彼は山奥で猟をして暮らしていました。 家も山奥にあります。 山に詳しい人でも迷ってしまうほど山奥でしたので ここ何年も訪れる人はいませんでした。 それでも彼はひとりでいるのを 寂しいと思ったことはありませんでした。 ある日、彼がいつものように家へ帰ってきて ひとり夕食をとっていると雨が降り出すのが聞こえました。 いつもなら気にも留めないのですが この日は雨音も大きく強い風で戸もガタガタと音を立てるのです。 彼はだんだん心細くなってきました。 「今日はなんだかおっか
前回(仙人雑録「霞とカレー」)に続き、食事の記録をお届けいたします。 季節が春の設定になっています。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 仙人雑録「甘露」 仙人でございます。 二回目の登場となります。 暖かくなってきました。 ついこの間、ふと外を見た時に 「あぁ、春の日差しだ・・・」と良い気持ちになってしまいました。 春になると虫や動物と一緒に目覚めるものがあります。 食欲です。 腹八分が体に良いとはわか
以前、企画会社に勤めていた時、昼食は自分たちで作っていました。 せっかく食事を作るなら記録に残そうじゃないかということで 各自がキャラクター設定をしてブログにアップしました。 私は「仙人」。 今思えばバカバカしい話なのですが、当時はけっこう真面目でした。 その原稿を久しぶりに読んだら笑えたものですから このコラムで紹介させてください。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 仙人雑録「霞とカレー」 お初にお目にか
学生の頃、Sという友人がいました。 どちらかというと「不真面目」な男でした。 授業にはほとんど出席せず、いつも行方不明。 しかも服装はボロボロで、酔ったら服を・・・。 なのに、みんなは彼のことを「大先生」と呼び、とても慕っていました。 私も彼に会えるのを楽しみにしていました。 「今日は会えるだろうか、明日こそは会えるだろうか」と。 念願叶って会えたら何をするのかと言うと、ただ語らうだけ。 当時、私は写真を学んでいましたので 自分が撮影している写真のテーマや読んだ本に
イギリス人男性と結婚した友人からこんなことを聞きました。 「お医者さんに子どもの蒙古斑を 幼児虐待の跡と思われて警察に通報された」 蒙古斑とは赤ちゃんのお尻が薄青い部分です。 日本人をはじめ、モンゴル人や他のアジアの民族では一般的ですが、 ヨーロッパではほとんど見受けられないのでこのようなケースが起こるそうなのです。 「知らない」ことによる誤解。 私たちは誤解によるトラブルに出会うと 「知れば誤解も解けるよ」と思ってしまいます。 知れば本当に誤解は解けるのでしょ
何かをしようとするたびに思い出すことがあります。 大学生の時に宮崎県日向市へ 自動車の運転免許を取りに行った時の話です。 3週間ほど自動車学校近くの宿に泊まり 短期間で免許を取る「合宿免許」だったのですが 宿で井村さんという男性と相部屋になりました。 当時、写真を学んでいた私は 課題提出のための撮影をしなければならなかったので 教習時間の合間をみて近所を散歩するのが日課でした。 ある時、私がいつものようにカメラを持って撮影に行こうとすると 井村さんが話しかけてきました
ずいぶん昔のことです。 夜遅く電車に乗っていると、ある駅で彼が乗り込んできました。 その瞬間、車両に乗っていた人たちは彼から少しずつ遠ざかっていきました。 彼があまりに特徴的だったからです。 顔や手は黒く汚れていて髪は伸び放題でボサボサ。 着ている服はボロボロで履いている靴も穴が開いている。 年齢は20歳前後。 彼は乗車すると、今にも転びそうにフラフラなりながら 隣の車両を覗き込んだかと思うと車両の連結部付近に倒れ込むようにしゃがみこみました。 そして、床をじっと見つめ
通学路の途中に大きな病院がありました。 その窓からはおじいさんが毎日手をふっています。 おはよう、おはよう。子どもたちに向かって一生懸命に。 少年は照れながらも、大きく手をふり返しました。 ある日のこと。 少年が病院の前を通り、窓の方を見ると おじいさんが少年の方を向いて手招きをしているのがわかりました。 他にもたくさん人がいるのにどうして? 少年は恥ずかしい気持ちをおさえて窓の下に行きました。 すると、おじいさんは窓からりんごを一つ落とし 「持っていきなさい」と身ぶり
