春について

秋が好きだ。これから寒くなっていく前の、穏やかな静けさ。高い空。にわかに活気づいた夜の虫たちが、少し静かになる頃も。とても柔らかく澄んでいる、半透明の季節。

それに比べて。
春はなんて、汚いのだろう。
空は霞むし、空気は汚い。春の生ぬるい風。太陽が照りつけた翌日には、冬が思い出したかのように足掻く。身体は冷えたり火照ったり忙しい。善人も悪人もごたまぜになり、1年間頑張りましたと無理やりに区切って季節を押し流していく。

そしてなにより嫌いなのは。
桜があまりにも華やかで美しいこと。
全く素朴でない、薄紅色のかたまり。
目が惹きつけられる。その強引さが、嫌いだ。
花といえば桜。誰もがそう信じている。
皆が良いと認めるものが私は嫌いなのだ。ねじ曲がっていて、可愛くないのだ。偏屈で、愛想がない。そのくせ人から気に入られようとする所は私のもっとも醜いところだ。
好きなら好きと、言えないのか。

だからこそ、賞賛される春でなく、穏やかに過ぎていく秋の方が私は好きだ。

花曇り、曇っているくらいがちょうどいい。
曇っていたってどうせ綺麗なんだから。
せめて天気くらいは、桜の味方をしないで。

欠点の見えないものは怖い。それは桜も同じだ。とても綺麗だと思うけど、散ってしまうと安心する。

あと何度季節を繰り返せば、心から賞賛できるのだろう。美しすぎて、憎らしいのだ。

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