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第56回(令和6年度)社会保険労務士試験 所感

本試験を受験された方はお疲れ様でした。仕事・家事・プライベート等さまざまなライフロールを担う受験生の皆さんが、この1年間目標に向かって不断の努力を積み重ねたことに称賛いたします。まずは身体と心のリフレッシュを図り、更なる成長に向け英気を養ってください。

私事ですが、第56回社会保険労務士試験 雇用保険法・国民年金法の解説文執筆を担当いたします。その立場から、私個人の所感を記したいと思います。また、今回の試験では難度が上がったとされる択一式試験 健康保険法についても分析しましたので、あわせて共有します。

【選択式試験】雇用保険法

本問1 育児休業給付金(法61条の7第1項、法61条の8第2項1号・2号)【A・B・C】
本問2 個別延長給付(法24条の2)【D】
本問3 被保険者の種類等(法38条ほか)【E】

今回の選択式問題 雇用保険法は4択問題でした。一般的には4択は20択問題よりも難度が上がる傾向ですが、今回は、難度が例年並みながら数字を入れる空欄が3つ設けられたことにより4択問題にしたのかな、と感じました。Bについて、条文やテキストでは「3回目以降は…支給しない」とされているところ、「□回目までの出生時育児休業について出生時育児休業給付金が支給される」と逆文。また、Cは出生時育児休業について問うているところ、育児休業給付金の支給要件と取り違える方も見受けました。Eは、最近定番となった事例問題。「特例高年齢被保険者となることの申出をしていない場合」との引っかけ。選択 雇用は随所でいやらしさを感じました。

【選択式試験】国民年金法

本問1 保険料の納付委託(法92条の3及び法92条の4)【A・B・C】
本問2 遺族基礎年金の受給権者(法37条の2第1項2号)【D】
本問3 死亡一時金における遺族の範囲及び順位等(法52条の3)【E】

本問1 保険料の納付委託で空欄A・B・C3つ用意されました。これについて、私自身感ずるものがあって、第1号被保険者の令和4年度の最終納付率(令和2年度分保険料)が初めて80%の大台を超えました(80.7%、2023年6月公表)。日本年金機構(機構)は最終納付率8割超で大いに盛り上がった旨を県社会保険労務士会関係者から聞き及びました。昨年の社労士試験では、公表時期の関係か取り上げなかった論点ですが、今年度の試験ではしっかり論点に盛り込んだ印象を受けました。Eは死亡一時金における遺族の範囲が問われました。今年度の国民年金法 選択式・択一式を俯瞰してみると、午後の択一式試験(問7オ)では未支給年金の支給を請求することのできる遺族について問われました。

【死亡一時金の遺族の範囲】
 配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹
【未支給年金の支給の請求】
 配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹妹又はこれらの者以外の3親等内の親族

【択一式試験】雇用保険法(労働保険徴収法含む)

問1 被保険者
問2 基本手当の受給資格要件(事例問題)
問3 傷病手当
問4 資格喪失
問5 不正受給
問6 高年齢雇用継続給付
問7 雇用保険二事業_雇用調整助成金
問8 保険関係の成立・消滅
問9 雇用保険印紙保険料
問10 申告期限(確定保険料)、追徴金の徴収

問2、問4、問7がややトリッキーな印象を受けますが、比較的得点しやすい設問の印象を受けました。この内容に鑑みると雇用は7問中5問は得点したいところです。問4は各資格学校で解答検討・協議中となりましたが、D 雇用保険審査官に対する審査請求のほか、問7雇用調整助成金の論点が細かいといえます。また、問5で不正受給に関する設問がありましたが、昨今の不正受給取り締まり強化の流れを汲んだ設問といえます。
徴収法も問9・問10が細かな論点でした。問9は「印紙保険料納付計器使用報告書」、問10は「通知を受けた日 ×」⇔「通知を発する日 ○」を問う内容でしたが、消去法で正しい答えを導き出すことが可能であり、3問中2問以上取りたいところです。

例年よりも、時事ネタや細かな論点となっている点、これが試験委員の受験生へのメッセージといえるのではないでしょうか。

【択一式試験】国民年金法

問1 産前産後期間中の保険料免除、学生納付特例、保険料の前納、基礎年金拠出金、管掌
問2 障害基礎年金、国民年金基金
問3 不服申立て、支給停止、国民年金基金連合会、積立金、国民年金事務組合
問4 被保険者
問5 保険料免除
問6 障害基礎年金
問7 併給調整、支給の繰上げ・繰下げ、未支給年金
問8 国民年金事業の財政、支払期間等、付加保険料、併給調整
問9 特例任意加入被保険者、支給繰下げ、保険料の前納、積立金、国民年金基金
問10 遺族基礎年金、死亡一時金、障害基礎年金、督促

個数問題が1問ありましたが、割と正誤にメリハリがあり、難易度は控えめといえます。それ以外のも過去問焼き直し設問が多く、今年の国民年金法は得点源といえます。この内容からはできれば10問中9問得点したいところで、満点も狙える内容といえます。問4がやや細かい論点ですが、消去法により正答を絞り込むことも難しくない内容といえます。なお、択一式試験でも保険料納付や支給繰下げに関する出題が目立ちました。

【択一式試験】健康保険法

今回の解説文執筆の担当外ですが、受験生から「択一 健康保険法が難しい」との声が目立ちましたので、あわせて分析しました。精緻な分析結果はありませんが、参考までにお読みいただけると嬉しいです。

問1
A 【けんぽ協会の業績評価】本文は正しいことが書かれているが、「主語」を入れ替えて×問となっている。
B 【任意継続被保険者】「その申し出た ×」⇔「申出が受理された日 ○」で引っかけ
D 【指定の取消処分】医師・薬剤師の資格停止処分の特例について、主語を「保険医療機関」に入れ替えて、あたかも存在するかのような規定となっている。

問3
エ 【特例退職被保険者の標準報酬月額】「~特例退職被保険者を含む全被保険者の~ ×」⇔「~特例退職被保険者を除く全被保険者の~ ○」
オ 【財政の見通し】「厚生労働大臣に届け出る ×」⇔「(けんぽ協会が)公表する

問4
B 【健康保険組合】公費負担医療分の診療報酬請求「行う場合には、その旨を基金へ届出 ×」⇔「公費負担分は、(従来通り)基金が行う ○」
E 【傷病手当金 継続給付】資格喪失後に継続給付により傷病手当金の支給が開始される場合の、標準報酬月額(新論点)

問9 
ウ 【医師・薬剤師の登録】保険医療機関の更新に関する規定を「主語を医師・薬剤師」としてあたかも存在するかのような規定となっている。

私の雑感は、「難しい」というよりは、論点が細かくなっているというものです。
野球で例えると、従来の健康保険法 ×問は、スライダーやカーブのように曲がりが大きく、本論部分で正誤を判断するようなイメージでした。ところが最近はストレートと思わせておいて打者の手元で少し変化させ、打球を詰まらせる「ツーシーム」のようなイメージです。すなわち、本論部分は正しいことが書かれており、主語あるいは述語をちょっと変化させるパターンです。
本論中心に重心を置いている受験生は、主語・述語の意識が行き届かず、正しい肢と判断してしまいがち。
つまり、作問者のメッセージは、文章を最初から最後までしっかり読み、精緻に理解をしましょう、というものと理解しました。

ゆえに、細かい、難しい部分のインプットをするのではなく、今まで学習してきた基本部分について、細かな部分も含めてしっかり理解することが求められているといえます。

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