研究室の選び方から内定するまで
医師が研究留学する上でボトルネックとなるのは、研究室に受け入れの内定をもらうこと、経済面(助成金の獲得)だと思います。
個人的な経験を踏まえて受け入れ先の研究室の内定を頂くまでを共有できればと思います。
私の場合
留学するには多くの場合で助成金の獲得が必要になりますが、助成金に応募するためには研究室から受け入れ受諾の書類が必要です。鶏が先か卵が先か、という状態になってしまいます。運が良ければ助成金なしでポスドクとして採用され給料を貰える可能性もありますが、立場を安定させる、業績になるといった点からも助成金を獲得できるに越したことはありません。
そこで助成金を獲得したら受け入れてもらえるか、海外の研究室と交渉することになります。助成金の申請の締め切りの多くは前年の秋で、海外学振は前年の5月です。留学のタイミングは医局人事、家庭の都合などいろいろな要素が絡んできますが、強いコネがないのであれば留学する予定の1年半ほど前から探し始めるのが良さそうです。
私の場合は、大学院2年目の秋に1st authorの論文がacceptされてからラボ選びを始めました。具体的にはpubmedで雑誌名(nature, science, cell, cancer cell, nature medicineなど)と非小細胞肺癌、最近3年以内などで絞り込んでlast authorのラボをリスト化しました。その後、ラボのホームページを見て、メインの研究テーマ、最近の業績、ポスドクやスタッフが何人いるか、日本人が在籍していたことはないかなどをExcelにまとめました。PIがMDなのか、PhDなのか、MD+PhDなのかも調べておきました。全部で40箇所くらいになりました。リストを作るのは大変に思えますが、自分の専門分野で勢いがある研究室を俯瞰して見られることや、面白そうな研究室も多く見つかるため個人的にはそれほど苦痛に感じる作業ではありませんでした。リストの研究室の8割はアメリカだったため、アメリカ留学をメインに検討しました。
リストを作るのと並行して行ったのは、日本人の留学中・留学経験者とつながりを持つことです。今の研究室のボスや同級生の紹介などを通じて、日本人で留学中や留学経験のあるポスドクの20人近くの方とZoomでお話することができました。ポスドクとして雇ってくれそうか、メインの研究はどんなことをしているか、PIの人柄などを確認しました。自分の興味と採用の可能性を考慮して最終的に3つの研究室に絞りました。
ラボを探し始めてから半年後くらいに希望の研究室のPIの2人とお会いして自分の研究内容や留学を検討していることなどを話しました。どちらも今の研究室のボスとコネクションがある程度あったこともあり、好感触な印象だったので、第一希望のラボのPIにCV(履歴書)とcover letterを送ったところ、Zoomでinterviewをしていただけることになりました。まず1時間くらいでラボ全員に対して自分の研究内容をPowerpointでプレゼンして質疑応答を受けました。国際学会で何度か発表していた内容だったため、プレゼン自体はそれほど大変ではありませんでしたが、細かい内容まで質問されました。その後、ポスドク3人とそれぞれ30分ずつお話しました。前の研究室で出した論文に目を通して、質問することを考えておき、30分間が持ちこたえられるようにしました。合計2時間半くらいすべて英語で行ったため、どっと疲れました。海外学振に申請したかったため、1週間後くらいにPIに問い合わせたところ、無事内定を頂きました。私の場合はinterviewの時点で学振PDを使っても留学できる予定だったため、実際に採用になるかは助成金が必要などと言われませんでしたが、この点に関しては人それぞれのようです。
研究室の選び方
私のように医局から代々受け継がれた留学先がない場合は論文などを参考に研究室をリストアップする方法が一般的だと思います。
どのくらいの数をリストアップするかはいろいろな見解がありますが、人事は巡り合わせの部分も大きいため、少なくとも10-20くらいは見ておいても良いかなと思います。
絞り込む上で意識したことは、PIがMDかPhDか、研究室のテーマは肺癌がメインか、細胞やマウスを使った実験をするかドライ解析が中心か、少なくとも数年に1本はメインの論文を出しているか、スタッフの人数などを確認しました。また著名なラボであれば大抵過去に日本人が在籍していることが多いのでalumniも見ました。自分の研究実績とfitするか、ラボのactivityは高いかといった点が重要かと思います。
