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「どこまでもらえるコロナ補償」アメリカ・カリフォルニア州のコロナ対策の最前線。PPPの実態とは。

本記事は、ロサンゼルスの無料情報誌『Weekly LALALA』から、特集「どこまでもらえるコロナ補償」を転載させていただきます。アメリカのリアルな情報が素晴らしくまとまった記事ですので、ぜひいろんな参考にしていただければと思います。

ロサンゼルスで不要不急の外出が禁じられた3月19日から1ヶ月が経過しました。街はどう変わったでしょうか。窃盗や強盗などの犯罪が増え、街の治安が揺らぎ、他人を信用することが日増しに難しくなってきています。それを裏付けるように、銃や弾の購入に走る人が急増していることを全米ライフル協会が発表。一般の人が銃の所持を許されているアメリカでどのように安全に暮らしていくのか。これは、ますます大きな課題となっています。

一方で、CBS Newsは「2020年3月はアメリカ国内で18年ぶりに『学生が学校構内で銃を乱射する事件』が1回も発生しなかった」と報じました。休校措置やオンライン授業への移行がこういう話に行き着くとは、なんとも皮肉な話です。気になったのでこのニュースをさらに詳しく追ったところ、実は、先月学校構内で発生した銃撃事件は、正真正銘の0件ではなく、合計で7件あったことがわかりました(アメリカ国内の銃暴力事件を追跡調査する団体 Everytown for Gun Safety発表)。しかし、そのうち4 件は誤射、1件は高校のサッカー場で大人同士が撃ち合ったもの、2件は学生によるものではなく、いずれも「学生によるものではない」ということが明らかになりました。元来、新学期がスタートする3月は学校での銃乱射事件が発生しがちだといわれていますが、まさしく「2020年3月は18年ぶりに生徒による学校での銃乱射事件は起こらなかった月」になりました。

また、アメリカ文化のよき象徴であったハグやキスは、コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、今では見る影もなくなり、人々はソーシャルディスタンスを守ることに異常に神経をつかい、疲れ、今やエレベーターで家族以外の人と乗り合わせることもありません(誰かが乗っていれば次のターンを待つのです)。マスクで覆われた顔は、すれ違う人と笑顔をかわすことに不向きで、私たちはますます孤立を深める構造に陥っています。

「9.11」のときの犠牲者数は2753人でした。新型コロナウイルス感染による死亡者はこれからも増えていくでしょうから、これがテロよりどれだけ大きな犠牲であるか、明白です。コロナによる打撃は、精神面と経済面の両面から私たちを蝕み、不安にさせ、「悪夢にうなされる」という声も少なくありません。果たして私たちは、どこまで精神を持ちこたえられるでしょうか。
感染者・死亡者の人数で世界最悪を更新しているアメリカの経済的打撃も、深刻な状態が続いています。3月中旬からの4週間で約2200万人が新規の失業保険を申請。幅広い業種で解雇の動きに歯止めがかからない状態が続いています。過去の不況を眺めてみると、2008年からのリーマンショックに端を発する世界金融危機でさえ、アメリカの失業者は1500万人超でしたから、今回の不況はそれを優に上回り、文字通り歴史を塗り替えました。

この状況をうけ、トランプ大統領は3月27日、2兆ドル(約220兆円)規模の大型経済対策法案に署名し、同法が成立しました。この額は、なんとアメリカの国内総生産(GDP)の10%に相当し、アメリカの緊急支援法としては過去最大規模となります。家計に対する救済措置は5000憶ドル、中小企業に対する救済措置は3500憶ドルという、並外れた予算です。トランプ大統領にしてみれば、コロナ蔓延の一因が自身による初動対応の遅れであったとの指摘があり、大統領選を見据えて景気・経済対策は惜しまずにおこなうという意図なのでしょう。各家庭への給付や中小企業への資金支援などはすでに始まっており、対応は非常にスピーディーです。今回は、コロナ補償の条件や受け取り方について一緒に詳しく見ていきましょう(4月19日時点)。

<各国の新型コロナウイルス経済対策>
アメリカ 2兆ドル(約220兆円)
イギリス 3500憶ポンド(約45.5兆円)
イタリア 250憶ユーロ(約3兆円)
ドイツ  7500憶ユーロ(約90兆円)
日本   108兆円

<家計に対する救済措置>

まずはじめに、家計に対する救済措置を見ていきましょう。

●「大人1人に1200ドル」

3月27日に連邦政府によるコロナウイルス対策関連法ケアズ・アクト(CARES Act=Coronavirus Aid, Relief and Economic Security Act)が成立しました。この法案は、各頭文字から「CARES法」と呼ばれています。同法案が成立した3月27日、スティーブン・ムニューシン財務長官は「ほとんどの方は3週間以内に現金を受け取るだろう」と述べました。個人向け給付の主要部分は以下の通りです。なお、個人向け給付の正式名称は、Economic Impact Paymentsです。

