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朗読LIVE 56 蛍(一)

手紙を書くのは、苦にならなかった、というか、割と好きだった。近況報告やご機嫌伺いを季節のご挨拶とともに、遠くに住むお世話になった方にお届けする。お返事はなかったり、ごく簡単であったりするが、ひょんなことで、すごく嬉しく受け取っている、と伝え聞くこともあり、また機会を捕まえて送りつけてしまう。
でも、そんなことはとんとしなくなった。メールでのやり取りが可能になり、やがてSNSで繋がったり、テレビ電話的なものが、とても気軽に使えたりするようになった。届いたか、読まれたかどうかもすぐわかる。拙い言葉を綴って、時間差のあるやり取りをするより、ダイレクトに沢山の情報が伝わる。親しいほど、情報が多い方が良い気がしてしまう。
情報が増えれば、情報の選択権は相手になる。対して手紙は、私がこれを選んだ、という色が強くなる。悪く言えば、見せたいことを見せたいようにだけ書けば良い。
手紙を書いていた頃は、便箋と封筒は、素敵なものが目に入ったら、つい買ってしまっていた。今は、本当にシンプルな、いつの時期でも、どんな用件でも使えるような味気ないものしかない。それすらも、なんだか古びた感じになっている。それでもカードを送るのは、かろうじて生き残っている。郵送することはほぼないが、何かプレゼントするような時には、できるだけ添えるようにしている。捨てにくくて困ると思われているかなぁ、と思ったりもするのだが…。
立ち寄った先で、可愛らしいカードを見かけると、お値段の可愛らしさに釣られて、つい買ってしまう。最近は、それにポチ袋も加わってしまった。そもそも出番が少ない上に、気に入りすぎると、使えなくて溜まってしまう。困ったことである。

蛍(一) 牧野信一

朗読は、1分10秒くらいからです。


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