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富士通でスパコン売ってたのに、気付けばNYでメイクアップアーティストになってた人に話を聞いてみた【だから、ぼくはヒーローになれない episode 32】
こんにちは、イイジマケンジ|kushamiです。
今日は、僕が新卒で入社した富士通の同期を紹介したいと思う。
彼女の名は、RISAKO MATSUSHITA。
彼女はすでに富士通を”卒業”している。彼女は現在、ニューヨーク在住でメイクアップアーティストとして活躍している。
http://www.risakomatsushita.com/
富士通でスパコン、サーバ、PCなどITソリューションの営業をしていた人間が、現在ニューヨークでメイクアップアーティストとなっている。
”NY在住のメイクアップアーティスト”とみると、
ニューヨーク →華やかな世界。トップ・オブ・ザ・ワールド感
メイクアップアーティスト →キラキラした職業ナンバーワン
この2つの言葉が掛け合わさっているから、彼女が生きてる世界はSEX AND THE CITYそのものなんじゃないかって思っていた。
読んでいる人のイメージを壊さないためにもあえていうが、たしかにそういうSEX AND THE CITYの世界の側面もあるかもしれない。
だけど、彼女の話を聞いていると、その様子は全く違っていた。
彼女が生きている世界は、
もっと、泥臭くて
さらに、厳しくて
だけど、愚直で、人間味がある
本気で生きていく街
そんな世界な気がした。
彼女は毎日本気で生きている。そんな彼女が発する言葉はなぜだか、やさしさに満ちていて、自分も頑張れるかもと思えるのだ。
今日は彼女のエピソードと言葉を少しずつ紹介していきたい。
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好きなことを見つけるのは大変
彼女は元々、「好きなことは趣味、仕事は仕事」と割り切るタイプの人だった。好きなことを仕事にするタイプの人間ではなかった。
2010年に富士通に入社し、入社後はテクニカルコンピューティングといわれる、大学や専門研究機関などのシステムを導入する部署に配属された。いわゆる、スパコンなどを扱う。
当時は毎晩残業の嵐だった。営業職として平時でも毎週のように提案書を仕上げなければならず、週末も会社に出勤、資料を作り続ける毎日。
そんな毎日毎晩仕事漬けだったらそりゃ人間変わるよね。彼女は、「こんなに人生で仕事ばっかりするなら、自分の好きなことを仕事にしていくほうが人生幸せになれる」と考え改めた。
自分の好きなことってなんだろう。
現代人が幸せになるための、最も必要で、最も難問なのではないか。
彼女は、そんな多忙の中、ビューティーブロガーという読者モデル的な活動を超秘密裏にやり始めた。周りにもほとんど言わなかったらしい。
もともと美容関連が好きだった彼女は「色んな化粧品を試せる〜。いいな〜」くらいの感覚で応募し、活動を始めることに。
ビューティーブロガーになると化粧品や美容商材の展示会やキャラバンに参加できるようになった。それがめちゃくちゃ楽しかったのだ。
新作の化粧品をいち早く使える。最新のトレンドをいち早くチェックできる。こんなに楽しい瞬間は仕事では味わえない。とても興奮した。
その興奮した気持ちをそのまま、ロンドンでシアターデザイナーをやっている姉に話をした。興奮しながら話す妹と、それを落ち着いて聞いてる姉。想像がつく。
興奮した妹に対し、お姉さんはこう声をかけた。
「そんなに化粧品好きなら、あなた自身がメイクアップアーティストになれば?」
自分がメイクアップアーティストになるーーー。
盲点だった。化粧品は好きだったけど、他人に化粧をすることなんて思ってもみなかった。
メイクアップスクールの1日体験入学を調べた。すぐに申し込む。
行ってみたらめちゃくちゃ楽しくて。
一瞬で、これだああああーーーー!と思った。
そのときに初めて、私はメイクアップアーティストになりたいんだ、と自分の気持ちに正直になれた気がする。
メイクアップの仕事。これが私のやりたい「好きな仕事」だ。
彼女のメイクアップ人生が始まる瞬間。
メイクアップ人生が始まる瞬間は、偶然の産物かもしれない。だけど、たしかに彼女は好きなことを見つけるために、とにかく動き回った。動き回ったおかげで、自分の好きなことを見つけた。
好きなことを見つけるって大変。
だから私は色々と手を出してみた。時間もかかったし、お金もかけた。
でも、本当にささいなところからまずは一歩踏み出せばいいんじゃないかな。
現代で、好きなことを仕事にしている人はどのくらいいるのだろう。そもそも、自分の好きなことを言語化できている人はどのくらいいるのだろう。なんとなく、好きなことがわからないことがよくない的な空気感が漂っているこの世の中で、彼女は「好きなことを見つけるのは大変」と言い切ってくれている。
