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「薬剤師と研究マインド 現代の薬学教育における課題と展望」

毎年たくさん入社してくる薬剤師たち、お利口で賢いのだけども、探究心というか、研究心、研究力が足りないとずっと思っていた。この記事も大袈裟なタイトルだが、色々調べるとやはり、薬剤師の研究マインドのようなものが今の教育では育たないらしい。
いくつかの根拠をもとに考察してみようと思う。

まずは、薬学教育、新コアカリキュラムについて述べられた、以下の引用を読んでほしい。

『「artificial intelligence(AI)や ICT の発展で知識を記憶することの重要性が低下する中,新しい課題を発見し,その解決策を考え,その解決策の有効性を評価して実践することは,今後の薬剤師業務に最も重要な能力となると考えられる.新規の課題を発見し,それを解決していく科学的アプローチこそ研究活動にほかならない.薬剤師として,研究者として科学的な課題発見・ 解決を行っていける道筋を理解し,実践できる能力を修得することが「G 薬学研究」の目標である」』

薬学教育モデル・コア・カリキュラムの変遷と6年制薬学部教育の解決すべき課題
鈴木匡

6年制薬学部の創設当時から関与し、コアカリキュラムの作成から関わってきた、この報告を執筆した先生も、結果として今の薬学部、薬剤師に不足しているのは「研究する能力」であり、それが「研究マインド」の不足につながり、創薬だけではなくさまざまな点で薬剤師の能力が発揮できていないのではと考えているらしい。

AIが発展し、検索や記憶する必要から解放されても、物事の課題を発見すること、そしてそれを解決し、その結果を評価、実装することが必要であることの重要性をこの報告は強調している。

一般的に考えられる、薬学教育における「研究能力、マインド」というのは、創薬などのウエットな研究のイメージが強い。

そのため、薬学部に在学している学生本人だけでなく、教員までも、「研究とはウエットなものである」という思考が強く、実験室で試験管を振ったり、動物を扱う実験などを思い浮かべる方々がほとんどだと思う。

この報告でも述べられているように、薬剤師という資格を持って活躍できる人材の活動領域を広げる必要があり、データサイエンスなどを身につけてから、社会に出て行くことで、積極的に薬剤師や医療を取り巻く社会制度に関わっていくことが出来れば良いと考えられる。

また、データサイエインスというレベルではなくても、現場レベルでは、研究マインドや探究心、些細な物事に疑問を持つような、いわゆる「科学的視点、興味、姿勢」があると、毎日の大量の仕事などからも、解決すべき課題を見つけ、それを実際に解決、改善するプロセスを発見することで、仕事の「やりやすさ」を作り出し、それが自らの仕事の質を高めたり、患者の満足度を高めたりすることにもつながり、対物から対人への積極的移行をスムーズにすることができると言える。

このことは私自身が、現場で20年費やして実感しているので、断言できる。

上記の報告では、今までのコアカリキュラムの問題点や課題についても指摘しながらも、薬学部でのオリジナルな教育部分をしっかりやってほしいと述べている。現在の企業が大学に期待するのは、薬剤師としての最低限の部分で、ビジネススキルや社会性などまでは授業では求められていない。ただし、大手では面接で篩にかけられている。以前のようないわゆる、非常識な学生は採らなくなった。

実務実習で学生を見ていても、薬学という学問分野以外を薬学部において真剣に学ぶことで、一般常識や社会性を身につけることはできるのではないか、と思う場面はよくある。

もちろん、薬学部にも一般教養科目はあるが、専門科目などが重すぎる。
専門科目に突入するために、いやいや学ぶための教養科目ではなく、1年目や2年目だけでなく、6年間通して、教養として身につける必要があるのではないか。

教養と言うものは必要性を痛感したときに身につくものであると思う。

そもそも、薬学部において一般教養科目は、学生にも教員にも、「お荷物」としてしか捉えられていないのだろうが、それは一般教養科目の授業が1年目2年目だけ、というのが悪いのであって、色々と経験を積み、専門科目も増えてきた4年、5年くらいまで、何らかの社会とのつながるためのツールとしての一般教養を入れ込めるような、「ゆとり」は欲しい。

データサイエンスなどを含む、薬剤師として社会に出たときの、「武器としての一般教養」は、それが必要になったときしか身につかない。

薬学部では、卒業研究に伴う研究活動がそれに匹敵するのだろうが、自分でデータをとって、分析して、評価するという、一連の「研究活動、研究のプロセス」を経験させてもらえる薬学生はどのくらいいるのだろうか。正直、エクセルすらまともに使えない学生もいる。

