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ヒトを知る。背景を覗く。

撰石積記 voL.19 ~参与観察~

自分と比べるから、ひとを知ることができる。

ヒトと比べるから、自分を知ることができる。


嵐の夕方の、突然の電話


 きのうは嵐だった。ここにきてようやく、”天気の悪い日が続くのは、厄介なことだ” と思い始めている。

 わたしの地元は「晴れの国」という愛称を自称していて、日本の中では”晴天率”の高い地域らしい。(まぁ、それを言うと、広島や、香川といった瀬戸内沿岸地域はだいたいそれに当てはまるのだが、微妙な差が、そこにはあるのだろう。)

 晴れているのが当たり前だから、雨が降ると、なんだかウキウキするのだろうか。

 そのウキウキにも、そろそろウンザリ感が漂い始めた。


 きのうの夕方、仕事から戻ってくると、嵐が来た。すんでのところで間に合ったか、と胸なでおろしながら、窓の外の台風のような光景を、しばし眺めた。


 風呂で汗を流し、着替えてから、ようやく一息ついていたときのこと。

 鳴り響いた。

 携帯電話が。


 「酒のむか。20時から。」


 (お誘いいただいてしまった。)


 「いいですね、いきましょうよ。」

 即答した。これは以前から自分のルールとして、決めていたことだったので。

 ちょっと気乗りはしなかった。でも、まぁ、いいか。ひとりの時間はこれからいくらでもあるのだから。


 外は相変わらずの嵐だった。

 でも大丈夫だ。と、勝手にそう思い込んだ。


ドミトリーにとまる。

 困ったのは、寝る場所だ。

 いまの宿は石垣市役所周辺の繁華街からは遠く、クルマで移動しなければならない。とはいえ、酒を飲んだら運転するわけにいかなくなる。


 少し悩んだ末、安い宿を探し始めた。もったいない気もするが、車中泊もしんどいので。


 「ドミトリーか…」

 一番安いのは、それだった。素泊まり1泊1500円。安い。

 が、どうなんだろう…。正直、他人と雑魚寝のような感じになるのが苦手で、これまでドミトリーにとまったことがなかった。

 …。

 この際仕方がないか…。それに寝るだけだし。


 そう思って、意を決し。

 スマホの電話のボタンを、押した。


ここにしかないもの


 お世辞にもきれいとは言えなかった。

 でも、「ここにきてよかったな」と思った。


 ちょっとだけ、石垣島の生活が見えた気がしたからだ。


 ご家族で経営されているのだろう。小さなドミトリーだった。

 ついたときには、ご主人が応対してくれた。奥の方では娘さんだろうか、高校生くらいの女性が皿洗いをしながら、「こんにちわー」と感じよく挨拶をしてくれた。その横では、息子さん(?)が宿題をしていた。


 これが島の風景か。

 ちょっとした畳敷きの広間には、三線がおいてあるのをみて、「これが三線!!」と内心興奮した。小さなハンモックがあってみたり、中庭からは赤い瓦の屋根が見えた。

 少しだけ、石垣島の生活に、触れることができた。

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参与観察


 文化人類学の研究方法で、”参与観察 ”がある。

 自分と異なる民族、文化、風習を知るためには、自らがその一員となって時間を共にすることで、他者を理解しようとする方法だ

http://tanemura.la.coocan.jp/re3_index/3S/sa_participation_observation.html 


 自分は別に文化人類学の学者になりたいわけではない。

 むしろ、他人と関わるのは、そんなに好きではない。


 でも、なんだか。

 ただ、なんだか。

 知りたくなってきたのだ。


 楽しそうだから。


 久しく他人と会話をしないと、

 そうなっていくのだろうか。


 海、山、森。

 その辺はだいぶん散策できた。


 次は、ヒト、か。


ドミトリーのベットから起き上がる理由


 案内された自分のベットにしばらく横たわった。

 しばらくそのまま天井をみていた。


 あらく削られた板が張り付けられている天井をみて。

 こぎれいなホテルでは味わえない。

 島の空気を、吸った気がした。


 (まだ、約束の時間には早いな)


 20時の約束まであと2時間ほどあった。

 のっそりと起き上がると、三線の置いてあった広間へと歩き始めた。


 誰かいるだろうか。

 なにか面白いものがあるだろうか。


 本当に、ここには。

 ここにしかないモノが。

 あふれている。


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