組織運営の技術
組織運営の技術-はじめの一歩
最近、日本がいろいろな面で先進国からの遅れていることを指摘する報道が増えています。一方で現在の生活を変えたくないという風潮があるようです。いろいろな選挙における低い投票率は今の状況を端的に表しています。
社会の現状に満足はしていないが、自分の今の生活は変えたくないという空気が若者たちの間に流れているのではないでしょうか。現状維持の安定志向というのとは違った意味で自らの変化は好まないという雰囲気の人が多いようです。
現状の社会生活を変化させないで歩を進めることは、客観的に見ると進み具合が遅く進歩しているようには見えません。東南アジアの国々はより進化し発展してきていますから、相対的に日本が停滞しているように見えてしまうのです。現に、韓国をはじめ東南アジアの国や地域はいろいろな面で日本の先を行っています。
また、繰り返される組織の不祥事や不都合な運営は枚挙にいとまがありません。たとえば、記録の改ざん、安全を無視した事故、減らない詐欺行為、一向に収まらないコロナ禍への対応など。このように繰り返し起きる不都合の原因の一つには、組織の運営手法に問題があると言えます。
組織が持つ人的資源と与えられた時間を内向き対策のために使わなければならない状況が遅れを招き、世界の流れに沿ってその先を行こうとする組織力の発揮を阻害しています。組織が拙い計画、耳に心地よい報告、形式的な会議とあいまいな基準に基づく責任者の総合判断に基づいて運営される限り、不都合が繰り返されても遅れは取り戻せません。
日本を議院内閣制のもとで運営する政府と政策執行の実務を担ってきた官僚は、相変わらず力に頼った手法で国を運営しています。力による運営は責任者が持つ裁量の範囲が広く、総合的判断を下すことを特権としているところがあります。しかし、総合的判断(Political Decision)には、責任者が明確な基準に基づいた判断の説明責任を果たしたうえで、初めて裁量を行使することが求められているのです。
こうした状況においても、組織の運営手法を変えようとしない責任者たちが社会をリードする限り、ますます先進国からは遅れるばかりです。その結果、若くて優秀な人材が永田町や霞が関に興味を示さなくなっています。所属先の文化に染まるまでは一人前の仕事をやらせてもらえず、働く時間ばかりが長い組織に彼らは魅力を感じていません。
遅れを取り戻すためには、伝統的な力に頼る組織の運営から、誰もが義務と責任の名において同じように仕事ができて、同じような結果が出せる組織運営の技術を学びなおす必要があります。
1902年(明治35年)に米国を訪問した渋沢栄一は、近代的な施設をたくさん視察して回り、工場の大規模なことに驚いています。規模の割に事務所は小さくて運営管理者が若年で少ないことを知ってもっと驚いています。日本の工場は小規模なのに事務所は大きく立派で間接部門に多くの人がいるというのです。
明治維新を成し遂げた人たちは、お手本のない中で新しい国を立ち上げて統治の形を模索しながら一流国を目指しました。当時、国を運営するには一人でも多くの人に力を合わせて働いてもらう必要がありました。多くの人が一緒になって国づくりに参加したという意味において、明治時代の組織運営は成功したといえます。
戦後の復興から高度成長へ進んだ頃の組織運営も、明治以来の伝統的手法を引き継いで成功したといえます。バブル崩壊以降は低成長期を迎えて、持続可能な成長を維持していかなければなければならない時代になりました。多くの組織でみんなが一緒に働き続けることが難しくなったのです。にもかかわらず、かつての成功体験が忘れられず、昔からの力による組織運営を続けてきたことが、今の3周遅れを招いた原因の一つと言えるのではないでしょうか。
かつて成功した「みんなで一緒に」と「力」による組織の運営手法を見直し、先進国で確立された組織運営の技術を改めて習得し直して、遅れを取り戻す第一歩を踏み出すことが、今求められているのです。
組織運営に求められている組織運営の技術は次の4項目が基本です。
1 力に頼った運営ではなく、すべての人と組織が対等の関係に基づく運営;
対等の関係とは違いがあって初めて公平という意識をもった対応です。
2 方針決定は適用される側の違いを考慮したフェアな対応を基準とする運営;
規則の一律的で硬直した適用はアンフェアな対応になることがあります。
3 原則として運営状況は公開とし、業務執行のすべてを記録する運営;
責任者は総合的判断の決断理由と過程の説明責任を果たす覚悟が必要です。
4 組織構成の一員となるためには組織の文化に染まることが前提の運営ではなく、新規参加者は誰でも参加できて同じレベルの結果が出せるシステムによる運営。
組織運営の技術が伝えるのは各ポストの義務と責任、業務の執行規則、業務手順を明確にして裁量による運営を避ける方法です。業務の裁量範囲をできる限り小さくして、ポストの責任を明確にすることによって組織の運営が信頼される手法です。組織運営の技術に基づく業務の執行は第三者の納得感が期待できるので組織の信頼度が増します。
組織運営の技術は新しいものではありませんし、組織は人が運営しますから間違いは避けられません。もし間違ったとしても、組織運営の技術に沿った間違いを修正するフェアな業務執行で不祥事や不都合を避けることができます。組織の信頼を取り戻してより良い明日を目指すことです。変化を恐れ「現状維持こそベスト」では遅れるばかりです。組織運営の技術の再習得に遅すぎることはありません。今、一歩を踏み出せば遅れは必ず取り戻せます。
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