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パロディ”エド・タリバン・ショー"

現在のアフガニスタン状況を見つつ、大昔のブログを転載します。
2001年のアメリカの同時多発テロへの報復として始まった、米軍のアフガン侵攻の最中に書いたパロディ読み物です。

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● 不定期刊くたじゃ報  24号はパロディ号  (2001年10月発行)
   エド・タリバン・ショー/松島玉三郎  ●

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皆さん、こんばんは、ここアフガニスタンのカンダハルからお送りする「禁じられた音楽番組/エド・タリバン・ショー」!
司会は、私、アフガン系アメリカ人のエドガー・アミン・コヒイです。

米軍の支援を受けた北部同盟が、タリバン政権の支配地域をどんどん奪回している今日この頃ですが、カンダハルなどのタリバン・エリアでは依然、歌舞音曲が禁止です。
そのきびしい規制をかいくぐってお送りしている音楽番組が、このエド・タリバン・ショーです。
都市部からは少し離れた難民キャンプに近い、洞窟の中に仮設スタジオを作り、お送りしてます。洞窟は、タリバン勢力の隠れ家かもしれないと、米軍の執拗な空爆の標的になってますが、ここは今だまぬがれてます。

アフガニスタンでは、場所によっては10年近く音楽が禁止されてますが、されればされるほど、音楽を求める心がうずくのが人間の性(さが)というもの。

今夜の最初の歌い手は、この地ではあまりおおっぴらに口にできないアメリカン・ポップスのファンの匿名希望の男性。
曲目は、これまた白人アメリカン・エンタテイナーの代表選手、フランク・シナトラの「ナイト・アンド・デイ」です。

  ♪夜も昼も 我らはおびえる
   夜は空爆の落下点にい合わせぬようにと
   昼は投下された援助物資を取りに行くとき
   地雷を踏まぬようにと
   夜も昼も 身も心も 
   神の御心の上に生きる我ら・・♪

おお、いきなり素晴らしい歌唱を聴かせていただきました。
その昔は、ラジオでシナトラを聴きまくって、ポップス好きの人たちの前で歌を披露していたそうです。
それにしても、若き頃のシナトラそっくりの身のこなし。実は55歳の方とは思えませんでしたね。
さてさて、次はうって変わって、アフガニスタン歌謡を謳う方の登場!
この方も、故あって匿名希望。なぜならこの方は、タリバン政権の外務省の若い役人さんなのです。自らの政権の掟を破って、音楽番組に出演です。
曲は、アフガニスタン民謡の「ライダイ」です。

  ♪「こころ」が「まなこ」に
   言うことにゃ
   「眼(まなこ)見る役、わしゃ悩む役」・・♪

なんと自己苦悩する歌を選んだことでしょう。
アフガニスタンは文化の交差点、だからこそあらゆる国の楽器を用いて、典雅な調べが奏でられたのです。
豊かな「うたごころ」によって残された音曲の数々は、やはり後世に伝えるべきものでしょう。勇気あるタリバンの君、感謝いたします。
ちょっと雰囲気を変えまして、カンダハルのへんてこコメディアンのアンディ・ヘクマティアルさんに登場してもらいましょう。

 「やあやあ、私がアンディ・ヘクマティアルです。
 アメリカのブッシュさんて、なんか不健康そうじゃないですか?
 ぜひ、お散歩して欲しいですね。
 どこを散歩するかてえと、やはり健康のためには廃墟でしょうね。
 歩きにくいですからね。健脚コースみたいなものです。
 アフガニスタンなら、おあつらえ向きの廃墟がたくさんありますよ。
 その目で見てみれば、よく分かりますよ…
 すでに廃墟、に空爆すれば、やはり廃墟、になることが…
 そう、攻撃されて、変わらない、なんて、素敵でしょ。
 アフガニスタンに、貿易センタービル建ててくれたら、
 もっと壊し甲斐がありますよ。保証します。
 なお、散歩の途中で、瓦礫に寝転んでみてほしいですな。
 背筋を伸ばせて、いいですよ。中国の「臥薪嘗胆」なんてのを
 思い出してくれちゃっても、いいんですけどね。
 で、ネコのように寝返りうってほしいんですよ。
 なんたって、ムジャヒディンも下っ端たちは、
 状況次第で、いくらでも「寝返り」ましたからねえ・・・

