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正方形パスタ。 (超短編小説)

あなたは正方形のパスタを見たことがあるだろうか。

私は見てしまったのだ。その正方形のパスタとやらを…。


先日、朝食を食べながらニュース番組を見ていると、番組途中のCMでパスタの広告が流れた。

私は基本的に米派のため、パスタのような麺類には特に興味が無い。今日の朝食も納豆ご飯と味噌汁の和食である。

そんな中、耳を疑う言葉が聞こえてきた。

「正方形パスタ、絶賛発売中!」

有名な俳優さんがナイススマイルで一言。

私は即座にテレビの方に顔を向けた。勢い余って納豆が一粒吹っ飛んだが、そんなことは気にしていられなかった。

正方形パスタだと…。
ふざけやがって…。

その時は、仕事のストレスが溜まりに溜まっていたため、謎にその“正方形パスタ”とやらにイライラしてしまった。

がしかし、テレビに映ったその“正方形パスタ”とやらの異様な見た目に、私は苛立ちと共に驚嘆してしまった。

もう本当にそのままの正方形のパスタなのである。

正方形に小さく切られているとかではなく、切り込みが一つも無い平べったい一枚の正方形のパスタなのだ。ほぼスライスチーズと同じような見た目をしている。

そのパスタが、丸い大きめの平皿の上にドンっとのっかっているのである。

CMではその平べったいパスタの上に、まるでジャムでも塗るかのように、ミートソースを塗り広げていた。

通常のパスタであれば、フォークだけ、もしくはフォークとスプーンを使うはずだ。だが、このパスタは違う。フォークとナイフなのである。ステーキを切り分けるのと同様に、正方形パスタを一口サイズに切り分けているのである。

こんなものが本当に絶賛されているのだろうか。謎はますます深まっていった。



翌日、近くのスーパーに行ってみると、“正方形パスタ”という商品は確かに置いてあった。だが、その商品は隅の方にこぢんまりと少しだけ置かれている。近くで数分観察して見るも、特に売れている様子はない。

近くにいた店員さんに、これは売れているのかと聞いてみた。

すると店員さん、全力の笑顔で一言。

「全っ然、売れてないですよー!」

えっ…。ん?売れてない?

だって昨日CMで絶賛発売中って。

「あ、あれ多分冗談ですね! ははははは!」

店員さん、非常に楽しそう。近くを通りがかったお客さんも一緒に笑っている。

これが冗談でまかり通ってしまうのか。とんだ優しい世界である。私は人々の懐の深さに、“正方形パスタ”以上の驚きを感じた。

私は“正方形パスタ”を一つ手に取りスーパーを出た。家に帰りそいつを調理する。一緒に買ってきたミートソースを塗り広げる。

食べる。

・・・

普通。

当たり前だ。見た目が異様なだけで、味は普通のミートソースパスタである。

だけど、なぜだか昨日感じていた苛立ちはすっかりなくなっていた。店員さんの懐の深さが、私にも移ったのかもしれない。

“正方形パスタ”から広がる優しい世界。この優しさをどこまでも広げていきたい。

私は気味の悪い笑みを浮かべながら、静かに、そう思った。

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