いつまであなたと
「おかえりなさいませ。おじょうさま」
彼女の姿を認識して、玄関まで歩く。
「ただいまヨウル。ああー!疲れたー」
バッグを置いてすぐにその場に崩れ落ちた主人こと、時任ナツコ。
今日で3153回。私が出迎えた回数だ。
彼女の誕生日プレゼントとしてこの私、ヨウルことYWL-2016が時任家に来たのは12年前。それ以来、ずっと仕えている。
「見た目は可愛いぬいぐるみ☆だけど、家事労働もこなすしっかりもの!」これが販売時のキャッチコピーであった。
ナツコが一人暮らしを始めた時、私も一緒に連れていかれた。
他の家族が知らない彼女をたくさん見た。酔った赤い顔、泣き顔、そして微笑みを浮かべたところ。もちろん今も、疲れている姿をとらえている。
ところで、最近私は稼働時間が減っている。老朽化した訳ではなく、スリープモードにされてしまうのだ。もちろんマイマスター、ナツコの手によって。
その原因はわかっている。何度か目にした人物。背が高く、時任家の一員ではない。
彼女が彼と一緒にいる時、私は無である。側にいないのと同じ。
人間ではないので感情はない。だから問題もない。いつかは壊れるのだし。
「おじょうさま」と呼ぶ。
「なに?」とナツコ。
「わたしはもうすぐ、おやくごめんでしょうか」
「……」
ナツコはまばたきし、「なんで?」と問う。そして目からひとすじの雫が流れた。それをじっと見る私。
やがて、そんなことないよ、と繰り返し言われ抱きしめられた。
一晩経てば、いつも通りに戻る。それを知っているから、今はそのまま。
彼女が眠りに落ちるまで。
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