ないものにされる痛みを可視化するーー『メイドの手帖』と「書くこと」について
私は、父が精神障害を抱えて障害者雇用やアルバイトを点々とし、時に無職という環境で育った。地方の貧困家庭で育ち、生い立ちから貧困の渦の中にいた私は、『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』を読みながら、冷たい記憶が呼び起され、とても胸が痛かった。国も違えば立場も違う彼女の物語だが、貧困の沼で喘ぎ、次から次へと降りかかる困難に翻弄される姿は、あまりに共感する部分が多かった。そこで抱く感情や陥る精神状態が酷似していたからだ。『メイドの