なんか、いっこうに話がおわらないので、次に行きましょう。
難民キャンプより、音楽好き4人組のコーラスを聴いていただきましょう。女性は、音楽のみならず、家事以外の事への参加を禁止されてますので、男性のみにより、アバの「マネー・マネー・マネー」を歌います。

  ♪マネー・マネー・マネー 金・金・金
   金があっても 難民キャンプじゃ何も買えない
   金も うんとなきゃ 国外脱出もできない
   パキスタンに亡命 役人へのわいろは忘れずに
   金がものを言うのは 武器を買うときかな
   武器を買えないボスはみくびられる
   金は必要だが 使い方もむずかしい
   マネー・マネー・マネー 金・金・金・・♪

切実すぎて何も言えません。
ところで、続いて難民キャンプから、もう一組参加なのですが、実はいました!女性をこっそりメンバーに加えたグループ。
女性2人は伝統的にブルカ(顔のベール)はしてますが、堂々彼女らが歌います。
曲はセルジオ・メンデスの「おいしい水」!

  ♪おいしい水にありつくのが大変
   アフガニスタンは乾いた土地
   おまけにやってきた旱魃
   水道や井戸はすでに破壊されてるし
   きびしい冬がくれば
   水は氷になってしまうだけ・・・・

あああ、歌の途中ですいません!この放送がタリバン政権に見つかってしまいました。
タリバンの警察省と教育省が乗りこんできました!
有無を言わさず、我々を取り囲んで、縛り上げてます・・!
ああ!私も手が後ろにまわってしまいました!
私たちは公開処刑されるのでしょうか・・
でも、民衆の心には、いつも音楽のあることを信じています。
エド・タリバン・ショーなくとも、人の心に歌あり!
私は、そう信じて、21世紀の、新たなアフガンの歌が生まれるのを心待ちにしています。
神よ、歌を授けたまえ!!

○アフガニスタンとタリバンについて松島より

私が初めてお話をしたアフガニスタン人はモハメド・アミン・コヒイさんです。
彼は、ソ連侵攻前の政府の農業省の若い役人で、日本に農業技術の研修に来ていたのですが、78年のソ連侵攻のため帰れなくなり日本に亡命し、今はなんと日本で占い師をやってます。
88年のある日、私はイベントで渋谷東急プラザでアラブ音楽を演奏してました。そのとき、Tシャツ姿で買い物袋を下げた彼が通りかかり、いきなり踊りだしたのです!
のちに、彼を追って亡命してきた彼の息子の手記を読んで、私は初めてアフガニスタンのきびしい現実を知ることになります。

今回も、湾岸戦争のときのサダム・フセインのように、マスコミはタリバン政権を必要以上に、極悪人として扱ってます。
しかし、タリバンは内戦の混乱のときに、初めて本気で略奪もレイプもせずに、国内の秩序を回復させようとした人々であるという話は、どうもまちがいではないようです。
それは、ジャパン・メール・メディアに載った、国連難民高等弁務官事務所の山本芳幸氏と村上龍の対談にも如実に表れてます。
(※2021年現在、このコラムは読めるかどうか不明です)

この春、私はタリバンのバーミヤンの仏像破壊について書く機会がありましたが、そのとき、あの破壊劇は偶像崇拝の禁止のためと言うより、タリバンの努力をまったく認めない、国際社会への報復なのだと書きました。
今、やはりあれはそうであったのだろうと、強く思います。
彼らを擁護する気はありません。彼らは、国際社会からすれば、あきらかに無知で、むちゃ、です。
しかし、国際社会が彼らをのけものにし続けたことは、最もヘタなやり方であったと今感じています。

このままタリバンは制圧され、新政権が樹立されるのでしょうか?
略奪やレイプの担い手であった北部同盟にまかせて良いはずがありません。国連の介入も噂されてますが、各大国が自国の利益のもとに、いろいろな事を言うでしょう。
ここ20年以上繰り返されたのと同じように、アフガニスタンはまた運命に弄ばれるのでしょうか?
新たな歌の生まれる日を、私も、心待ちにしています。

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