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タバコ🚬の"あの感じ"が好き(非喫煙者)
私はタバコを吸わない。
私が生まれる前から、父はベビースモーカーだった。
私が胎内にいるにもかまわず煙を吐き続けてきて、
ずっとずっと、母と妹と一緒に、父に向かって「煙たいなぁ!」と抗議をする日常生活を送ってきた。
中学の保健体育の教科書で、喫煙により真っ黒になった肺の写真を見て、タバコの悪影響のすさまじさに驚いた。副流煙を自動的に喰らわされてきた事実に気づき、私は「他人より健康負債を負わされているのか…!」とがっかりした。
喫煙被害報告はまだある。
中学の頃、我々一家は建て売りの新居に引っ越した。大きいリビング、洋式のキレイなトイレに胸が躍った。
…が、父は相も変わらず、部屋の中でもおかまいなくそこかしこでタバコをスパスパ吸うため、副流煙がエアコンの風にのって部屋全体をうぉんと回り、我々にダメージを与えると同様に、真っ白だった壁を少しずつ黄ばませた。
それから時は流れ、白かった壁や洋式便器は見る影もなく、黄疸のような色味を放っている。黄ばんで味があるのは、長年やってる町中華の店か喫茶店ぐらいにしてほしい。黄ばみは我が家にとっては味でもなくただの黄ばみにしかならない。
そんな生活を送った私は、当然の如くタバコとは無縁の一人暮らしを送っている。
もう、健康を害されることはない。夜、ベランダで一服する時にはタバコと酒ではなく、急須で入れた中国茶と、ブルボンのチョコラングドシャをお供に「ふぅ…」と一息つき、1日頑張った自分を労うのだ。
しかし、どうしても。
どうしても、タバコを吸いたい。吸わなければ今を乗り切れそうにない。タバコじゃないとダメなのだ。健全な方法ではなく、あの身体に悪いことしてる!と思いながら煙をふかさなければならない!
仕事もしくはプライベートで著しく負荷がかかったときにそんな気持ちになることが、体感、年に1.2回ほどある。
そう思い、実際に試してみたこともあった。
選んだのは、とりあえずメジャー(?)なメビウスの10mm。たかが10数本で、500円とか600円する。家計簿をつけ、少しでも収支がプラスになるよう外食をほんの少し控えている私から見ると、なんとも高級な嗜好品である。
ベランダに出て、慣れない手つきで恐る恐る、タバコの先に火をつける。今は少し懐かしい、嗅ぎ慣れたあの匂いが漂ってくる。口の少し先で、すごい熱を放っている。肺まで煙を吸い込むのは少し気が引けたため、最初は口の中だけで煙を転がし、「ふぅ」と夜空に吐きかけた。
間抜けな宿主から出た間の抜けた灰色の煙たちが、ベランダの柵の中でぐるぐる回っている。柵から越えようとすると空気と一緒になってスッ‥と消えてしまう。その様子がなんだか面白く、もう一度やってみたくて煙を口に含んだ。
父がこの滑稽な光景を見たら、「なんのために吸っとるんや」と笑うのだろう。
煙を味わうとかの領域まで行ってないどころか、
やってることは幼児のシャボン玉遊びと全く一緒である。
一応、肺まで煙を吸い込んでみよう、とやってみたが案の定むせた。くっそまじい。こんなものの何がいいんだ。味なんて全然わからねえよ。
…が、存外良いと感じている自分がいる。
なぜかはわからない。理屈じゃないのだろうけど。
でも、襟を正さないと、社会から逸脱して迷惑をかけないように、という思いでヒイコラ言いながら働いている毎日を、煙と一緒に「ふっ」とどこかへ飛ばしちゃっている感じがする。
「ばあか」
何かに対してか分かんないけど、なんだかそう呟きたくなったので、頭の中で呟きながらもう一度口から煙を吐き出す。しばらくその場に留まり、スッ‥と消えていく。
はは、やっぱりなんだか胸がスカッとする。社会に対して?鬱屈している自分に対して?何に対してにか分からないけど、私にとってそれは小さな、でも大切な反抗だった。
ふと、父はどういう思いでタバコを吸っていたのだろうと考えた。仕事の愚痴は一切吐かない、変わった父だったけど、もしかしたら父も、そういった黒いモヤモヤをタバコの煙にして吐き出していたのかもしれない。
そう思うと、少しだけ父に近づけたような気がした。まぁ、家の中で吸うのはやめてもらいたいんだけど。笑。
数回繰り返して溜飲が下がったため、コップに入れた水をちょん、とつけ、火を消しゴミ箱へ捨てた。
次の日は、ほんの少しだけ、仕事を頑張れたような記憶がある。
それから半年や一年に一回ぐらいの、忘れた頃に思い出すぐらいのペースでタバコを吸っていた。
その度に私は、懐かしくて身体に悪そうで、でも少しだけ胸がスッキリする、"あの感じ"に包まれたのだった。
…今は少しだけ歳を重ねたせいかわからないけど、ここ1年近くはタバコを吸っていない。経験によって、前ほど怒ることが少なくなっているからなのかもしれない。
コンビニにはいつでも行ける。
いつかその時が来たらまたレジに並ぼうと思う。
風呂上がり、ベランダでリプトンのレモンティーを飲みながらそんなことを考えた。
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