直接給付:大人1人につき1200ドル(約13万円)、17歳以下の子ども1人につき保護者は500ドル(約5万5000円)を給付。年収7万500ドル(約810万円)までが満額の1200ドルを受給できますが、そこから段階的に金額が減り、年収が9万9000ドル(約1060万円)を超えるともらえません。注意すべきは、年収7万5000ドル(約820万円)未満というのは単身世帯の場合であって、夫婦2人世帯は15万ドル(約1640万円)未満が満額支給対象ということになります。ご注意ください。また、子どもなし共働き家庭の場合、年収15万ドルまでが満額2400ドルで、19万8000ドル(約2129万円)を超えるともらえない設定となっています。支払いを受けるために特別な手順を実行する必要はなく、IRS(アメリカ国税庁)は、納税者による2019年納税申告からの情報を使用します。提出していない場合は、2018年の納税申告が使用されます。

詳細は、IRSのウェブサイトをご覧ください。
https://www.irs.gov/coronavirus/get-my-payment

IRSは、2018年もしくは2019年の税金申告の際に提供された銀行口座に直接給付金を入金しますので、すでにIRSが銀行口座の情報を把握している場合は何もする必要はありません。しかし、もし税金申告し、IRSに銀行口座情報を提供していない人は、IRSが4月中旬に開設する安全なポータルサイトから情報を入力することができます(上記サイト参照のこと)。IRSが入金先の銀行口座の情報を得られない人に対しては、税金申告の際に使われた住所へ小切手が郵送されることになっています。低所得者など口座情報がない人は、アメリカに約7000万人いるとみられ、その人たちが手にすることになるこの小切手には、トランプ大統領の名前が印刷されていることが15日、明らかになりました。財務省が発光する小切手に大統領の名前が入れられるのは歴史的にも前例がなく、名前印刷のために発送が予定より数日遅れる可能性も指摘されています。

●「年金受給者には自動的に給付」

通常、税金申告をする必要のない年金受給者は、給付金を受け取るために何もする必要はなく、1200ドルの給付金は自動的に送付されます。年金受給者は、IRSと偽って個人情報を聞き出そうとする電話、Eメール、自宅への訪問者に注意しましょう。

●「コロナ詐欺に注意」

IRSは、新型コロナウイルス関連の詐欺に注意を呼びかけています。というのも、個人への現金給付を利用した電話やEメールによるフィッシング詐欺が急増しているからです。IRSが給付金を送付するために、電話やEメール、テキストメッセージなどで個人情報や銀行口座情報を聞き出すことはありません。IRSを装った電話やEメールだけでなく、ウェブサイト、ソーシャルメディア、すべてに対して注意が必要です。

フィッシング詐欺の例を以下に挙げておきます。心に留めておきましょう。

・「Stimulus Check」または「Stimulus Payment」という言葉を強調してくる。正式名称は、「Economic Impact payments」です。
・給付金小切手に署名して譲渡するよう要求する。
・あなたの代理人として、税金還付金や給付金を迅速に受け取る手伝いをもちかける。この手の詐欺はソーシャルメディア、または対面でおこなわれる可能性があります。
・偽りの小切手を郵送し、現金化するために指定された番号に電話をかけるよう促す、またはオンラインで情報の確認を求める。

上記は一例にすぎません。くれぐれも注意しましょう。

●「確定申告の支払い期限、延長に」

コロナウイルスが猛威を振るっている昨今を鑑み、3月21日、IRS(アメリカ国税庁)は「2019年分の確定申告の支払期限を、2020年4月15日から2020年7月15日まで延長する」と発表しました。収額の納付期限も7月15日へと延長されます。この3ヶ月延長による延滞税・利息は発生しません(状況によって新しい通達がされることもありますのでご注意ください)。

●「失業保険の拡充」

アメリカでは、ホテルやレストランなど、とりわけサービス業で失業者が激増しており、新規失業保険件数は日を追うごとに増えています。3月22日以降の4週間で、2200万人を超える労働者が失業保険を新規申請しています。失業保険の拡充については各州からの給付に追加して、1週間あたり600ドルの追加給付を受けられます。期限は7月31日まで。申請予定者である方が実際に該当するかわからない場合でも、困っている場合ははすぐに申請を始めてください。

失業保険受給申請の方法は、カリフォルニア州の労働開発局のウェブサイトをご覧ください。
https://www.labor.ca.gov/


<中小企業に対する救済措置>

ここロサンゼルスには、たくさんの日系中小企業があり、コロナ禍による深刻なダメージを受けています。次に、中小企業に対する救済措置を見ていきましょう。

目玉は、アメリカ政府が3500憶ドル(約40兆円)を投じたPaycheck Protection Program(通称PPP)と呼ばれる中小企業救済策です。これは現金給付とは別で、失業の抑制を目的としています。PPPとは、従業員が500人未満の中小企業を対象に、返済免除の可能性がある貸付をおこなうというもの。「返済免除の可能性がある」というのは英語でForgivableです(重要な言葉です。あとで出てくるので覚えておきましょう)。従業員の給与、賃料、保険、公共料金などの支払いのために一事業者あたり最大1000万ドル(約10憶)を上限に、全従業員の平均月額給与(基本給や健康保険料、年金積立金含む)総額の250%まで融資を受けられます。本融資の実施期間は、前に遡って2月15日から6月30日までとなります。

