鳳上赫(6/6)
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エヴァーフレイムは自分の胸を見た。新たに得た血氣で傷は塞がっている。だが何かがおかしかった。血氣が体に満ちない。吸収し切れず漏れ出てしまっている。
ブロイラーマンはうつ伏せに倒れたまま、手の中にある赤黒いものをエヴァーフレイムに見せつけた。それはエヴァーフレイムの心臓だ。血の源だ。残留血氣でまだ動いている。
エヴァーフレイムは自分の左胸をさすった。対物《アンチマテリアル》パンチを受けたときに抉り出されたのだ。エヴァーフレイムは青ざめて悲鳴を上げた。
「やめろ!」
ブロイラーマンは心臓を握り潰した。
エヴァーフレイムはぐったりとその場に倒れた。
「おおお……!」
エヴァーフレイムはすぐさま残留血氣を生命維持と心臓の再生に回した。胸の中の空洞が埋まっていくのを感じる。三十秒もあれば心臓を再生し、フルパワーの状態に戻れる。
ブロイラーマンが立ち上がった。足を引きずってエヴァーフレイムの元にやってくる。
「神にも等しいだと? ハハ……」
ブロイラーマンは苦しげに笑った。
「教えてやる。人間はな、血族になっても結局中身は人間のままなんだよ……俺はイヤってほどそいつを思い知ったんだぜ……」
エヴァーフレイムはなぜ自分がこんなことになったのか理解できないでいた。人間をはるかに超越した存在が。永遠の炎としてこの世に存在し続ける神にも等しい血族が。
なぜだ。なぜなのだ。その自分が血族でありながら人間の側につき、人間に戦い方を教わり、人間の弱さを残し、人間として戦ったブロイラーマンになぜ負けるのだ。
エヴァーフレイムは恐怖の虜となった。這いずって逃げようにも、手足に血が行き渡らず動かない。そちらに回す血氣が足りない。
エヴァーフレイムは震える声で言った。
「ブロイラーマン! 天外の帝王になりたくないか? すべてはほしいままだぞ!」
「〝NO〟だ」
時間を! 時間を稼がねば! あと二十秒!
「永遠の命を得る方法どうだ?! 私ならそれを……」
「〝NO〟だ」
「ま……待て……! 待て、話を聞……」
ブロイラーマンは拳を引き、瓦割りパンチの姿勢を取った。
あと十秒……!
エヴァーフレイムの口がぽっかりと開き、悲鳴を搾り出す。
「やめろ! やめろ! あああああああああああああ! やめろォオオオオ―――――――――――ォォォォオオオオオオオオオ!!!」
ブロイラーマンは拳をその顔面に振り下ろした。
「〝NO〟だ! オラアアア!」
あと五秒……
グシャア!
* * *
窓の外を見ていた稲日は息を飲んだ。
ベースを放り出し、上着を引っつかんで部屋から飛び出した。
「稲日! 外に出ちゃダメ!」
両親が止めるのも聞き入れず、稲日は団地の外に出た。
斬逸も、永久と花切も。暴動に加わっていた市民も、ギャングも、天外市警の警官も。支え合って立っていたリップショットと竜骨も。
その全員が生まれるより前から天外を覆っていた暗雲が晴れていた。今、誰もが我を忘れ、夜の終わりを見つめていた。
雨が止み、太陽が昇っている。
* * *
カーテンの隙間から差す朝日を浴び、明来は眼を覚ました。
驚いて自分の胸を掴んだ。息ができる。この数年間が悪い夢であったかのように体調が良く、全身に血の気が巡っているのを感じた。
まぶしげに目を細め、起き上がった。ふらつく足で立ち上がり、窓辺に向かう。カーテンを開け、手をかざして指の隙間から暁光を眺めた。
明来はかつて父が教えてくれた、日与の名の由来を呟いた。
「お前は夜を終わらせる者。鶏鳴のごとく世界に朝日をもたらす者」
* * *
聖骨の盾が砕け散った。
中に溜まっていた灰が舞い上がり、昴は思わず手で口と鼻を押さえた。
「ウエップ……! 日与くん!?」
日与が立っていた。昴に気付くと弱々しく笑い、親指を立てた。
昴は涙を堪え、たまらずその首に抱きついた。
「良かった。ホントに良かった……!」
「ああ」
「みんな終わったんだね」
日与は昴を強く抱き返した。それから降参するように両手を上げたまま言った。
「このくらいにしとこうぜ。俺にはその……稲日がいるからさ……」
「あ、ごめん」
昴は急いで離れ、涙を拭って鼻をすすった。
竜骨は「誰もいないか見てくる」と言ってビルに向かった。妙にそそくさとしていた。二人を見ていたくないようだった。
日与、昴は並んで瓦礫に座った。目の当たりにした日の光は想像以上にまぶしく、二人は目を細め、手を目元にかざした。
二人ともしばらく無言だった。今はただこうして、日光を浴びていたかった。
通信機に着信があり、昴が受けた。昴は通話を切ったあとに言った。
「永久さんから。向こうも大方済んだって。斬逸さんたちも無事」
「みんな片付いたか。いやあ……長かったな」
「うん」
「それで……」
日与が言った。
「これからどうする?」
「日与くんはどうしたい?」
日与は笑った。
「稲日に会って、今度こそライブを見に行く。元気になった兄貴と一緒にな」
「私はね……」
昴は大きく息を吐き、ぐったりと頭を垂れた。
「あー、何にも考えられない。おフロ入ってベッドで寝たい……疲れた……」
「あー……そうだな」
どちらからともなく拳を突き出し、二人はそれをぶつけ合った。
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(次回7月29日更新)