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鳳上赫(2/6)
2/6
街角でアンデッドワーカーが見張っていたが、血族三人の敵ではない。
軽く蹴散らし、高層ビルまでやってきた。町が廃墟化した後に作られたものらしく、真新しい建物だ。太陽が放つ熱波めいて強大な血氣を感じる。この上に鳳上がいるのだ。
三人はホールに入った。雑務用のアンデッドワーカーはいたが、警備はおらず素通りだった。普通ならここにたどり着く前に古参たちに殺されているからだろう。
エレベーターで最上階に向かった。この真上が屋上で、ペントハウスになっているようだ。
その階層は小間使いたちの詰め所になっており、顔を垂れ布で隠した女たちがいた。スケープゴートが甘言で掻き集めた信者のうち、見目の麗しい女はここに献上され、血盟会の所有物となるのだ。
「逃げて! 戦場になるよ!」
リップショットが声をかけても、誰一人として応じなかった。ちらりと三人を見ただけで、日々の仕事に戻った。
「何かの能力か薬で精神を操作されてるな。どうすることもできん」
ブロイラーマンが二人に振り返り、言った。
「じゃ、合図したら頼むぜ」
「そうだ。これ持って行って」
リップショットはある物を懐から取り出した。それを受け取ったブロイラーマンはいぶかしんだ。
「何だこりゃ?」
「役に立つかわからないけど……」
それから拳をぶつけ合い、ブロイラーマンは階段に向かった。
階段を上がりながら、ブロイラーマンはスマートフォンを見た。稲日と明来から無事を確かめるメッセージが入っている。それぞれに同じ返事を返信した。
〝夜明けまでには必ず帰る〟
スマートフォンを懐にしまい、屋上に出た。
雨が強くなっている。真っ暗な空の下、風がごうごうと唸りを上げて吹きすさんだ。
塔屋は日本庭園のペントハウスに繋がっている。庭園を出たところにはヘリポートがあり、若い男が立っていた。背に赤く光るエネルギーの両翼を広げている。
ブロイラーマンはそちらに歩いて行った。一歩ごとに自らの内側で血氣が高まるのを感じた。己が生まれてこの方抱え続けてきた、圧倒的な怒りと共に。
ブロイラーマンと鳳上赫はヘリポートの上で向かい合った。
ブロイラーマンは言った。
「家畜の一匹がお前を殺しに来たぜ」
鳳上は振り返り、興味深げにブロイラーマンを見た。
「結局我々は人間ではない。別の生物なのだ。血を授かった瞬間から捕食者となり、人間は豚となる。覚えているだろう? 血族となったあの瞬間の高揚感を。なのにお前はなぜ人間の味方をする?」
「俺は人間側についた覚えはねえ。俺は俺のためにやってんだ」
「そういうところは血族らしい」
鳳上は鼻で笑った。
「ところで聖骨家はどうした」
「気にすんな。俺が二人分お前を殺す」
「ふん……貴様は家畜などではない。害獣であったな。いずれにしろ処分せねばならん」
赤い翼が発光を強め、鳳上の体がふわりと浮かび上がった。
「最後にもう一度だけ慈悲をかけてやる! 私の軍門に下れ。血盟会筆頭として取り上げてやる」
ブロイラーマンは決断的に宣言した。
「〝NO〟だ! 血羽家のブロイラーマン!」
「鳳凰家のエヴァーフレイム!」
エヴァーフレイムは空中で停止すると、片手を上げた。ブーンと音を立てて掌に血氣が集中し、赤く光るエネルギーの球体が生まれる。それをバレーボール大にまで練り上げると、ブロイラーマンに向かって投げつけた。
ブロイラーマンは横っ飛びにかわした。
ドォン!
血氣弾はヘリポートにぶつかり、大きく爆ぜた。コンクリートが砕けて小さなクレーターが出来る。小さいながら予想以上の威力で、爆風を浴びたブロイラーマンはよろめいた。
エヴァーフレイムはにやりとし、さらに右手に血氣弾を作り出した。今度は五つだ。
「さあ踊れ、ブロイラーマン!」
右手を振ると、血氣弾が屋上に降り注ぐ。
ドドドドド!