目的は、企業が従業員を解雇せず維持できるようにすること。つまり、このPPPのお金を借りて2ケ月間は従業員に給料を払ってクビにせず、凌いでもらおうという意図です。2ヶ月というのは、コロナ撤退の見通しを鑑みてのことでしょう。ポイントである返済免除の可能性があるForgivableという考え方ですが、例えば従業員を80%維持していたら、貸付金額の80%は返さなくていいという計算となり、26%まで減らしていたら残りの74%は返済しなければならないという計算になります。別の例えでいうと、従業員が10人いたとして、1人だけ解雇したら、10%は返済しないといけませんが、残り90%は免除になるというわけです。これにより、経営者は従業員をクビにしないという強いインセンティブが働きます。仕事がなくても、誰もクビにせず、PPPのお金を借りて払っておけばそのお金はもらったことになるからです。
既に従業員を解雇した企業もあると思いますが、6月30日までに再雇用すれば、その貸付金額は全額免除になります。申請窓口は、あなたの街にある一般の銀行で、中小企業やそのほかの役所に出向く必要はありません。直接銀行に申し込めばいいのです。申し込みの期間は4月3日から6月30日までです。

●「救済の対象は?」

従業員が500人未満の中小企業をはじめ、非営利団体、個人事業主、フリーランサーなどです。特定業界については500人以上の企業も対象になる可能性があります。詳しくは、中小企業庁(SBA)のウェブサイトで(以下参照)。

●「管轄はどこ?」

PPPは、中小企業庁(SBA)が管轄となります。PPPという制度を実際に使用したいと思われる方は、ウェブサイトで詳細を確認しましょう。www.sba.gov

●「融資の主体はだれ?」

連邦政府と中小企業庁(SBA)です。

●「PPPはどんな制度?」

このプログラムは、ビジネス継続と雇用継続のために使途を限定して融資される制度。主な内容は、中小企業事業者の8週間分の人件費(給与および社会福利費含む)を中心とする事業経費を補填するための資金を提供するもので、そのなかには、人件費のほか、借入金利・賃料・水道光熱費を含めることができます。融資の形をとりますが、指定された用途にそのお金を使う限りにおいては返済義務がないということで、実質的な補償です。ただし、この融資は連邦政府とSBAの判断であり、申請すれば必ず融資がおりるということはではないので、その点、ご注意ください。

●「PPPの融資返済免除を受け取れない場合は?」

Social Security taxの控除を受けたり、Employer Retention Tax Credit(事項説明)をご利用された場合、PPPにおける融資返済免除を受けることはできません。

●「Employer retention Tax Creditとは?」

営業停止を余儀なくされた、もしくは売上高が前年比で50%以上低下した企業が雇用の維持を条件に、支払い賃金50%までの税控除を受けることができる制度(従業員1人につき5000ドルまで)で、控除の対象となるのは2020年3月12日から2021年1月1日までの支払い賃金です。PPPを利用された場合には、この税控除を受けることはできませんのでご注意ください。

●「どこに行けばいい?」

アメリカにある一般的な銀行がその窓口として申請を受け付けます。融資条件はどの金融機関も同一なので、銀行によって差はありません。

●「融資対象者が外国資本企業にも広がった」

PPPは発表当初、オーナー全員がアメリカ国籍、または永住権をもつ人でないと申請できないとされていました。PPP決定時には、外国人・外国資本企業にまで気が回らなかったものと思われます。しかし、その後、多くの問い合わせや苦情があり、その条件が広がりました。その条件とは「申請企業のすべての従業員の居住地および本申請にかかる人件費のベースがアメリカである」というものです。

●「資金には限りがある」

中小企業事業者と個人事業主は4月3日から申請することができます。しかし、供給される資金には限りがありますので、早めの申請がおすすめです。基本的には「予算を使い切ったら終わり」という早い者勝ちとなっているようです。

残念なお知らせが入ってきました。中小企業庁(SBA)は4月16日、対象となる中小企業からの応募が殺到し、予算の上限に達したため、現時点では新規申し込みを受け付けられないと表明しました(下記ウェブサイトに詳報掲載)。米連邦議会では、共和党と民主党のあいだで、第4弾の新型コロナウイルス対策法案として同プログラムへの追加財源の投入が議論されていますが、16日現在、折り合いはついていません。今後どうなっていくのか、注意して見ていきましょう。

詳細情報はこちら。
https://www.sba.gov/funding-programs/loans/coronavirus-relief-options/paycheck-protection-program-ppp

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