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於茂登岳山頂の夢中

撰石積記 voL.25 ~のぼりながら考えたこと~

ヤシの群生を横目に、抜ける登山道


 「一時間くらいで、登れるさ」

 石垣島の御大がそういって教えてくれた。

 (あぁ、そんなもんなのか)

*****

 於茂登岳。(標高526m)石垣島北部にある沖縄で一番高い山。

 業務で使う試験圃場からよく見える山だ。下から見上げると、けっこう高い。北側から押し寄せる雲で山頂がかくれることも多かった。

 (この山、頂上まで片道3時間くらいかかるかな)

 3時間となると、”ちょっと登ってみるか” という気にもなりにくい。チャンスがあった日にいってみよう、と考えていた。


 それが思いがけず、御大に話してみたところ…。一時間で登れるとのこと。

 「何年か前に、NHKがきてさ、20㎏の機材かついで、1日に3往復してやったさ。」

 日当でけっこうな金額を受け取られたそうだが、3往復となると妥当かどうか、正直わからなかった。


 でも、意外と、簡単に登れるらしい。


 じゃぁ、いってみるか。


*****

 きのう行ってみた。

 もろくなった登山道。

 ところどころにヤシの木がのぞく森を進む。

 これが沖縄の山か…。


 もろくなった登山道。

 そんなに暑くはなかったのだが

 15分もしないうちに、

 顔を汗が、流れ始めた。

 

”もし、たどり着けないかもしれなかったら”


 登山というよりは、トレッキングと言った方がいいだろう。

 そんなに急な山道が続くということもない。


 すでに、”片道1時間くらい” との情報もあって、気楽に登っていった。

*****


 山は静かだ。

 風で木々が揺れ、鳥が鳴き、水が流れる。


 海の方が、ちょっとにぎやかだ。

 瞑想するなら海より、山だな。


 静けさの中で、自分の足音を聞く。

 ザッ、ザッ、ザッ、


 きいていると、妄想が呼び起こされる。


 ”もし、たどり着けないかもしれなかったら

  自分は、山に登っていただろうか…”


 頂上までの距離が、果てしなく遠かったら。

 頂上までの道が、わからなければ。


 それでも山に登りたいと思っただろうか…


 息が切れる。

 答えの出ない問いが。

 頭の中をめぐり始めた。

”挑戦”と、呼べるか


 できるとわかっているから、やる。

 できないかもしれないことは、やらない。

*****

 ”挑戦” を定義するなら、

 「できないかもしれないけど、やってみる。」

 そんな文脈を中心に定義されるべきだろう。


 自分のやっていることは、”挑戦”か。

*****


 なんで山に登っているんだろう。

 ・山頂からの景色がみたい

 ・気分を変えたい、石垣島を満喫したい

 ・思い出話になれば、面白い

 ・挑戦者のような気分を、味わいたい


 理由はなんだったのだろうか。

 時間があれば、ちょっと変わったことをやってみたいというメンタリティーをもつ人物に憧れるからか。


  わからない。

 わからないままに、進み続ける。


 足が少し、ふらつき始めた。

 普段の鍛錬のなさが、こうして如実に表れる。


 気づけば、1時間歩き続けていた。

 ずいぶんと歩きにくくなってきた。山頂が近づくにつれて、背の低い笹が登山道を圧している。山肌が露出している部分は滑りやすい。


 山頂はまだか…。

 そう思って歩き続けると。

 突如、標石が現れた。


 「於茂登岳、三角点、標高545.4m」


 ようやく、たどり着いた。


望むは、眼下の青海


 山頂の岩にあがり、眼下を見下ろせば。

 島を取り囲むサンゴ礁。そして、その向こうには青々として、美しい東シナ海が見えた。地上でみるのにくらべて、海が濃青で、いつもよりさらにきれいだった。

 山頂の風は強かった。汗だくの自分にはそれが気持ちよかった。


 「…、もう、なんでもえぇわ。」


 自分しかいない山頂で、

 ひとり、笑みを浮かべながら

 ひとりごちた。



 この瞬間、沖縄で一番高い場所にいるのは。

 世界で自分だけだ。


 どうでもいいことを考えるよりも、

 その事実だけを

 味わっていたかった。


*****

 風が強く吹いていた。

 その風にゆれるものは

 わたしのココロの中から

 消え去っていた。



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