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近所の長屋のニ階から聴こえるヴァイオリンの音色を味わいに。

ホームタウン「墨田区京島」

僕が住む墨田区京島は特徴的な町だ。
東京大空襲の被害を免れたことからレトロな雰囲気を残しており、現在でも曲がりくねった狭い道や長屋を見ることができる。

道が狭く、土地が狭く、家が狭いので物理的に人と人の距離が近い。そういった距離感を面白がって若い方やクリエイターが集まる不思議な場所になっている。僕自身も周囲の方の面影が見えるこの町を気に入っている。

長屋の窓から聴こえるヴァイオリン

このエリアで『すみだ向島EXPO』という街なかアートイベントが10月いっぱい行われていた。そして、このイベントのメインコンテンツとして注目されているヴァイオリンの演奏企画がある。

車がギリギリ通れる細い道を挟んで建つ三角屋根の長屋の二階から奏者がそっと身を乗り出しヴァイオリンを弾き、歌う。

演奏は会期中毎日18時の時報代わりに行われる。演奏自体は5分程度。あっという間だが、週末には50人近いギャラリーがその音色と光景に酔いしれる。演奏が終わると、ギャラリーは感想を口にして余韻をシェアする。まるで海外のようなシチュエーションに多くの方が感動し、僕も初めて見たときはグッとハートを掴まれた。

オンライン授業を終え会場へ。モヤモヤを抱えて

今日、僕は通っている芸大のオンライン授業を一日中受けた。オンライン授業はよほどのことがない限り、楽しみづらい。対面授業ではアシスタント講師や同期生を捕まえて作品を更に磨き上げることができるが、オンラインではそういった高め合いの機会が得られないことが多い。今日も例に漏れずモヤモヤを残したまま授業を終えた。

不完全燃焼の気晴らしに数分後に始まるヴァイオリンの演奏を聴くために服を着替えた。何も考えず着れるセットアップに身を包んで会場の長屋へ向かった。

今日は土曜日で、会期中最後の週末ということもあり賑やかだった。そして、周りから聞こえる「また会ったね」の声。約一ヶ月間毎日行われていたこともあり、常連同士があいさつを交わしている。そんな光景を見て、誰かが言っていた「今日の感想を持ち寄る場」という表現に納得した。

僕の知り合いも10名程度いた。だけど大学の授業の個人作業のおかげで完全に心は「オフ」の状態になっていたので、話しかける気にならなかった。周囲の方からはコミュニケーション好きだと思われている僕も、たまにこんな日がある。

終わってそそくさと帰ろうとしたら肩をポンと触られた。普段はカチッとした格好をしている方が今日はカジュアルな装いだったことと、心が「オフ」になっていたのでしどろもどろな反応をしてしまった。

同じ場所にいるだけでいい

その方とほんの少し雑談をして帰路に着いた。
ほとんどコミュニケーションを取らなかったけど、知り合い何人かの元気そうな横顔を見て、それだけでホッとした。

あの場に集まる輪の中にも、人に会いたいという想いで足を運ぶ人も少なくないように思えた。

元気なら笑い話を交わして、喋りたくない日はただ変わらぬ安堵感を共有する。心のグラデーションも包んでくれる一体感がある。一体「感」でよくって、一体じゃなくてもいいから心地よい。

そんなことができる町なかの空間は、結構貴重だなぁとあらためて感じた。


明日の授業は全力で楽しもう。
キャパオーバーな一週間の優秀の美を飾ろう。

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