好きなことを見つけるためにとことん動き回ったからこそ生まれてくる彼女のコトバは、優しさで包まれている。僕はそんなふうに感じた。
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昨日の自分より今日の自分のほうが、見えてなかったものが見えてくることに気付く
彼女は、富士通を退職後、そのままニューヨークへ移住することを決意。富士通で働きながら通ったメイクアップの専門学校を出たからといって、当然ながらいきなり仕事ができるようになるわけではない。日本での実績もない。そんな状況で彼女はニューヨークで勝負することに決めた。
「メイクアップ業界でのキャリアの遅さをカバーしないといけない。普通にやっていたら追いつかない。追いつくために、追い越すために、ニューヨークへいく」
ただ、実際そんなうまく事が運ぶわけがない。様々な苦労をしたという。
稼ぎがないから外食もできない。自炊もブロッコリーばかり食べたり。
仕事もまずは経験を積むために、タダで、なんでもやった。とにかく、どうにかして世界に入って、ネットワーク、リレーションをつくるためにがむしゃらに走り回った。
ポートフォリオ(自分の実力・実績をアピールするための作品集)をつくるのも大変で、フォトグラファーに騙されることもあった。せっかくメイクアップしたにも関わらず作品の写真をもらえないこともあった。
なぜこんなに苦しいことばっかりだったのに、めげなかったのか?
メイクアップアーティストに絶対なるって思ってたから。
自分がメイクアップアーティストに続く正しい道にいるんだろうかと悩む瞬間、心折れるときがあった。ただ、メイクアップアーティストになりたいというのがあった。大変だったけど、前に進んでいる感触はあった。辛いけど、前進してる。
前進しているうちはまだ頑張れると信じていた。
少しずつだけど、前進している。
もらえる仕事の質が上がってきたり、明らかに作品がよくなってくる、メイクの上手い下手は何かが見えてくる。最前線で活躍するアーティストと比べて自分に足りないものは何か。それはディティールが見える所。細かいところ、細部まで見えているか。
昨日の自分より今日の自分のほうが、見えてなかったものが見えてくることに気付く瞬間があった。
苦しいながらも前進していることに気付く力。
苦しくなったとき、心折れそうなとき、昨日の自分よりも成長しているところを探すと、少しずつだが前進していることに気付けるかもしれない。
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状況を変える努力を繰り返す
それでもうまくいかないときは必ず訪れる。どうにもならない時がくる。そのとき彼女はどうするのか。
行動が足りてないんだ、情報が足りていないんだ、と思う。
もっと行動したり、色々調べたり、とにかくなんでもできることをやる。
メイクアップの仕事は、仕事柄、波があって、ぽかんと仕事がなくなるときがあるそうだ。
そんなときとても不安になる。彼女は、そのときにできることをアクションし続ける。エージェンシーに営業メール送ったり、SNSに投稿したり、過去のショーをみて自分の引き出しを増やしたり。
自分に足りないものを改善しようと思ってやってきた。ほんの数cmでも前進できると信じれば、少しでもアクションを起こす。状況を変える努力を繰り返し続けること。失うものはない。できることを全部やる。待ってても何も起こらない。
いま、新型コロナで思うように仕事がうまくいかない・できない人も多い。
2020年から新しいエージェンシーに所属することになり順風満帆になると思いきや、新型コロナの影響をもろに食らっている。
だが、彼女はめげない。今精一杯できることを模索して、1cmでも前進する。
自分がメイクアップアーティストになったのは「努力すればなれる気がする。努力が報われる」と信じていたから。
なるまで諦めず続けて努力をしていれば、なれる。頑張ればなれる。
戦略的に考えることも含めてプロフェッショナル
メイクアップアーティストはアーティストではなく、ビジネスパーソンだと言う。
営業の経験が活きたのは、商品が自分になっただけで、富士通で営業をやってるときとそこまで変わらないと思った。
自分という商品をどう売ってけばいいのかを考える。ビジネスの流れがわかってたから、そんなに戸惑いはなかった。
そして、自分は本当にメイクアップアーティストとして食っていけるのかも考えに考えた。戦略をしっかりと考えて行動した。
「好きなことで、生きていく」YouTubeのCMで使われてきた、2020年代の生き方を一言で表現した有名なキャッチコピーである。