薬剤師、1人40枚制限の撤廃も議論されている中で、入社して2、3年後には独り立ちさせれれる薬剤師にとって、自分たちの業務や負担を軽くしていくためには、何かの武器がない限り簡単ではない。体力や精神力だけでは無理だ。

学生時代、教えられる姿勢だけで6年間を過ごしてきた彼ら、彼女らは社会に出てから苦労することは目に見えている。ドラッグ業界も調剤薬局も非常に厳しい時代になってしまっている。

自動化や効率化のための武器、ツールを工夫し作り出す能力、創意工夫などのアイデア、それらの能力がないのならば、自分の代わりにやってくれる人材を育成する能力、そして彼らを扱うためのコミュニケーション能力など、武器の代わりになる能力を持たせて卒業させてあげて欲しいし、さらにそれすら無理ならば、その必要性だけでも、薬学部6年間の中で教えてやってほしい。

大手では、卒後3年程度で、小規模の薬局を任せられて、そのマネジメントをすることになるが、そのためには大学6年間で学んだ薬学だけの知識では無理だ。

調剤そのものは、20年前と比べて処方の簡素化(抗てんかん剤や、テオフィリンなどの気管支拡張剤、向精神薬などの原末製剤などによる過誤は起こりにくくなっている)が進んだ代わりに、処方の集中、投薬までの時間の短縮など、調剤における環境も大きく変わってしまった。それに出荷制限への対応という仕事も増えた。

専門家として薬の知識はもちろん重要だが、それを活かすための武器、ハードウエアを持っていない。大学を卒業してきて、国家試験に合格後し、その後は、丸腰のまま力ずくで大量の患者や処方に対峙することになる。

それがどれほど大変なことなのか、大学の先生方だけでなく、カリキュラムを考えるお偉い先生方も、それを想像してほしい。

もちろん、武器を増やすのは卒後でもかまわないが、それが可能な薬剤師はどれくらいいるだろうか。

そして、大学ごとに、その扱いにバラつきがある教養科目。
地理や歴史、宗教学、社会学、法律、心理学、数学、語学、統計学など一般教養科目は多くあるのだろうが、シラバスやカリキュラムも見てみたが、大学ごとにその配分や重要度は異なるようで、教養科目が1年次のみの薬学部もある模様。

一方で、一般教養科目のあり方を真剣に見直す大学もある。

東京理科大学だ。理科大は、薬学部だけでなく理学部や工学部などがあるが、薬学部も含めて、一般教養科目の見直しを行なったようだ。

以下に東京理科大の一般教養科目の新カリキュラムについて引用する。

TUSくさび形教養教育カリキュラムは、履修を学年によって条件付けするカテゴリー制を敷き、特に、高学年次を対象とした一般教養科目を配するなど、従来
の主に低学年次にほとんどの一般教養科目を履修してしまうカリキュラムとは一線を画している。

葛飾キャンパスにおける「TUS くさび形教養教育」に向けての時間割設計について


従来の階層的で固定的であった教養科目の振分けを「くさび型」に見直したらしい。

さらに

各学問分野が専門化・深化し、研究者も棲み分けが進展した結果、専門家は狭い問題領域に閉じこもり、このような問題そのものに向き合うことが困難な状況に陥っている。現在、私たちが直面している科学・技術の問題、そして将来学生たちが直面していく科学・技術の問題とは、科学者・技術者といった専門家集団内部での科学的および技術的な問題にとどまらない射程を持つ、大きな問題群を構成しており、専門知はその外部にある知(教養)との対話を通じてこそ、この難問にチャレンジできるものと考える。

葛飾キャンパスにおける「TUS くさび形教養教育」に向けての時間割設計について

「専門家が将来直面する困難」に対して、教養を通じてこそ問題解決に対応できると言っているのである。

理科大のこの新教養カリキュラムは、薬学部でも6年生後期まだ履修可能な教養科目も設定してしているという。

カテゴリー化された教養科目の一部では、

学生が所属する学科の専門性、社会的経験が増し、入学時よりも成熟した段階、
進路の岐路となる高学年(3年生以上)で学ぶことで、複眼的思考に加えて、専
門知とは異なる知・思考と感受性を持つ「市民」の養成が期待できる。

葛飾キャンパスにおける「TUS くさび形教養教育」に向けての時間割設計について


とある通り、大学在学中、特に高学年で教養を学ぶことで、社会的経験を増し、思考や感受性を持つことができるようになると考えられている。

以上、薬剤師の研究マインドだけでなく、社会的経験、などをいくつかの視点から検討した。
薬学生が、薬剤師として社会に出た後に、薬学という専門性を活かすためには、企業だけでなく大学でも、その後押しをする必要があると言える。

国家試験の勉強ばかりではなく、
一般的教養を武器として持たせて卒業させる必要があるのだ。

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