生の長閑でやる気無さげの手品でも、ネタの一つ一つに反応して拍手。これは演者も嬉しいに違いない。
続く彦いち師匠は、新作ではない古典。彦いち師匠の古典は初めてかも。それだけで私のテンションがアップ。その反対俥が、見事な一席で、少人数と思えないほど客席爆笑。彦いち師匠もこの笑い声にのせられた感はあるが、新作のネタの面白さだけではなく落語の腕の確かさも見せつけた高座だった。
この高座の流れを一之輔師匠が上手く引き継ぎ、得意の一席で客席を沸かす。何度聴いても可笑しい「啞の釣り」。
再び色物のニックスの二人。トモさんの「そうでしたか~」は笑いを呼び、すっかりキラーワードとなっている。
初めの扇さんは新作だったが、続く皆さんは、みな古典。それも古典本来が持つ面白さを感じさせる高座ばかりだった。菊丸師匠は鍋を上手そうに突っつき、玉の輔師匠の間男新吉の情けなさ、女将さんのエロさが抜群に可笑しい。
侍たちの粗忽加減が突き抜けている甚語楼師匠の高座も笑わせてもらった。太神楽も紙切りも、寄席の日常感があって心地良い。
後半も熱演が続く。こみち師匠は、いつものように古典の改作、こみち落語を聴かせてくれた。この「看板のピン」に登場する伝説の博奕打は、壺振りお京。このお京さんがぶっ飛んでいて、私のツボにハマった。
扇遊は、前座噺とも思えない楽しい「一目上り」。八五郎の人間性も良いし、周囲の人達も暖かく、気持ちの良い一席。
金魚ちゃんの髪飾りは節分仕様で、巨大な恵方巻をのっけて踊りまくる。
そしてお目当て左龍師匠は、マクラもそこそこに「甲府ぃ」を熱演。いつものような顔芸もなく、淡々と善吉や豆腐屋夫妻を描いていく。トリの一席は、爆笑が続いた前方と打って変わって、クスグリも少ない静かな一席となった。これが逆に、登場人物の情感を伝える人情噺の味わいを引き立たせる。
素直で生真面目な善吉、人情家で人の好い豆腐屋の主人。殺伐とした現実世界では、なかなか感じられない人情味あふれる落語の世界。喧噪の外の世界を忘れさせてくれる、寄席という空間に浸ることができた。
このような厳しい状況にあっても、演者の皆さんの普段と変わらない高座に接し、大いに元気をいただいた。と同時に、気軽に寄席に行ける日常が早く戻って欲しいと、痛感させられた。
番組
林家扇「歯ンデレラ」林家きく麿師匠作の新作
途中入場
マギー隆司 奇術
林家彦いち「反対俥」
春風亭一之輔「唖の釣」
ニックス 漫才
古今亭菊丸「ふぐ鍋」
五明楼玉の輔「紙入れ」
鏡味仙志郎・鏡味仙成 太神楽曲芸
柳家甚語楼「松曳き」入船亭扇辰代演
仲入り
林家正楽 紙切り
羽根つき(鋏試し) 七福神 双子のパンダ
柳亭こみち「看板のピン」
入船亭扇遊「一目上り」
すず風にゃん子・金魚 漫才
柳亭左龍「甲府ぃ」