「Her story」の革新的で素晴らしいゲームデザインを解剖する。【ネタバレ無し】
先日、「Her story」というインディーゲームをクリアした。
インディーゲームの中ではそこそこ有名な作品であり、知る人ぞ知る傑作という立ち位置の作品だと言える。
何故そこまで有名なのか?それは、斬新で素晴らしいゲームシステムを有する推理ゲームだからだ。
今回のnoteでは「Her story」のゲームシステムと、そのシステムの何が優れているのかをネタバレ無しで書いていこうと思う。
そもそもこれはどんなゲーム?
このゲームは、1994年に撮影されたある女性の取調べの映像を視聴するゲームである。
そう、ただそれだけだ。
銃も撃てないし、戦闘も無い。
そもそも年代物のパソコン画面の前から動くことさえできない。
ただ映像を見るだけである。
女性が警察に取り調べを受けている映像を見る事によって
どんな事件が発生したか?
何があったのか?
この女性はなぜ取り調べを受けているのか?
といった謎に対しての答えを知っていく事が、このゲームの目的である。
ごちゃまぜにされた取り調べ映像
ただ映像を見て、答えを推測するだけなら面白味のない単調なゲームになっていただろう。
しかし、製作者は映像にひと工夫を加えた。
全ての映像から警察の質問部分を削除し、女性の返答の映像を数秒から1分程度に区切ったのである。
これにより、単調だった取り調べ映像に我々プレイヤーが頭を使って警察が行った質問を推測する要素が加わった。
しかし、製作者はこれだけでは満足しなかった。
更なる工夫を求めた製作者は続いて、細切れにした全ての映像を年代物のPCの中にぶち込んだ。
これにより、返答が切り取られた映像が時系列がバラバラになり更に複雑な状態となった。
では、このような状態になった映像をどうやって視聴するのか?
答えは簡単。
我々が日常的に行っているように、「検索」するのだ。
「検索」というゲームシステムと、裏の目的
このゲームの検索は非常に良くできている。
例としてゲーム内のPCの検索欄に「事件」と打ち込んだとしよう。そうすると、女性が「事件」と発言している映像が検索窓にズラリと並ぶのだ。
内容も様々で、実際に起きた事件について語っているものから、日常の一コマをふざけて事件と称して話しているものまで、「事件」と発言している映像が分け隔てなく現れる。
「事件」という単語に関するありとあらゆる映像が、有力情報から中身の無い情報までごちゃ混ぜになって出てくるのだ。
プレイヤーは、その情報の重要度を見極め、取捨選択し、さらには映像内に出てきた怪しい単語を検索しなければならない。
ここまで聞いてなにか思い浮かばないだろうか?
相手に単語を投げかけ、返答を聞き、その返答の中にあった気になる単語を改めて問い詰める。
これはまさに、プレイヤーが警察官となった「取り調べ」なのだ。
このゲームは、プレイヤーが女性を「取り調べする」という行為を「検索」というゲームシステムによって、非常に高度なレベルで再現することに成功しているのだ。
「あえて」不便にした検索システム
では、このゲームの検索機能は優秀か?と聞かれると、実の所万能ではない。というか、システム上不便でなければならないとも言える。
全ての映像を自由な単語で検索できるということは、逆に言えば1度の検索で偶然にも真相を語っている映像を引き当ててしまう可能性もあるのだ。
そのようなことを防ぐために、このゲームの検索にはある制限がかかっている。
検索した単語が含まれている動画が複数個ある場合、1番古いものから数えて5個目までしか表示されないのだ。
適当に検索すると、5つの映像全てが警察官との雑談で終わってしまうということもある。つまり、プレイヤーは常に女性の話を注意深く聞きながら、気になる点を調べ上げなければならない。
しかし怪しい単語を検索しても、その単語が頻出する単語であった場合は、5件を超える映像がヒットするかもしれない。その場合は、新たに単語を付け加えるのだ。それにより、複数の単語が同時に出てくる映像のみを検索することができる。
・単語により映像検索を行う
・複数の単語を組み合わせることで、より細かく検索できる。
・見ることができるのは古い順から5件のみ
この絶妙な制限により、このゲームが総当たりするだけでは真相を知ることが出来ないようにしつつ、プレイヤー自身に思考の余地を与えているのである。
天才的な唯一のヒント
このゲームは最近は見られなくなった「突き放し型」のゲームであり、チュートリアルは存在しないためプレイヤーは手探りでゲームの目的や手段などを学んでいかなければならない。
しかし、最初のみプレイヤーに対して製作者から一つだけヒントが与えられる。
ゲームの初回起動時の検索欄に「殺人」とだけ書かれているのだ。
このヒントの匙加減が非常に素晴らしい。
ゲームの評価に大きな影響を及ぼしたとも考えられる。
では、このヒントの何が素晴らしいのか?
まず第一に、検索欄に「殺人」と記載されていたら、このゲームは殺人に関する話なんだと一発で分かる。これは非常に重要な気づきであり、プレイヤーにとっては何をするべきか分かっていない状態で、「殺人」という単語を見せられればこの映像は殺人事件の取り調べ映像だろうということがすぐにわかる。さらに素晴らしい点として、この一言だけでゲーム開始時の何をするべきかの説明などの没入感を削ぐ要素を完全に撤廃できたことも挙げられるだろう。
第二に、「殺人」と検索して出てきている映像の内容である。「殺人」でヒットする映像は3件あり、ネタバレにならないように話すと、その映像群は次の検索へのヒントとなる単語がわざとらしくならない程度に含まれているのである。これにより、プレイヤーは知らず知らずのうちにゲームデザイナーの手のひらで操作されるのだ。しかし、プレイヤーは自分の意思で検索したと思うだろう。なぜなら、「自分の意思」で映像を見て、「自分の意思」で怪しい単語を見つけ出して検索するのだから。
自分の記憶に残るゲーム体験とは何か?
ゲームに誘導されるのでは無く、自らの意思で考えた末の行動が成功したとき、より強くプレイヤーの記憶に残る経験になるのだと私は考える。
つまりこのゲームは、検索窓に殺人という単語を表示させるという一工夫で「プレイヤーを意識の外から操り、意図的に記憶に残るゲーム体験を作り出すことができた作品」と言える。
まとめ
プレイヤーがゲームを起動したら検索欄には「殺人」の二文字が書かれており、その下には殺人に対して語っている映像があり、内容を観るとうっすらと匂わせる程度の怪しさが含まれている単語が会話の中に出てくる。
その単語を検索した先では、さらに怪しい単語が表れる。ではその単語を検索するとまた次の単語が……………という形で、プレイヤーは謎を追い求めることとなる。
検索窓を通して、目の前にいる女性と対話を行いながら。
ストーリーの内容も面白いですが、そのストーリーの謎をを引き立てるゲームシステムが非常にうまくかみ合っており、斬新で素晴らしい作品でした。
オススメです。