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たまちゃん ~ かんたんで、みじかいお話

彼は山奥で猟をして暮らしていました。
家も山奥にあります。

山に詳しい人でも迷ってしまうほど山奥でしたので
ここ何年も訪れる人はいませんでした。

それでも彼はひとりでいるのを
寂しいと思ったことはありませんでした。

ある日、彼がいつものように家へ帰ってきて
ひとり夕食をとっていると雨が降り出すのが聞こえました。

いつもなら気にも留めないのですが
この日は雨音も大きく強い風で戸もガタガタと音を立てるのです。

彼はだんだん心細くなってきました。

「今日はなんだかおっかないなぁ。
こんな日は誰が来てくれるといいんだがなぁ」

その時、ふと後に誰かいるような気配がしました。

彼は恐る恐る振り向きました。

するとそこには。

雪の玉のような小さな雲のような
丸い綿のようなものがふわふわ浮いているのです。

彼は嵐の夜の心細さと自分の目の前にいる丸い塊を
同時に受け入れることができず
しばらくの間その塊をただじっと見ていました。

その間、塊の方はどうしているのかというと
同じようにじっとしているのです。

どれくらい時間がたったでしょうか。

彼がふと我に返った時には嵐はすっかりおさまっていました。
山の木々もいつものように静かに葉を揺らしています。

彼はあの丸い塊のことを思い出しました。

「あれ? たしかにそこにあったのに・・・」

部屋の中はいつものように殺風景なままでした。

「あれは夢だったのかな? 何だか気持ちよかったな。
何にもしていないんだけど。また会いたいなぁ」

彼は部屋中を歩き回ったり家の周りを探したりしましたが
いつもと違うものは何も見つかりませんでした。

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