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高原 まゆみ「治癒する人」
1.汎発性脱毛症
2020年夏、テレビ番組のなかで、ある現役アイドルが、頭部だけでなく身体の2カ所以上の体毛が抜け落ちる「汎発(はんぱつ)性脱毛症」を告白し、大きな話題となった。
「汎発性脱毛症」とは、はっきりとした原因が分からず、ある日、突然誰にでも起こる病気だと言われている。
数週間という短期間で髪が抜け落ちるため、患者の精神的ショックも大きい。
「発毛家」を名乗る高原まゆみさんは、こうした汎発性脱毛症の改善に成功し、脱毛症改善のサポートを中心とした活動を続けている。
美容師を目指していたという高原さんは、どのようにして現在の道へと辿り着いたのだろうか――――。
2.幼稚園からの夢
高原さんは、1972年に神奈川県藤沢市でひとりっ子として生まれた。
「ひとりっ子だったから、友だちの作り方ともか分からなくて、周りが子どもに見えていたんですよね。いつもひとりで過ごしていたから、周囲からは『変わり者』として認識されていたようです」
そうした様子を危惧した父親の勧めで、神奈川県相模原市にある中高一貫の私立中・高等学校へと進学。
入学すると、友だちをたくさん作ることができた。
「もっと変わった子がいたから、自分はおかしくないんだと思った」と当時を振り返る。
1980年代終盤からは第二次バンドブームが到来し、高原さんもその洗礼を受けた。
レベッカやプリンセス・プリンセスなどにハマり、特にレベッカは追っかけをするほど熱中した。
ギターを弾いては、家族の前でその腕前を披露することもあったようだ。
そんな高原さんが、美容師の夢を抱いたのは、幼稚園の頃にさかのぼる。
「従兄弟たちが全員天然パーマで、私だけが直毛だったので、幼稚園のときに『なんで私だけクルクルしてないんだろう』と不思議に思っていました。母に聞くと、『パーマをかけないとクルクルにはならないのよ』と教えてもらって、夢はパーマをかけてフワフワの髪になることでした」
3.挫折を経て
高校時代には、パーマをかけて「夢」を実現することができた。
美容師の真似をして、友だちの髪を切っていたこともある。
卒業後は美容師を目指して専門学校へ進学することは決めていたものの、学力が足りなくて先生からは「もうちょっと勉強しなきゃな」と言われていたという。
「聖子ちゃんやトシちゃんやマッチなどのアイドルがみんなパーマをかけていて、あんな髪型を私も作ってみたいと思っていました。どちらかと言うと、職人気質な感じなんですよね」
高校卒業後は、横浜市にある祖母の家から、東京都渋谷区にある美容専門学校へ1年間通った。
卒業したあとは、美容師免許を取得し、祖母の家の近所の美容室へ就職したものの、すぐに辞めてしまった。
ちょうどその頃、両親が離婚し、高原さんは母親と暮らし始めた。
以後も、さまざまな美容室を転々としたようだ。
「楽しかったけど、あまりにもスタイリストになるための道が遠すぎたので、あまり面白くなさそうだなと思っちゃったんです。また、美容師を目指している人の数が多かったこともあって、就職活動を辞めた時点でやる気が無くなってしまったんです」
21歳のときは、洋服を扱う仕事へ就こうと面接へ行ったところ、叔父から「まだ美容師で一人前にもなっていなのに」とひどく叱責されてしまった。
仕方なく、求人情報誌で再び美容師の仕事を探すうちに待遇の良い仕事を見つけることができた。
それが、大手かつら販売メーカーだったというわけだ。
4.一歩踏み出す、そのとき
ウィッグを切ったり増毛したり育毛したりと、これまで美容師として学んできたことを活かせる楽しい仕事だったが、ときには「美容師からドロップアウトして来たんでしょ」という冷淡な目で見られることもあったという。
神奈川県内の店舗を中心に異動を繰り返し、15年が過ぎたとき、ふと考えた。
「ここに骨を埋める気でいたんですけど、37歳になったとき、『もしこの仕事が嫌になっちゃったとき、次はどこに行けるんだろう』と考えたんです。年齢から考えると、『何かを踏み出すならラストチャンスだな』と思いました」
ところが、美容師として現場で働いたのは、1年ほどしかない。
かつらメーカーでは、カットを学んだわけではないし、カラーやパーマもできたが第一線の技術ではない。
そして何より、ウィッグは切っていたが、人の髪の毛を切ることからはずっと遠ざかったままだった。
高原さんに残された選択肢は、「育毛」だけだったが、15年間かつらメーカーに在籍するなかで、20,000人以上のカウンセリングに携わってきたという経験があった。
「脱毛症や汎発性脱毛症のお客さんも来られていたけれど、かつらがメインの会社だったから、あまり効果が見えなかったんです。だから、もう少し育毛にこだわった事業をやってみたいと考えるようになりました」
