「ご飯は私を裏切らない」の感想を書く
女性版「鬱ごはん」と雑に言ってしまうのもありだが、こぼれ落ちるニュアンスをどうにか伝えたい。施川ユウキのしんみりするそれに比べると、こちらの読後感はとてもすっきりしたものだ。ダウナーなトーンの裏腹、とてもポジティブな姿勢が通底している。
かつてピーキーな感情を持て余していたが、いろいろあって折り合いの付け方を学んだ・・ みたいな背景を感じさせる作品は大抵好きになっている気がする。ともすれば人を殺しかねないような、もしくは自らの手首を掻っ切りそうな危うさをコントロールし、日常に落とし込んでいる様が、老練の傭兵のようで格好が良い。
ただ落ち着いているのではない。その暴力を、野生を、衝動を、はちきれんばかりの何かを、ただただ経験でもってその身のうちに押さえ込んでいる。エネルギーの喪失ではなく、その拮抗によってかろうじて安定を得ているに過ぎない。ともすれば些細なきっかけで爆発する危うさを孕んだ、そんな存在が平和な世界に紛れ込んでいる。
この中二感が、一皮向けたメンヘラ作家の魅力である。
透徹した客観視と暴走する情動の強烈なアンビバレントが、表現に幅と深みを生む。そこから想像させるのは、ただ人には見ることの叶わない極彩色の感情世界。何しろ女性が仕事をしご飯を作って食べるだけの日常に、生と死が隣り合わせる戦場のような緊張感が満ちている。平静こそが戦場の狂気であるように、ここでは日常こそが狂気なのだ。
まかり間違ってネットフリックスあたりが映像化したら、ワタモテ的なルートで結構受けるんじゃないかと思う。その時は私のようにではなく、「これは私だ」という共感する人たちのハブとして。