60.体力

 彼女は驚くほど体力がない。ほんの少し階段を上っただけでも息が切れるし、洗濯機を四、五回まわしただけで腕が筋肉痛になる。
 今日は休日だったので二人で買い物に出かけた。とはいっても食材ばかりなのだけれど。
 店からの帰り道、隣を歩いていた彼女がその速度を緩めていく。表情はほぼ無に等しい。
「重い」
 そう呟いた彼女は荷物を差し出す。僕は持っていた分を片手にまとめ、彼女の荷物を受け取った。
 深刻そうな面持ちで僕に荷物を預けた彼女は腰に片手を添え、玄関のオートロックを開けるためにポケットから鍵を取り出す。
「重すぎて腰痛いんですけど」
 彼女はじゃがいもと玉ねぎとナッツだけでも腰を痛めるようだ。

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