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VARシステム/三笘の1.8mmは正しい?(1/2)

FIFAワールドカップ・VARシステムの測位技術とサッカーの行方

FIFAワールドカップ・カタール大会の対スペイン戦で三笘選手のライン判定「1.8mm」に一役かったVARシステム。そこにはどのような測位技術が使われ、どのように高い精度が実現したのかを明らかにします。

そして、この仕組みにより「サッカー」というゲームは「デジタルツイン」に変容しました。人とデジタル技術、あるいは現実空間のサッカーと仮想空間のサッカーが同時並行してゲームが高度化する、新たなステージに突入しています。

1回 1.VARシステムに新たな測位技術を採用
   2.三笘選手のライン判定
   3.テクノロジーは非公開

2回 4.UWBの測位精度
   5.「1.8mm」測位は不可能
   6.デジタルな現実が基準になるサッカー
   7.IMU搭載ボールの問題

1.VARシステムに新たな測位技術を採用

FIFAワールドカップ・カタール大会で導入されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)システム。対スペイン戦で三笘選手のライン判定にも一役かいました。

VARシステムは、2018年開催のワールドカップ前回大会で正式に導入されました。その際に採用された技術が、映像判定システム「ホークアイ」です。スタジアムに設置された専用追跡カメラが収集する画像情報を解析して位置情報や選手の四肢情報を得るものです。

そして今大会では、それに加えて位置情報技術「IMU(慣性計測ユニット)」が導入されました。IMUとは、公式ボール「アル・リフラ」に埋込んだチップを使った新しいトラッキングシステムです。ボールの位置情報や挙動情報を収集します。

IMUが収集する情報と、ホークアイが収集する情報を、人工知能(AI)を使って分析することで、オフサイド判定やライン判定を行いました。

2.三笘選手のライン判定

対スペイン戦で三笘選手のライン判定では、直系22cmボールが12cmのラインに「1.8mm」かかっていました。

そのことに関して、元サッカー国際審判員の家本政明氏は、以下の様に述べています。

正しいアングルで(映像を)止めて、しかもアップにして、1.8mm(残っていた)というのがわかる。普通に見たら多くの人が出ていたように感じるし、この場合は副審も奥側で、多くの選手が(ボールに対して)被っていた。誤認識をしてしまう。でもそれは人間(の目)では無理なので、テクノロジーによって正しさが立証された代表的なシーン。(*1)
VARは、あくまで唯一の判定者である主審に助言を行う位置づけです。しかし、このように微妙な場面であればあるほど「人間の目では無理なので」という理由で、実質的にVARが判定を下すことになります。
しかし、それほどVARを支えるテクノロジーが高い精度を持つものなのでしょうか。その点について、テクノロジーの詳細が公開されることはありません。そこで、VARのテクノロジーを点検してみたいと思います。

DAZN News「FIFAワールドカップ ジャッジリプレイ#2 前編」@whoknowswins


3.テクノロジーは非公開

IMUは、ドイツのキネクソン社の測位技術が使われています。キネクソン(KINEXON)社は2011年創業の新しい会社です。キネクソン社の測位技術は、バスケットボールやハンドボールでも活用されています。

この測位技術がユニークな点は、ボールに複数のチップを搭載している点です。チップといっても重さは推定30~50gはあるので機器といった方がよいかもしれません。

機器の一つは、加速度センサーとジャイロ(角速度)センサーで、3次元の慣性運動、並進運動、回転運動を検出します。ボールがいつ蹴られたか、スピード、回転などの情報を取得することができます。

もう一つが発信器で、ボールから発信された電波を観客席の最前列前外周に張り巡らせた受信機で受信することでボールの正確な位置を測ります。ここには「UWB」という測位方式が採用されています。VARでは、このUWBとホークアイとの連動でフィールドをマッピングし、ボールがラインにかかったか否か判定します。測位精度は「小数点1桁mm」と言われています。

さらに、無線充電方式を採用しており、スマートフォン充電のように充電器の上にボールを乗せてボール中心部にあるセンサーや発信器への充電を行います。

@whoknowswins


〈参考〉
*1 DAZN News「FIFAワールドカップ ジャッジリプレイ#2 前編」 https://www.dazn.com/ja-JP/news/world-cup/2022-12-08-fifaworldcup-judgereplay/11tic6iuvqn331llxtspfh263e