私が大学生の時に経験した出来事です。 大学に入学したばかりの頃、親睦会ということで 友人の家で食事会をすることになりました。 集まったのは5人。私を含めた3人が先に着きました。 後の2人は遅れてくることに。 そのアパートは間取りがワンルームで壁も薄いため 角部屋である友人の部屋にいると 人が階段を上がってくる音が聞こえます。 私たちは窓から通りを時折見ながら なかなか来ない友人たちを待っていました。 その時、車が止まる音が聞こえました。 「バタン。バタン」 「コッ
学生時代、私は少しでも時間があれば 寝袋、カセットコンロ、鍋、水を持って 西日本各地を野宿してまわりました。 その時に必ず持っていくもの。 ライダー用の地図。 その名も九州沖縄2輪車ツーリングマップ。 ※今は「ツーリングマップル〈7〉九州沖縄」という名前になっています。 手のひらサイズながらかなり詳細な情報が載っています。 山岳林道から観光の名所まで。 なかにはコメント付きのスポットもあります。 「ただ走るだけ」 「夕日が美しい」 「どこを見ても山ばかり」 「ひたすら
以前住んでいた家の近所を通った時 隣に住んでいたおばあちゃんのことを思い出しました。 そのとき私たち家族は亡くなった友人の法要へ行くために 車に乗り込もうとしていたところ 買い物帰りの隣のおばあちゃんとばったり会いました。 私たちが正装していたので おばあちゃんはサラッと流すようにこう聞いてきました。 「何かあったのかい?」 いつもとは違う聞き方なのです。 私が「法事で・・・」と言うと おばあちゃんは一言「いろいろあるからねぇ・・・」 とつぶやきました。 時間に遅
ある男の子がいました。 その子は大人の人たちから問題児と思われていました。 なぜ問題児なのか? 感情をすぐに出してしまうからです。 怒って大声を出す。 泣いて黙り込む。 人を叩いたり蹴ったりする。 では、その子はなぜ感情をすぐに出してしまうのでしょうか? 別の男の子の話です。 その子は大人の人たちから優良児と思われていました。 なぜ優良児なのか? いつも朗らかでやさしいからです。 声を荒げて怒ることがない。 がまん強い。 友達にやさしく接する。
その会社はたくさんの社員がいた時期もありましたが、 今は社長と奥さんの2人しかいません。 次第に業績が悪くなり給料が払えなくなってしまったからです。 「ごめん。今月も厳しいから給料はもう少し待ってくれ」 ないと言われたらどうしようもありません。 社員はガマンするしかありませんでした。 遅れてでも給料が支払われるなら・・・と思ったからでした。 しかし、そんな状態も長くは続きませんでした。 仕事が減り、もうどうしようもなくなったのです。 社長は会社をたたもうかと思いました
月は少しの間、目を閉じました。 誰にも気づかれないように。 目を閉じるといろいろなことが分かりました。 町はずれを流れる小川のせせらぎ。 昼間、一生懸命に お母さんのお手伝いをしていたあの子の寝息。 お母さんのほうはというと あの子の頬をそっと撫でています。 月は小さな声で呟きました。 みんな、いつものようにしているのだろう。 だけど、自分はそれに気づかなかった。 日々は・・・。 そこまで言うと、月は言葉を止めて ゆっくりと息を飲み込みました。 そして、
上半身はスーツ、おへそから下はパジャマ。 写ってないから気づかないだろう。 多くの方がWEB会議の時についやってしまいます。 このエピソードを聞くたびに、モデルの写真撮影に立ち会った時のことを思い出します。 撮影場所は人気ヘアデザイナーのショー&セミナー会場でした。 ショーの合間の限られた時間の中で、撮影は行なわれました。 照明のセッティングが終わり撮影開始。 カメラマンとやり取りをしながらモデルがポーズを取り始めます。 すると、その場の空気がすっと変わります。 モデル
NiziU。 知らない人がいないくらい大人気の9人組ガールズグループです。 私はオーディション・プロジェクト「Nizi Project」のことは全く知らず、 テレビや動画サイトで見るようになって、陰ながら応援するようになりました。 先日、ネットでNiziUの興味深い記事を読みました。 オーディションの際になぜ彼女たち9人に決まったのか。 プロデューサーのJ.Y.Parkさんはこう言ったのです。 「プロとして常に安定したパフォーマンスが出せるかどうかで選んだ」 これはと