可能であれば現在在籍中のポスドクの方とお話できるとPIにつながる可能性があがります。また現在の状況もよくわかります。そこで聞く有用な内容としては現状のプロジェクトの方向性、ポスドクを新たに雇ってくれそうな可能性、PIの人柄(ハラスメントがないか、人が頻繁に代わっていないか)に問題がないかと言った点になるかと思います。
PIとコンタクトを取る
大まかに分けて①コネを利用する、②直接PIに連絡を取るの2通りです。
①コネで数年毎に医局から派遣されている留学先がある場合は、そちらを利用するのは良い選択肢だと思います。研究テーマを自由に選んだりは難しそうですが、かなりの確率で留学できると思います。
コネがない場合でも、コネクションを作ることも非常に重要だと思います。学会や勉強会で積極的に話しかける、知り合いの研究者などを通じて紹介してもらうなどの方法があります。実際、私も学会で知り合いの研究者を通じて希望する研究室に過去に在籍していた日本人の方を紹介していただきました。その日本人の方の仲介でPIまでつなげていただき、interviewを受けないかというお話まで頂きました。留学経験のある日本人のほうが、PIに直接コンタクトを取るよりもはるかに返信して頂ける確率が高いため、いろいろな方法でアプローチを取ることが大切だと思います。
②の直接コンタクトを取る方法は、国際学会で話しかける、メールを送ってみるなどがあります。自分が発表したセッションに都合よくPIが居合わせれば話を聞いてくれる可能性が高いです。ただ、そもそも顔がわからない場合も多く、PIが座長や発表をしたあとに話しかけに行くことのほうが多いように思います。メールの場合は返信がないことのほうが普通で、1週間音沙汰がなければ望み薄いと思います。この場合はとにかく数が必要なのと、cover letterはラボごとにminor changeしたほうが良いと思います。
どちらの方法でも最終的にはCVとcover letterが必要であり、どちらも複数の人に添削をお願いしたほうが良いと思います。
Interviewを受ける
多くのラボではラボメンバー全員に自分の研究内容の説明と質疑応答、その後にラボメンバーと個別に雑談をして、その評価をもとに採用するか決めているようです。あくまでも感覚的なものですが、interviewまで到達すると採用される確率は30-50%程度はあるような気がします。ここまで到達すればいくつかのハードルは越えているので、しっかり準備して確実にチャンスを掴みたいところです。
コロナ以前は現地の研究室に赴いていたようですが、今はZoomが一般的です。アメリカの場合、office hourに合わせると日本の早朝か深夜になるのが辛いところです。私も午後10時から深夜1時までかかりました。
プレゼンは15分程度で自分の研究内容を簡潔にわかりやすく伝えられるように練習しました。国際学会で何度か発表していたため、基本的に使いまわしが効きましたが、自己紹介のスライドなどを少し用意しました。海外ではMD-PhDはレアな存在なため、医師の仕事内容も少し紹介しました。かなり質問されることは想定していたので、補足のスライドも10枚くらいは用意しました。派遣先のラボは純粋なアメリカ人は少なかったため英語はだいたい聞き取れましたが、聞き取れなかったとしても焦らずに聞き直せば良いと思います。自分が研究内容をきちんと理解していて、伝えようとしていることがわかれば良いのだと思います。
ラボメンバーと個別に話すのは1人30分程度で、私は3人と話しました。ラボによっては全員(15人!)と話さなければならないところもあるみたいです。研究内容というよりは雑談なので、人柄とかコミュニケーションに大きな問題がないかを確認しているようです。日本語でも初対面の人と30分話すのは結構疲れると思うので、ある程度ネタや質問を用意したほうがよいです。ラボのホームページを見て、今までの論文を確認はしました。また、生活環境、休みの日の過ごし方、家族、出身の国などを話したように記憶しています。
採用決定の連絡は1-2週間で来ることが多いようですが、適当な理由をつけて自分から聞いてみても良いと思います。