[掌編]


 身体にかかる重みに耐えながら窓を見つめる。次第に遠ざかる地面は辺り一面に白い絨毯がひかれていた。
 一週間後にはまた戻ってくるのに、少しずつ離れる生まれ故郷に不安を覚える。白い地面は徐々に茶色く変わり、白い線が地上絵のように這っていった。
 家を出てから何度目かのため息が耳に届いた。心臓が今にも破裂してしまいそうに高鳴っている。
 北国生まれの私は、修学旅行で行った東京、大阪、奈良、京都よりも南には行った事がなかった。こんな事でもなければ、きっとこれからもあり得はしなかっただろう。
 震える手の平を重ね、握りしめる。まずは良い事を考えよう。この心臓を今すぐ止めなければ、この飛行機が着く頃には気絶してしまっていそうだ。
 空港に着いたらまずは彼を探そう。きっと私の顔を見たら、少しほっとした顔をして笑ってくれる。私は手を振る彼の元に駆け寄って、久しぶりと言うのだ。
 いや、会いたかった。の方が良いだろうか?こういう時にどんな顔でどんな事を言えば良いものなのか思いつかない。
 それから、二人で電車に揺られて目的の駅に向かう。彼はもう乗り慣れたであろうその電車の窓から景色を眺めて。それで、その後は。
 ゆっくりと右手を撫でる。その薬指には、彼からのプレゼントがきらりと光っていた。
 ああ、初めて会うあの人は、彼の隣にいる私を見たらどんな顔をするだろう。
 どうしよう。考えただけで身体が震えてきた。

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マガジン『世界の欠片』

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