5.脱毛症専門のサロン
2008年より、東京都品川区に育毛を中心とした美容室「ヘアーブースサジ」を開業。
店名の「サジ」は、飼っていた猫の名前から拝借した。
育毛に特化したサロンのため、メニューは頭皮洗浄と育毛とカラーリングだけ。
根本になっているのは、脱毛症のことを学んでいくうちに、辿り着いた東洋医学の思想だ。
東洋医学で、脱毛症は「髪堕(はつだ)」と呼ばれ、腎気が弱ると髪が落ち、脱毛症になるとされている。
つまり、「脱毛症は髪の病気ではなく 身体の症状のサイン」であり、身体の体質改善を図っていくことが大切だと考えた。
色々と調べていくうちに、13種類のハーブエキスが配合された「ハーブマジック」で頭皮洗浄を行うことで、自然治癒力や免疫力を高めることができることを知った。
すぐにハーブマジックの開発者である島計雄氏を師事。
そんなときに、大学病院で「汎発性脱毛症」の診断を受けた田村ひとみさんが来店した。
当時の田村さんは、服薬治療や鍼治療などさまざまな治療法を試し、まつ毛と眉毛にうっすらと発毛がある程度で、髪の毛は一本も生えていない状態だった。
高原さんは、自然治癒力を高める東洋医学に基づいて、ハーブマジックを使った施術を行うだけでなく、頭部を冷やし足元を温める「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」や「腹巻き」など、身体を冷やさないようする日常生活の助言も続けた。
難治と思われていたが、2年半後には脱毛が改善することができたようだ。
そこからは田村さんの成功体験が宣伝材料になり、汎発性脱毛症の人たちが高原さんの元を訪れるようになった。
6.オンラインサロンの成果
「脱毛症は氣の滞りと、不足で起こる病気なんですが、自律神経の振り幅が大きいと『氣』って消耗するんです。結婚が決まって脱毛した人もいるし、海外生活が始まって脱毛した人もいますから。偏りのない『中庸(ちゅうよう)』の状態がいちばん大事なんです」
2016年からは「他では絶対に聞けない脱毛症セミナー」を定期的に開催するようになり、脱毛症の知識を伝え続けた。
そして、かつらメーカー時代の同期で、神奈川県横浜市にウィッグや育毛をメインとした美容室「ヘアメイクキオラ」をオープンした中野純平さんとタッグを組んで、2018年夏からは、日本初脱毛症専門の方のコミュニティ「サジオラオンラインサロン」の活動を開始。
毎日脱毛症に関するコラムを綴っているほか、オンラインサロン内では、脱毛症改善の情報発信や会員同士の交流が活発に続けられている。
いっぽうで、多くのオンラインサロンの運営者が抱えている悩みは、離脱率をどう下げるかということだ。
一見すると、脱毛が治ってしまえばそれだけ退会者が増えていくことが想定される。
ところが、現実は違う。
脱毛症を改善した人は「脱出者」と呼ばれ、サロン内ではカウンセラーとしての役割を果たしているのだ。
脱毛症の経験がない高原さんにとっても、この相互扶助のシステムはとても嬉しい誤算だったようだ。
高原さんらの実店舗は評判を呼び、数カ月先も予約で埋まるようになった。
ところが、ひとりで運営しているために、新しいお客さんが来店しにくいことも悩みとなっていた。
そこで近年では、脱毛症の人たちが自宅にいながら、サロンと同等のケアができる「自宅洗浄システム」を導入。
自宅でのケアが可能な仕組みを伝えたことで、一時は客足が減ったようだが、いまでは口コミによって新しいお客さんも増え、再び右肩上がりとなっている。
高原さんは、目先の売り上げになんて囚われてはいない。
その視線の先は、はるか未来を見据えているのだ。
7.治癒する人
「脱毛症で悩む人がひとりでも減れば良いなと思っています。改善には、まず脱毛症を理解することが必要なんです。理解できれば、怖さはなくなります。脱毛症に人生を振り回されるのではなく、ちゃんと理解すれば自分の人生を送ることができますから。そういう考えを広めていきたいですね」
ヨーロッパでは、中世の時代から理美容師のような職業が存在していたと言われている。
彼らは、髪を切ったり髭を剃ったりするだけではなく、歯の治療をしたり傷の手当てをしたりと、現在でいう外科的な医療を施していたようだ。
悪いところを切って悪い血を出す治療法を瀉血(しゃけつ)と言うが、刃物を扱うためそれは理美容師が請け負っていた。
「髪の医者」とも言われる理美容師の仕事だが、高原さんがやっているのは、まさに本来の意味での「治癒」なのだ。
そう考えていくと、脱毛症に悩む人たちの駆け込み寺として、高原さんのやっている活動は、どんなに意義のあることか分かるだろう。
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