ただ、このコピーは無責任だと僕は思う。そのメッセージの”続き”が書かれていないから。「好きなことを仕事にして生きていくためには何をしなければならないのか?」この問いを考えながらアクションしないといけない。
「ガンガンと行動したほうがいい」みたいなアドバイス、抽象度がマックスに高く、アドバイスの一番上辺であり、キャッチフレーズに近いので、この言葉だけで、ガンガンと行動をしはじめるとたいてい危険。その先のプロセスがめちゃくちゃあるはず。
— けんすう@マンガサービスのアル (@kensuu) October 19, 2020
彼女のアクションは本気だった。だからこそ、本当に自分は好きなことで生きていけるのかを解像度高く検証・検討し、戦略をたてて「これなら(ぎりぎり)生きていける」としっかりとプロセスを経てアクションをおこした。おそらく、アクションするって無闇矢鱈に動き回るとは違うのだ。
プロフェッショナルを目指すなら、プロフェッショナルとしての生存戦略を考えることが大切であることを彼女は身を持って体現している。
人の「美しくなりたい」という気持ちは無くならない
2020年がまさかこんな1年になるとは思わなかった。
新型コロナの影響で、ファッション、メイクアップの業界も大きな変換点、分岐点を迎えている。ニューヨークでは、現在も仕事をセーブせざるを得ない状況。おそらく以前のように戻ることはないだろう。ファッションもeコマースが主流になり、撮影自体も物撮りだけ、モデルはマネキンやバーチャルモデルに変わろうとしている。
メイクアップの存在価値、存在するカタチは大きく変わっていく。
ただ、変わらないものもある。
「美しくなりたい」と願う気持ちは、人間の根源的な欲求だと思う。
人々の美しさへの願望がある以上、メイクアップの需要が完全に無くなるということはない。
「美しくなりたい」という欲求は根源的に持っている。美の追求はカタチを変えながら、Withコロナの時代も続いていく。もしかしたら、これまで女性が中心だったメイクアップ市場は、より幅広く、男性向け、ジェンダーレスが一気に普及していくかもしれない。
そんな状況で、彼女は、メイクアップアーティストとして、どのように生きていくかを探る。彼女も様々なチャレンジがスタートしている。
元々計画していたYouTubeチャンネルの開設もその一つである。
メイクアップはそんなキラキラした世界ではない。他の職業と同じく、泥臭く、どんな変化でも対応して戦い続けなければいけない。
これからもどんどんと社会システムや価値観が大きく変化し、自分の仕事や生活にも大きな影響が出てくるであろう。
僕たちはどう生きるか。自分の信じた道で、プロフェッショナルとしてどうあるべきか。僕たちは変化し続けなければいけない。彼女も変化して戦い続けていく。
彼女とのzoom越しでの取材が終わった直後、話を聞く前まで感じていた「キラキラ華やかニューヨークライフ」の様相はひとかけらも残っていなかった。メイクアップアーティストってそんな綺麗なもんじゃない。
みんなと同じく彼女も戦っている。そんな彼女がアクションしている姿が、誰かの後押しになってくれると、僕はとても嬉しい。
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あとがき
本当は書かないつもりだったのだけど、書いてしまおう。
実は彼女に関するnoteは、一度書いたものをボツにしたのだ。しかも前編と後編に分けて、彼女が新卒時代からニューヨークで輝くまでの10年をまとめた壮大なストーリーだった。出来上がったとき、ストーリー自体はドラマチックで悪くない、と自分一人でニヤニヤしていた。
ただ、彼女と話し合って、noteを書き直すことにした。
もっと本当の、苦しみながらももがいている、
ちょっとかっこ悪いかもしれないけど、ありのままの姿を書こう。
と書き直すことを彼女から言ってくれた。
「仕事の話をすると、すごく華やかな世界だと思われがちだけど、本当はめちゃくちゃ泥臭くて、私はその中で割と地べたを這いつくばる感じでがむしゃらにやってきたのが現実だった」
彼女からそういうLINEをもらったとき、壮大なストーリーテリングを意識した文章を書いた自分を恥じた。だめだ、全然彼女の仕事の本質の部分をわかっちゃいなかった。僕も結局、華やかでキラキラした世界に目が眩み、幻想の中のニューヨーク成長物語を書こうとしてしまっていたのだ。
彼女から、自ら書き直そうと言ってくれた。泥臭くて、苦しんでる姿を見せたほうが、読んでほしい人に伝わるのではないか。そんなことを言ってくれた彼女が友人であることが、本当に嬉しかった。
彼女のストーリーを聞きたい人は、ぜひご連絡を。
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