ブロイラーマンはジグザグに走り、あるいはジャンプしてこれをことごとくかわした。
鳳凰家は病をばらまき、感染した人間から生命力を吸い上げて本体の血氣に変換する。それをさらにエネルギーに変換して打ち出すことができるのだ。
エヴァーフレイムは次々に血氣弾を作り出し、撃ち出す。底無しの血氣でだ。何千、何万という人間から吸い上げた血氣を巨大ダムのように体内に蓄えているのだ。
逃げ場を失ったブロイラーマンに向かって血氣弾の一つが飛んできた。ブロイラーマンはその場に踏ん張ってこれに立ち向かった。拳の一面に血氣を集中し、裏拳を当てる。
「オラア!」
バン!
血氣弾はボールのように弾かれ、暗い夜空へと消えた。
エヴァーフレイムは面白そうにそれを見た。
「ほう。血氣操作のタイミングは見事だ」
エヴァーフレイムの手の中に血氣弾が生まれる。それはどんどん膨れ上がり、やがて直径三メートルほどにもなった。
「これならばどうだ!」
ドン!
巨大血氣弾を打ち出す!
ズドォ――ン!
屋上に直撃!
その爆発は遠く離れた天外市街地からもわずかに見えたことだろう。すさまじい威力であった。赤い爆風を浴びて屋上がめくれ、瓦礫や鉄材が舞い上がる。
その破壊はヘリポート周辺と屋上から下二階層にまで達した。齧ったケーキのようにビルの一部がえぐれ、下の階層が覗く。
エヴァーフレイムは舞い上がる埃に眼を細めた。早々に決着か? 否!
舞い上がる瓦礫から瓦礫へと飛び移り、埃から飛び出してエヴァーフレイムに肉薄する影があった。ブロイラーマンである。
「ウオオ!」
ブロイラーマンはスマッシュを狙うバレーボール選手のように大きく身を仰け反らせ、ハンマーパンチをエヴァーフレイムに叩き落した。
ドゴォ!
エヴァーフレイムは屋上の無事な部分に背中から墜落した。
ブロイラーマンは空中で身をよじって体勢を変え、さらに落下の勢いを乗せた下段パンチをエヴァーフレイムの胴体に叩き込む。バンカーバスターだ!
ドゴォ!
その衝撃はエヴァーフレイムの体を貫き、屋上に大きなヒビを作った。
ブロイラーマンはさらに相手に馬乗りになってパンチ連打!
「うおおおおお!」
ドゴゴゴゴゴゴゴ!
一発ごとに床にヒビが走る! エヴァーフレイムはなされるがままだ!
ブロイラーマンはインカムに向かって叫んだ。
「今だ、リップ!」
* * *
血氣弾の爆発を辛くもかわしたリップショットと竜骨は、ブロイラーマンたちの真下に向かった。
衝撃音とともに天井にひびが走り、ぱらぱらと破片が落ちている。リップショットは両手を上げ、体に残った全血氣を搾り出した。
「イヤァァアーッ!」
聖骨の盾! リップショットの手から白い骨の殻が生まれ、すさまじい勢いで広がって行く。それは直径数十メートルもの巨大な球体となり、屋上の一部ごとブロイラーマンとエヴァーフレイムを閉じ込めた。
球体が完全に閉じた。リップショットは手を下ろし、真上のブロイラーマンに向かって祈るように呟いた。
「あなたは本当のヒーローかもね、日与くん」
リップショットの体が傾き、ふらりと倒れた。
竜骨があわてて抱きとめる。
「リップ!」
リップショットは血氣を使い果たし、意識を失っていた。竜骨はその体を抱き上げ、急いでその場を離れた。
竜骨は噛み締めるようにして呟いた。
「何でだよ。なんであいつなんだ……」
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