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世界の欠片

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2015年8月の記事一覧

闇夜に落ちる

[掌編]

 瞼を透かす明かりに、意識が覚醒していく。夢の中で泣いていた少年は小さな頃の自分だった。頬を濡らす何かが枕に落ちた気がして瞼を持ち上げる。いつもの天井が視界に広がった。
 雫を乱暴に拭って起き上がる。着替えようと服に掛けた手が寸でのところで留まった。どうやら俺は帰ってきてから着替えていなかったようだ。紺色のシャツはところどころが黒っぽく染まっている。
 服にかけようとした指先が震え始め

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夏花

[掌編]

 湿気を含んだ空気が肌にべたりと纏わりつく。
 腕を絡めるカップルや、子どもの手を引く親。沢山の人が目の前を横切り、ざわざわと騒音が耳に響いて離れない。
 ふと甘い香りがしてそちらに目を向けると、クレープの屋台に列ができていた。
 その向かいの屋台では父親が子供に射的を教えている。
 待ち合わせの時間まではあと五分。もう何度も時計を見ては左右を確認している。
 風に乗ってかすかに俺を呼

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向日葵とサイダー

[掌編]

「見て見て、でけえ」
 窓の外では友人がはしゃいで手を伸ばす。
 この蒸し暑い中、よくもまあ直射日光の当たる屋外で走り回れるものだ。
 とはいえ、夏休みだというのに会議の終わった生徒会室にこもっているのも暇なのだ。
 学校に来る途中で購入したサイダーが、汗をかいて机を濡らしている。
 いっそ友人と走り回ろうかとも思うが、いかんせん身体が重く、椅子から立ち上がる気にはなれない。
「お前も

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君の寝顔

[掌編]

 ドアを開けると、テーブルに突っ伏して瞼を閉じていた。
 どうやら勉強をしながら眠ってしまったらしい。
 今日は窓から差し込む日差しも温かい。まあ、仕方がないだろう。
 起こさないようにそっと近づき、顔を覗き込む。ああ、彼女らしい。
 気持ちよさそうに涎を垂らしている。
 くすりと一つ苦笑を漏らして、立ち上がった。側にある彼女のベッドからタオルケットを手に取り、肩にかけてやる。
 一瞬

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