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組織運営(Project Management)

日本企業がUSスチールを買収する計画が進んでいるようです。USスチールはアメリカの基幹産業を代表する会社なので、アメリカ人が所有しアメリカ人が操業する「完全なアメリカ企業」であるべきだという論調があるようです。今後の成り行きを見守るしかありませんが、USスチールというアメリカの象徴的な企業の買収は行われることになるのでしょうか。
政策的な問題は別として、技術的な課題は日本の企業がアメリカ(外国)の企業を経営することにあります。いろいろな日本の産業が外国企業を買収した例はたくさんありますが、経営と運営の面でうまくいかなかった例は少なくありません。たとえば、東芝のウェスティングハウスの買収で、最終的に東芝は上場廃止となり事業の分割や人員削減を余儀なくされました。
外国企業の買収は高度な経営判断が求められますが、それに劣らず重要な要素は買収後の企業の運営です。日本型の運営方法は多くの面で外国の組織運営手法とは違いますから、特に先進国の会社を運営するのには注意が必要です。
日本型の組織経営は伝統的に「力」による部分が大きくありますから、スタッフはもとより関係者が対等の立場で運営に参加していないようです。組織の大きさやポストの立場を基本にした運営をすることで、小さい組織の関係者や弱いスタッフに無言の圧力をかけているのです。組織の決定権を持つ責任者が、立場を利用してもっともらしく運営している姿を見せているといえます。怒鳴り声は最近あまり聞きませんが、有言の圧力はパワハラというよりもどう喝になります。
たとえば2025大阪・関西万博プロジェクトです。計画(方法、工程、予算)が杜撰なのか、かかる物はしょうがないというどんぶり勘定なのか、プロジェクトが正しく運営されているようには見えません。責任ある立場の方に、プロジェクトの参加者は基本的に対等であるという認識がないのでしょうか。相変わらず、マネジメントのない「力」による運営が続いているようです。マネジメントには管理、経営、運営などの意味がありますが、残念ながら合格レベルでのプロジェクトマネジメントはなされていません。
私たちが毎日している仕事には始まりがあって終わりがあります。始まりがあって終わりのある仕事は、すべてプロジェクトと呼べます。組織の運営は業務を管理することですから、仕事(プロジェクト)にはマネジメントが必要です。プロジェクトのマネジメントは、仕事に必要な基本的な知識をベースにしたプロジェクトを運営する技術です。
「モノつくり」のハードの技術が生産するモノは見えますが、プロジェクトマネジメントはハードの技術と違って製品がある訳ではありません。プロジェクトマネジメントには「コトの営み」と呼ぶワザがあります。「コトの営み」のワザは長い時をかけて出来上がった組織を運営するソフトの技術です。
プロジェクトマネジメントは、先進国並みの社会を合理的に運営するために必要なソフトの技術です。マネジメントの姿は見えませんが、労働生産性を効果的に高める技術です。私たちは組織に参加する前にプロジェクトマネジメントの技術を学んで、身に着けておかなければなりません。特に新しい知識を必要とする技術ではありませんから、標準的なプロジェクトマネジメントの技術は学校で学ぶことができます。
 組織運営の技術というプロジェクトマネジメントには、組織を立ち上げる時に準備しておかなければならないことが二つあります。
 一つ目は、プロジェクトチームの組織図(Organisation Chart)を作成し、各ポストの業務内容(Job Description)を組織規則(Organisation Manual)に書きだすことです。組織に参加するスタッフが、組織図から自分の立ち位置が理解できるようにします。スタッフは組織図を見てどのポストの指示で動いて、どのポストに報告すればいいのかを理解します。日本型の組織でよく見られるような誰かの指示で何となく動いて、誰かに忖度しながら報告するのではありません。
二つ目は、業務執行手順や組織内の手続きを決めておくことです。新しく参加するスタッフは、組織規則を見て仕事や課題処理の手順を理解します。組織内での承認や許可や通知に関わるポストを明確にして、業務の手順(Procedures)を文章化しておくことは、プロジェクトマネジメントの非常に重要な要素なのです。
プロジェクトマネジメントで最も大切なことの一つは、責任者に権限を委譲(Authority Delegation)することです。責任者の業務内容と範囲を明確にして、業務に伴う権限を委譲して業務責任を明確にする必要があります。権限を委譲されたプロジェクトチームの責任を超える問題に対しては、上部組織の責任者が責任を負うことを明らかにしておかなければなりません。
外国の企業を買収して運営するためには、日本が守ってきた「民は依らしむべし、知らしむべからず」に基づく「力」による運営手法を見直す時がきています。従来の組織運営には賞味期限が来ているのです。

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