落語日記 久々の主任興行も、第6派のピークと重なり苦闘する馬治師匠 その1
鈴本演芸場 2月上席昼の部 金原亭馬治主任興行
2月5日
馬治ファンとしては、待ちに待った寄席の主任興行。コロナ禍の影響があり、主任の席取り合戦が激化しており、なかなか馬治師匠に主任の出番が廻ってこなかった。今回の2月の寄席の顔付けの発表も1月になってからと、いつもより遅かった。これもコロナ禍の影響かもしれない。なので、ちょっとビックリの発表でもあった。
馬治師匠の主任興行は、コロナ禍が始まる前年の2019年の池袋演芸場9月下席昼の部以来、鈴本演芸場における主任興行は、同じ年の6月中席夜の部以来となる。
2020年初頭からのコロナ禍によって、演芸界も大きな影響を受け、寄席の主任の席取り競争も激化してきた。そんなコロナ禍に置ける寄席の状況を、馬治師匠の足跡を交えながら、記録に残したいと思う。
ときは、コロナ禍が始まる2020年まで遡る。東京都に発令された緊急事態宣言を受け、2020年4月4日より各寄席も休業を余儀なくされた。馬治師匠は鈴本演芸場5月下席夜の部で主任を務めることが決まっていたが、結局、鈴本演芸場は6月末日まで休業することになり、主任興行も幻となってしまった。
3月下席から始まったばかりの落語協会の真打披露興行が4月3日で中止となってしまった。可哀そうなのは、新真打、三遊亭丈助、春風亭一左、三遊亭志う歌、玉屋柳勢、三遊亭歌扇の五人の師匠方。一生に一度の真打昇進披露目の興行が、ほとんど開催できなかったのだ。
そこで鈴本演芸場では、リアル開催の代替として、主任興行が中止となってしまった落語家の皆さんを主任とする番組構成で、各主任一回限りで寄席からの無観客でのライブ配信を行った。また、途中で中断された真打昇進披露興行も、2日間だけライブ配信で行われた。これによって、馬治師匠の主任興行のライブ配信は、2020年6月28日に行われた。
2020年の暮れから急激に感染状況が悪化した。寄席ファンが恐れていた事態が発生する。
鈴本演芸場では、2021年二之席の前座や出演者の感染が判明して、1月18日から休席となった。楽屋でのクラスター発生だ。
落語協会は1月20日、寄席の出演者の感染を受け、21日から浅草演芸ホールと池袋演芸場の1月下席を全面中止すると発表した。
その後、2月に入ってからも独自に休業していた鈴本演芸場は、3月下席昼の部の春風亭柳枝師匠たち5人の真打披露興行から興行を再開させた。
2021年4月25日に4都府県に出される緊急事態宣言を受けて、東京都内に四つある寄席は、客数を定員の半数以下に減らして通常通り興行をすることを決めた。都からの無観客開催の要請に対し、例外規定である「社会生活の維持に必要なもの」に該当すると寄席側が判断したと伝えられ、寄席ファンの私としてはよくぞ言ってくれたと、喝采を贈ったことはまだまだ記憶に新しい。しかし、その後の行政側からの強い要請を受け、各寄席が5月1日~11日まで休席となった。
鈴本演芸場は2021年3月下席より再開させたが、夜の部が休止され、そのうえ寄席の歴史初となる定休日が設けられることとなった。年末を除き毎日興行を開催するのが寄席の常識。まさに、コロナ禍によって、寄席の世界でも歴史的な出来事が起きたのだ。この鈴本演芸場の夜の部の休席によって、落語協会の主任の席取り競争も、ますます激化することになる。
2021年後半に落ち着いたかに見えたコロナ禍も、2022年の年明けからオミクロン株による急激に感染が拡大し、東京都には1月21日より、まん延防止等重点措置が適用された。
これを受けて、その後再開されていた鈴本演芸場の夜の部の落語協会主催公演「百日寄席 上野街笑賑」が、当面の間は中止となった。それ以外の寄席の定席公演は引き続き開催されている。
そんな中、開催された今回の馬治師匠の主任興行は、ファンとしても誇らしいかぎり。リアル開催では2年5ヶ月ぶり、ネット配信からは1年7ヶ月ぶりとなる。馬治ファンとしては、久しく待ちわびた主任興行だった。 しかし、オミクロン株による感染の拡大がピークを迎えた時期と重なる不運。こればかりは、予測出来るものではない。不要不急の外出が呼びかけられるなかでの主任興行となった。
この2月上席の顔付けは、馬治師匠以外も皆さんが主任級の人気者ばかり。これは他の寄席の昨今の顔付けにも見られるように、集客を考慮するためか、はたまたコロナ禍によって寄席以外の仕事が減っているためか、出演者が人気者ばかりに偏っているように感じるのだ。落語協会しか出演しない鈴本演芸場では、特にこの傾向が強い。
人気者を多く出演させ少しでも集客を図りたい寄席側の思惑も分かるが、バラエティさの少ない顔付けは、観客としては嬉しいような寂しいような、複雑な心境になる。
それでも、感染対策に気をつけながらもリスクを覚悟して出演している芸人さんたちには頭が下がる。現にこの芝居中でも、紙切りの二楽師匠が感染されている。
久々の寄席の主任、馬治師匠も気合が入っている。この季節の十八番は色々あるので、何を掛けてくれるのか楽しみにしていた。
そして、この日は十八番の「文七元結」を披露。じっくりと語れば長講となる演目。これを寄席の主任サイズに上手くまとめた。進行を急いだ一席ではなかった。噺のメリハリとセリフの再構成による作業で、噺のポイントを省略することなく、時間内に見事に収めたのだ。
馬治師匠の一席を聴いて感じたのが、寄席の主任の資格があるとするなら、どんな演目でも主任の出演時間内に上手くまとめることができ、なおかつ観客を満足させる高座を披露できることにあるのではと。
馬治師匠は久々の主任興行での高座で、演目選びは悩まれたことだろう。主任ネタに相応しい大ネタの十八番も多い。今回、それらを披露する機会をもらったことは、我々馬治ファン以上に師匠自身の喜びが大きかったに違いない。そう感じさせる充実の表情を見せてくれた馬治師匠の高座だった。
柳亭市遼「小町」
金原亭小駒「うなぎ屋」
ストレート松浦 ジャグリング
五明楼玉の輔「都々逸親子」
桂三木助「看板のピン」
おしどり 音曲漫才
入船亭扇辰「紋三郎稲荷」
宝井琴調「徂徠豆腐」
すず風にゃん子・金魚
桃月庵白酒「代書屋」
仲入り
江戸家小猫 ものまね
三遊亭圓歌「三代目圓歌伝」
隅田川馬石「粗忽の釘」
林家正楽 紙切り
相合傘(鋏試し) 雪景色 双子のパンダ
金原亭馬治「文七元結」
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