「動き心地」を左右する意外なチェックポイント
わたしは、服をつくる職人で、いわゆるファッションというものとは、似て非なる分野だと思っている。
昔は、流行りも追いかけたし、アパレルメーカーでパターンナーをしたり、ファッションを教える立場に居たこともある。
アバンギャルドな恰好で闊歩していた時期もあったし、スポーティカジュアルなスタイル、ナチュラル系、いろいろ変遷してきた。
風変わりなファッションショーを開催したこともある。
そうしてそのうち、時代に左右されない、オーソドックスなカタチだけど、在りそうで無いものを作るようになり、動き心地のいい服で、人のココロを軽くすることもできることを知った。
そんなわけで、ここでは、一般的に言うファッションとは、ちょっと(かなり)ちがう視点からの話になる。
特に、身体に程よくフィットした服を着たいのに、既製服ではどこかのサイズが合わないことが多くて、それを自分の体型のせいだと思い込んでいる(思い込まされている)人に向けたメッセージになったらいいなと思う。
あと、人に寄り添った服を作ることを目指しているひとにも届けたい。
着心地の良さの一番分かりやすいポイントは、生地の風合いだろう。
柔らかい、さらさらしてる…など肌触りのよさ。
そして、ゆったりしているものは、やっぱり心地よく感じる。
では、それを着て動いてみたらどうか。
実は、そこが何より重要なポイントなのだ。
試着室ではサイズが合うから大丈夫と確認したつもりでいても、一日を通して着てみてようやく気付くこと。
たとえば、棚の上のものを取ろうとしたら腕が上げにくい、とか、
洗い物をするのに背中が突っ張る、とか、
しゃがむたびに股にパンツ(ズボン)が食い込む、とか、
ちょっと動くたびに服もズレちゃうから、しょっちゅう肩の位置を直さないといけない、とかとか
いくらサイズ表示は合っていたとしても、そういう現象は起こりうる。
それを、「自分の腕が太いせいだ」とか、「肩幅が広いせいだ」とか、「背中に肉が付いたんだ」とか、「お尻が大きいんだ」とか、「姿勢が悪いからだ」とか…
あるいは、自分の体型のせいじゃなく「袖が細い」「サイズ表示より小さくできてる」「股上が浅いのが良くない」というように片づけてしまいがちではないかと思う。
実際、オーダー相談の時や、洋裁教室の生徒さん等から、そういう声をよく聞く。
そのとおり!というケースもあるが、パターン(型紙)に問題がある場合が多い。生地の良し悪しや縫製のキレイさ以上に重要なのがパターン。
もちろん、わたしが巷で売られている服をすべて知っているわけではないので、自分で制作したものからの気づきや、たまに既製品をお店で試着してみた時の体感からそう思う。
スポーツほどの激しい動きはしない日常の動作でも、腕が動かしにくいとか、しゃがみにくいというのは、結構なストレスとなる。
それは、体型には関係なく、誰でも感じた経験があるのではないだろうか。
わたしの持論だが、それらを解消するパターンメイキングの要になる箇所は、『背幅』『袖山の高さ』『身体の厚み分』だ。
いずれも、サイズ表記されてはいない箇所。
背肩幅や袖ぐりの大きさや股上の深さも関係なくはないが、重要なのは聞きなれない(かもしれない)部分を考慮したパターンかどうか。ということになる。
近い将来に始める予定のオンライン教室では、さらに詳しく解説したり、実践的な伝え方をしたいと思っている。
そして、服を作ることには興味ないけど、じぶんのカラダに合った動き心地が良くて、しかもスッキリ見える服が欲しい方には、オーダーしてもらうこともできる。
それに、服を買う時のチェックポイントを知れば、買ったけどなんか動きにくいからという理由で出番が減り、タンスの肥やしになってしまうというような残念なことが減ると思う。
スリーサイズや丈以外で試着室でチェックするポイントは
・トップスの場合には、腕を前にグイっと動かしてみたり、バンザイしてみたりする。
・パンツの場合には、しゃがんでみる。
それくらいの動きなら、試着室の中でもできるので、ぜひ!
いずれにしても、大量生産のパターンは、できるだけカバー率高く、コスト削減が優先なので、パッと見の雰囲気やサイズ表示には惑わされず、「動き心地」を確認すると、ちゃんと愛用できる服になると思う。お試しあれ。